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世界の注目集める「タイポップ」の魅力とは DJ817が語る沖縄音楽史との共通点

沖縄タイムス+プラス / 2024年3月24日 10時0分

長野県の音楽フェスでタイ音楽をプレーするDJ817=2018年(提供)

 「タイポップDJ」を掲げて、沖縄を拠点に県内外でタイの音楽をかけまくっているDJがいる。その名も「DJ817(ハイナー)」。
 フロアで流れるのは「モーラム」や「ルークトゥン」といった音楽のジャンル。タイ東北部・イサーン地方の音楽が、外の音楽文化を積極的に吸収したことで、唯一無二の魅力的な“なまり”を持って発展したものとされる。メコン川流域の農耕民族を彷彿(ほうふつ)とさせる直線的なリズムに、伝統楽器や電子楽器の音色が自由に交じり合い、聴き手は思わず踊り出す。
 実は、沖縄と通ずる部分が多いというタイの現代音楽史。タイポップの魅力とは? 沖縄とタイの共通点とは? DJ817の半生を通して語ってもらった。(ライター・長濱良起)

沖縄→東京→沖縄→タイへ!

 DJ 817は1984年に沖縄県内で生まれ、生後5カ月で都内に引っ越し、高校卒業まで過ごした。音楽とは切っても切れない青年期を過ごした。

 「原体験」は高校1年の時。父が関わる東京・中野のエイサー団体の参加者からターンテーブルやステレオ、レコードをたくさんもらったことだった。翌年には「野外音楽フェスに行くと、音で完全にトリップ(多幸感でわれを失うこと)してしまった」という。「気づくと50分たっていて、記憶がほぼないんです」

 琉球大学法文学部(当時)への進学を機に、沖縄へ。タイに関わり出したのは、社会学の卒業論文がきっかけだ。

 2000年代後半から、海外で特に何もせず時間を過ごす「外こもり」が一種のムーブメントとなっていた。関連する書籍が出版され始めたのもこの頃だ。

 「『外こもり』と同じように『沖縄こもり』がサブカルチャー的にはやっていたんですよ。『中心は東京』という前提に立って、『辺境の沖縄』で、うっとりしに来る。それってまさしくオリエンタリズム(※注)と同じことではないか、と。そこをテーマにして卒論を書くために、バックパッカーの聖地といわれるタイ・バンコクのカオサン通りでフィールドワークをしようと思い、2005年から2006年にかけてチュラロンコン大学に留学しました」

※オリエンタリズム…西洋の視点から東洋を解釈し、捉えること

 琉球大学在籍中からDJとして活動し、琉大に近い宜野湾市我如古で仲間と一緒にライブハウス「G-shelter」(現在は浦添市でレンタルDJブース&シアタールームとして稼働)も運営していた。そんな経験から、タイ留学中もバンコクのレストランで週に1回、DJとしてブースに立った。

沖縄でタイポップ フロアは「やべぇ!」

 タイ留学中に買いあさったCDは80枚ほどに上る。沖縄に戻り、DJとしてタイポップを流すと、聴衆の顔が見る見るうちに明るくなった。

 「みんな『やべぇ!』みたいな感じでした。タイ語で何を言っているのか分からないっていうのもあるかもしれませんが、シンセサイザーの音色や使い方が強烈なんですよね」

 こんな刺激をまさに聴衆と共有したかった。「せっかく都合をつけて夜に出かけて、お金も出して来てくれているので、新しい何かを楽しんでほしいと思って」

世界的に注目集めるタイポップ

 タイポップ(モーラムやルークトゥン)には様式美があり、音階ルールや展開の仕方、楽器構成が一定程度パターン化されている。それが「どこかで聞いたことがある」という親しみやすさの理由となっている。さらに、タイポップの新譜は「毎日のように出ている」ほど市場が活発で人気だという。

 「民謡なのに、歌詞にも、メロディーにもはやりを取り入れて、新しいものを作っているのがたまりません。例えると、(チョンマゲ姿で“サンバ”の歌謡曲を歌う)『マツケンサンバⅡ』のような曲がリリースされ続けているような感覚です」

 タイポップの中でも、モーラムは昨今、「タイファンク」として世界的な評価を高めている。タイファンクから影響を受けた米国のバンド「Khruangbin(クルアンビン)」の東京公演は3千人規模の会場を埋めた。

沖縄と通じる「ちゃんぷるー文化」

 DJ 817は語る。「沖縄の現代史を理解している人は、タイの音楽史への理解が早いです」。どういうことだろうか。

 沖縄ではベトナム戦争下、米軍駐留時の“副産物"としてロック文化が育った。日本ロック界の草分け的存在でもある「紫」がデビューしたのは1970年だった。程なくして、民謡とロックの要素を融合させた「喜納昌吉&チャンプルーズ」の「ハイサイおじさん」がヒットしたのが1977年。「沖縄ポップ」を生み出した「りんけんバンド」のデビューも同じ年だ。

 タイでも、1960年代に同じようなことが起こっていたという。休息地の機能を果たしていたバンコク近郊のリゾート地・パタヤではロックバンドが活躍。それとは別に、タイ東北部・イサーン地方では、現地の伝統的な音楽に、西洋楽器を取り入れて発展させた新たなムーブメントが起きた。

 「伝統的な文化を背景に、音楽と衣装を改造・発展させる点が、沖縄とタイに共通して見られます」

 例として同時期にリリースされた成底ゆう子の「ダイナミック琉球」(2011年)、タイの有名歌手Kaothip Tidadinの「O.K.Bau Ai」(2012年)のミュージックビデオの近似性を挙げる。

 「沖縄文化は、タイ文化を知っていく上での補助線になります。両者を比較した文化研究をやっていきたいです」

 DJ 817は2023年11月、初のミックスCD(DJが曲と曲とをつなぎ合わせた作品)をリリース。約3千キロ離れた沖縄とタイに音楽で橋を架けている。

『DJ 817 / mai phet mai kin』

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