[社説]公益通報と処分 兵庫県知事 進退決断を
沖縄タイムス+プラス / 2024年9月11日 4時0分
最も問われているのは、不正や違法行為を正そうと、意を決した公益通報者の保護の在り方である。
兵庫県の西播磨県民局長だった男性が3月、斎藤元彦知事のパワハラや贈答品の受け取り、プロ野球阪神とオリックスの優勝パレードに関わる経費を巡る不正など7項目を告発する文書を報道機関などに配った。
文書を入手した斎藤氏は、当時の副知事らに告発者の特定を指示した。副知事らが男性を追及し、文書作成を認めさせ、パソコンなどを押収している。
斎藤氏は3月27日の記者会見で「うそ八百」「公務員として失格」と厳しく非難した。
男性は4月に入って県の公益通報窓口にも通報した。しかし、県は公益通報者保護法の対象外と判断し、5月に停職3カ月の懲戒処分とした。
男性は7月7日、死亡した。「死をもって抗議する」というメッセージを残していた。
斎藤氏は、公益通報として扱わなかった理由を「核心の部分が真実ではない」と繰り返した。
兵庫県議会は調査特別委員会(百条委)を設置し、調査を進めている。
非公開の尋問で、ある職員は「公益通報窓口の判断が出るまで処分すべきではないと上司に伝えた」と証言した。しかし、「政治判断」があり、最終的に処分に従ったと明かしている。
斎藤氏の指示とは別の調査が走り出す中、その結果を待とうという一部の声を無視した形になる。なぜ急ぐ必要があったのか。
■ ■
斎藤氏は「文書は誹謗(ひぼう)中傷性が高い」と、処分の正当性を主張している。
一方、百条委による県職員アンケートで、4割以上が斎藤氏の「パワハラ」を見聞きしたと回答した。
「おねだり」疑惑では斎藤氏自身が企業などからの贈答品の受け取りを認め、「社交儀礼の範囲内」と答えている。
いずれも告発の一部を裏付ける内容である。
当事者である斎藤氏が告発者を捜し、調査に関与することは、通報者保護法の趣旨を著しく逸脱している。
また公益通報者に対する不利益な扱いを禁じていることから、懲戒処分を受けた男性が亡くなった結果は、非常に重い。
通報者保護の実効性が備わっていないなら、法改正を含め、制度の立て直しを議論する必要がある。
■ ■
参考人として百条委に出席した公益通報の専門家は「公益通報に当たらないとの判断が拙速で、知識の欠如と思い込みで前時代的な対応を取った」と述べ、違法性を指摘している。
3年前の知事選で斎藤氏を推薦した日本維新の会や自民党など県議会の全会派が辞職を要求する状況だ。
斎藤氏は辞職を否定し、「訴訟になっても耐えられる」と強気の姿勢を崩さないが、説得力に乏しいと言わざるを得ない。
責任と向き合い、身を引くか、主張が正しいと思うのであれば、出直し選挙で県民の信を問うべきだ。
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