[社説]「移住婚」支援撤回 的外れ政策が映すもの
沖縄タイムス+プラス / 2024年9月4日 4時0分
撤回したとはいえ、見当違いの方向を向いた支援策だった。映し出されたのは、女性を「産む機械」に例えた時代から大きく変わっていない政府の発想だ。
政府関係者が東京23区から結婚を機に地方へ移住する女性を対象にした支援金制度の新設を明らかにしたのは、先月27日のこと。
1人60万円を軸に、内閣官房が来年度概算要求に関連経費を盛り込むと報じられた。
しかし「結婚して移住する女性に限る」「就業予定がなくても給付する」「自治体の婚活イベントに参加した際の交通費も支援する」という事業内容から透けるのは、政府による結婚、出産の奨励である。
結婚も子どもを持つことも個人の生き方の選択であり、国がとやかく言うことではない。働かなくてもいいから来てくれというのは失礼なものの言い方。女性に限定しているのもおかしい。
案の上、交流サイト(SNS)を中心に「女性蔑視」「時代錯誤」など怒りの声が上がった。政府内からも「根本的な課題に向き合わず、婚姻で地方へ呼び寄せる施策は筋が悪すぎる」と異論が出た。
自見英子地方創生担当相は30日、構想を事実上撤回する方針を明らかにした。
少子化対策を巡って、2007年に柳沢伯夫厚労相が女性を産む機械に例え批判を浴びたことを思い出す。13年には妊娠適齢期などを記した「女性手帳」配布の動きが大きな反発を招いた。
その発想が脈々と生きているとしたら、問題は小さくない。
■ ■
政府が検討していた「移住婚」支援金は、若い女性の東京への流出が続く中、一極集中に歯止めをかける狙いがあったという。
23年の人口移動報告によると、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が約6万8千人で、うち女性が約3万7千人を占めている。進学や就職を機に上京した女性は地元に戻らない傾向が強く、地方は男性の未婚者が多くなっている。
ただ地方から女性が流出する原因は、就業先の選択肢の少なさや男女の賃金格差、性別役割分担意識の根強さなどジェンダー平等の遅れにあるとされる。
共同通信社が全国の自治体に行ったアンケートでも、女性流出に男女格差が影響しているとの回答が60%に上った。
女性たちの働きにくさや生きづらさの本質に、どう向き合っていくのか。
■ ■
30日の会見で自見氏は「男女の賃金格差やジェンダーバイアスなどで苦しんでいる国民の声にしっかりと耳を傾けた上で対応すべき」と述べた。
政府がやるべきことは、単なる移住促進ではなく、働く場の男女格差をなくし、子育て環境を整え、女性が暮らしやすい地域となるようなきめ細かな支援である。
自治体間で差が生じないよう、子育て支援では医療費や給食費の無償化にも踏み込むべきだ。
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