映画『サンセット・サンライズ』主演・菅田将暉「思っていることを100%伝えられるなら、映画はいらない」【インタビュー】
ORICON NEWS / 2025年1月17日 8時30分
近年特に若い世代にも注目されさまざまなメディアでも取り上げられている“移住”が大きなテーマの一つでもある映画『サンセット・サンライズ』が17日より劇場公開。楡周平原作の同名小説 (講談社文庫)を原作に、岸善幸が監督を務め、宮藤官九郎が脚本を担当。コロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、震災などの社会問題にもユーモアをもって向き合い、現代を生きるわたしたちの〈新しい幸せのカタチ〉を提示する。
【動画】映画『サンセット・サンライズ』泣き笑いガイド映像
主人公は都会から宮城県・南三陸にお試し移住するサラリーマン、西尾晋作。自分に正直に生きるエネルギーで人の心を動かしつないでいくキャラクターに、等身大の存在感を保ちつつ軽やかな息吹を吹き込んだ主演の菅田将暉にインタビューした。
――岸善幸監督とは7年ぶりのタッグになりますね。『あゝ、荒野』(2017年)を撮り終えた後、「次は笑える作品がいいよね」と話していたそうですが、その点について教えてください。
【菅田】岸監督とは『二重生活』(2016年)と『あゝ、荒野』でご一緒して、その2本で積み重ねた時間があったからこそ、『サンセット・サンライズ』のような作品ができたと感じます。今回は笑顔がしっかり見える映画というか…。
――脚本の宮藤官九郎さんは、「菅田くんが郷土料理のどんこ汁を本当にうれしそうに食べているのが、僕の映画じゃないみたいですごく好き」とコメントされていましたが、実際どうでしたか?
【菅田】撮影期間中に食べたものは、どれもめちゃくちゃおいしかったです。この映画では「食」がすごく大事な要素ですし、土地のものを堪能するのは地方移住の醍醐味でもあります。そこは素直に楽しめました。
――宮藤さんの作品に初めて参加されましたが、どんな印象を持ちましたか?
【菅田】宮藤さんの作品は舞台も映画もドラマも、数えきれないくらい見てきました。実際に演じてみて思ったのは、宮藤さんのせりふはどこかシャイなんです。例えば「本当はあなたのことが好き」と言いたいけど、直接は言えないから別の行動に出てしまうとか。それが笑いになったり、距離が生まれたりして…。そういう恥じらいというか、照れ屋な感じがすごく好きだなと感じましたし、見る人の心に刺さる要素だと思いました。
劇中の芋煮会のシーンで、「なんでこんなに切ないんですか」と言うせりふがあるんですけど、それがとても宮藤さんらしいと感じました。「つらかったですね」と言葉で寄り添おうとはせず、どうしていいかわからないという前提で、「切ない」と言うところに宮藤さん独特の味わいがある。言葉選びの感覚がすごく冴えている方だと改めて思いました。
――自分の気持ちを言葉にするのは得意なタイプですか?それとも難しいと感じることがありますか?
【菅田】全てを伝えようなんて思っていません。自分の思っていることを100%伝えようなんて傲慢というか、それができるんだったら映画はいらないんじゃないかと思うんです。ただ、たまに全部言わなくても伝わる人もいますが、自分は「こう思う」ということは最低限具体的に伝えるようにしています。インタビューに答える時も、伝わりやすい言葉を心がけています。素直に話して、あとは受け取る人にお任せしています。
■俳優の世界に飛び込んでみたら、まさかの人生が待っていた
――映画のキャッチコピーに「お試し移住してみたら、まさかの人生が待っていた」というフレーズがあります。菅田さん自身も、何か新しいことに飛び込んだ経験はありますか?
【菅田】僕のこの仕事自体がそうですね。16歳で上京した時、本当に何も考えてなかったんです。地元にいるのが嫌で、「毎日同じ景色を見てるな」と感じていて。きっかけは雑誌のコンテストだったのですが、その後、「仮面ライダー」のオーディションに受かって、「新しい場所に行ける!」と思って俳優の世界に飛び込んだ感じです。
この映画で演じた晋作はもっと考えて行動するタイプですが、僕は「これ楽しそうだな」と思うことには飛び込むタイプです。たとえ失敗しても「好きでやったんだから仕方ない」と思えるし、飛び込むことに意味があると思いますね。人生ってそういうもんだよな、とどこかで思っています。
――劇中のコロナ禍の描写も印象的でした。芋煮会のシーンで、みんながフェイスガードをつけている姿を見て、「あの頃、本当にこんなことをしていたな」と思いました。
【菅田】本当ですよね。芋煮会のメンバーは大真面目にやっているんですけど、客観的に見るとなんだか笑えてくるところもありますよね。
――エレベーターの中で全員がマスクをしている描写もありましたね。当時は当たり前でしたが、2年ほど経つと「あったな」と思いつつ忘れかけている部分もあります。菅田さんにとって、コロナ禍で特に覚えていることは何ですか?
【菅田】覚えているのは、コロナが広がり始めたタイミングです。2020年の初め頃、クルーズ船での集団感染があり、日本でも3月ぐらいから感染が広まって「本当に止まった方がいいんじゃないか」となった。4月から5月にかけては、完全に世の中が止まりましたね。
実はその年の夏から少し休もうと思っていて、頑張って働いていたんです。でもコロナ禍でみんなが休みになり、自分の予定していた休みもなくなったんです。「このタイミングか…」と思ったのを覚えています。
芸事というのは有事のときに弱いですね。保証もないし、大人数が集まらないと成り立たないことを痛感しました。ただ、ラジオだけは続いたんです。テレビや舞台は止まったのに、ラジオは毎週放送されていて、改めてラジオのパワーを感じました。
――家で過ごす時間は楽しめましたか?
【菅田】家での生活は楽しかったです。見逃していた映画やジブリ作品を一気に観ることができて、充実していました。料理も楽しかったです。普段からどんな状況でも楽しめるものを見つけるようにはしてます。
――映画『サンセット・サンライズ』のどんなところが気に入っていますか?
【菅田】この映画で「いいな」と思うところは、最終的にみんなが「身勝手」であることなんです。みんなそれぞれの人生があって、自分のやりたいことや思いがある中で、「私はこうしたい」「僕はこうしたい」と、それぞれが自分の意志を貫いた結果、新しい家族の形ができたり、まとまらなかったものがまとまったりする。
コロナ禍や震災という題材が描かれていて、「どうコミュニケーションを取っていいかわからない」という状況があるなかで、確かに最初は戸惑いもある。でも、この映画は「これからの時代、好きにお互い意見を言っていいんじゃないか」というメッセージを持っている作品だと感じました。そこが一番心に響いたし、この映画が「いいな」と思った理由です。
――お話ありがとうございました。
撮影:松尾夏樹
ヘアメイク:AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
スタイリスト: 二宮ちえ
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