「タガが外れる」とこうなる 太鼓職人の投稿に関心集まる
おたくま経済新聞 / 2020年9月1日 12時0分
タガが外れると板は内側に倒れる
現在、日常生活で木桶を使うことはあまりありませんが、それでも桶に由来する言葉はいまだ現役。その中でも「タガが緩む」や「タガが外れる」という言葉は聞く機会も多いのでは? しかし実際にタガが外れるとどうなるのでしょう。ある太鼓職人が実演した動画が、Twitterでイメージと違って意外だと反響を呼んでいます。
この動画をツイッターに投稿したのは、愛知県岡崎市にある「三浦太鼓店」の六代目彌市さん。三浦太鼓店は、幕末の1865年に創業したという老舗です。
桶の外側からギュッと締め付けているタガを少しづつずらし、上から抜き取ります。すると、胴を構成していた板は、中心に向かってバタバタと倒れ込んでいきます。
この動画には「言葉的には、外へ向かって拡散爆発するかのごとく派手なイメージだった」と、予想と違う板の動きに驚くリプライなどが寄せられています。確かに「タガが外れる」という言葉には、押さえつけられていたものから解放され、自由に振る舞うという意味があるだけに、気持ちの上では外に解放されるイメージですものね。
しかし実際は……というと、桶はタガをはめる関係で胴は垂直にはならず、一方の口がわずかに小さくなっているもの。タガを外す時は、その小さくなっている方へずらして抜くことになります。
自然と胴の板は上の方が内側に傾いた状態になり、タガが抜けた部分から内側に倒れ、そこから連鎖してバタバタと倒れていくわけです。もし平均して同時にタガを抜くことができれば、板は互いに支え合って倒れないのですが、実際はタガを抜く際の衝撃でバランスが崩れ、傾いている内側に倒れてしまうのですね。
さて、タガが外れるとこうなる、という原理は分かったものの、なぜ太鼓職人が桶を作っているのでしょう。実はこの桶、太鼓の胴部分。動画は木桶と同じ構造の胴を持つ、桶太鼓と呼ばれる太鼓づくりの作業風景だったのです。
底のない桶と同じ構造の胴を持つ桶太鼓は、丸太をくり抜いて胴を作る太鼓に比べて軽量で、大きなサイズも容易に作ることができます。青森県弘前市のねぷたまつりなどでは、大人の身長ほどもある大きな太鼓が出てきますが、それはこの桶太鼓と呼ばれるもの。
実はこの桶太鼓、近年の和太鼓楽団で広く使われるようになり、大人気なんだそうです。軽量で持ち運びも楽な上、大きく外見のデザインも自由度が高いため、ステージ映えするのが人気の要因なんだとか。
通常の場合、桶太鼓の胴部分は専門の桶職人に作ってもらうものだそうです。しかし、このところ木桶の需要はなくなり、職人も高齢化と後継者難で減る一方。いくら桶太鼓が人気でも、肝心の胴部分を作る人がいなくなってしまえば作ることができません。
そこで三浦太鼓店の六代目彌市さんは、桶胴作りを自分たちでマスターし、伝統を繋ごうと一念発起。2016年から桶職人に弟子入りし、桶づくりを学んで桶太鼓の完全自家生産を始めたといいます。
丸太をくり抜いて胴にする太鼓づくりで、木工についてのノウハウはあったものの、桶づくりは全然違うものだったと六代目彌市さん。木の削り方ももちろんですが、タガに使う竹の加工は特に難しく「竹を切っていい時期とだめな時期があるんです。竹が水分をあまり含んでいない時期に切らないと、竹に含まれた栄養が虫食いを呼んで、タガがすぐボロボロになってしまうんです」と、桶づくりを手掛けるようになって初めて知った桶職人の技と知恵に敬服したと語ってくれました。
2018年からは、今は亡き桶職人の地元である秋田県へ出向き、秋田杉の原木から買い付けることをスタート。通常2〜3年の乾燥期間を必要とするので、最初に買い付けた原木を使っての桶太鼓づくりがいよいよ始まります。「多分、これからも先人の知恵と技術のすごさを実感すると思います」と六代目彌市さん。
現在は太鼓用の桶づくりを手掛けている三浦太鼓店の六代目彌市さんですが、将来的にはもっと大きなサイズ、地元岡崎市特産の八丁味噌を仕込む桶も手掛けられるようになれれば、地元の伝統産業にも役立てるかもしれない、とのこと。「今回の動画をきっかけに伝統技能に興味を持ち、それが途絶えそうになっていることを知ってもらえたら」と話していました。
タガが外れるとこうなります🤣#タガ pic.twitter.com/bV1ImofdPT
— 三浦太鼓店の六代目彌市 (@rokudaimeyaichi) August 21, 2020
<記事化協力>
三浦太鼓店の六代目彌市さん(@rokudaimeyaichi)
(咲村珠樹)
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