兵士の息づかいが聞こえてきそう ディティールを凝縮した戦車の内装モデル
おたくま経済新聞 / 2022年7月14日 15時0分
ヤークトパンター(奥)とパンター(手前)のインテリアモデル(kowさん提供)
プラモデルの中でも根強い人気のミリタリーモデル。特に戦車や自走砲といったAFV(装甲戦闘車両)は、様々なキットがリリースされ、単体で作るだけでなくジオラマにして楽しむ愛好者が多いことで知られます。
これらの車両、外観はよく目にしますが、内部はどうなっているのでしょう?装甲に覆われた内部の様子を、様々な資料をもとに模型で再現するモデラーがいます。
戦車をはじめとするAFVの内装を、1/72スケールで再現しているのはkowさん。最初はガンプラから始まったものの、ジオラマから1/72スケールモデルの世界に足を踏み入れたミリタリーモデラーです。
実はkowさん、社会人になって以来しばらく模型作りから離れていたという、いわゆる「出戻りモデラー」。
2年前、数十年ぶりに戦車モデルの世界に戻ってみると豊富なキット、なかでも内装を再現した「フルインテリアキット」と呼ばれる商品が数多くリリースされていることに驚いたといいます。
まずは日本でポピュラーな1/35スケールのフルインテリアキットを手にし、その精密さとマニアックなほどのラインナップに感動したんだそう。しかしその一方、細かく内装が再現されている分、パーツ数も多く高価なため、数多く買い揃えようとするとお財布に優しくないのが玉にきず。
「私は自宅に自作マシニングセンタを持っており、金属加工で色々と工作をしているのでCADが少々使えます。ちょうど3Dプリンタが普及してきた頃でもあり、それなら大好きな1/72の世界でそれ(フルインテリアキット)を実現してしまえ、と挑戦してみました」
手のひらサイズの1/72スケールだと、家庭用の3Dプリンタで出力するにもちょうどいい大きさ。こうしてCADで設計し、3Dプリンタで出力した第1作のキット「ヤークトパンター」が完成しました。
完成までは「モデリングにおそらく200時間くらい、3Dプリンタの出力調整に50時間くらい」という苦労の末、出来上がった駆逐戦車ヤークトパンター。選んだ理由として「個人的に好きな車両であること、88mm砲がとてもかっこよく『映え』ること、砲塔がないので1作目としてはちょうどいい難易度であったこと」を挙げてくれました。
車体の中央にあるのは、ティーガーIIと同じく71口径の8.8cm戦車砲。戦闘室側面には弾薬架があり、砲弾が弾種ごとに整然と並びます。車体後部にはV号戦車パンターと同じく、マイバッハのV型12気筒エンジン。
作品をFacebookの海外フォーラムで紹介したところ、反響が大きく「それなら頑張ってみるか」と継続的に作品を作るようになったのだとか。まずは車体コンポーネントが共通するV号戦車パンター、ベルゲパンター戦車回収車と派生モデルが生まれました。
スケールモデルを作る際、参考となるのが資料収集です。特に内装を再現するインテリアキットの場合は重要で、手に入るだけの実物写真を書籍やネットで収集しているといいます。
「ヨーロッパの博物館では戦車のオーバーホール風景を公開してくださっており、とても助かっています。市販のフルインテリアキットのデッドコピーを作ることは許されないので、市販のキットを資料として使用することは避けています」
実物のディティールを可能な限り詰め込んで設計しているそうですが、場所によっては強度が足りなくなる部分もあるため、やむなく妥協する場合もあるとのこと。「考証よりは『組み立てられる模型』として成立することを優先しています」とkowさんは語ります。
1/72スケールだけでなく、指先サイズの1/144スケールの作品も。こんなに小さくても、細部のディティールをギュッと凝縮したモデルのせいか、重量感を感じさせてくれます。
これまでの作品でお気に入りをうかがうと、第1作のヤークトパンターと最新作のヤークトティーガーを挙げてくれました。
「ヤークトパンターは思い出深く、また個人的に大好きな作品です。逆に現時点での最新作であるヤークトティーガーも、自分の技量の向上が感じられる作品です」
戦車のインテリアキット、その醍醐味は「人が動かすマシン」だと想像できること、とkowさんは語ります。モデリングの際は、その機器がどんな目的で、どう扱うために配置されているのかを理解してモデリングし、その積み重ねが「魂の入り具合」に影響していると考えているそうです。
「ヤークトパンターは車体中央に巨大なアハトアハト(8.8cm砲)が鎮座しており、その左右には壁のように山積みされた砲弾がひしめいている。この隙間で搭乗員は戦うわけです。射撃時の轟音や硝煙すら想像できます」
現在、kowさんは小型駆逐戦車ヘッツァーの設計を進めています。今後については「主に海外の方からシャーマン系統のインテリア開発のリクエストをいただいております。ですが、ヘッツァーに続いてIII号、IV号といったドイツ戦車を一通りラインナップする方が先だと思っています」と、まだまだ作りたい、作るべきモデルはたくさんあるようです。
kowさんが設計した戦車などのインテリアキットは、Amazonマーケットプレイスで「Jisaku Yaro」の名称で販売されているほか、ebayにも「koii_0」の名称で出品されています。RevellやDragonといった海外メーカーの1/72スケールキットへ組み込めるようにもなっているので、手持ちのキットを活用することもできるそうです。
(私にとって)記念すべき、1/72フルインテリアシリーズの第一作目です!
#名刺代わりの作品をあげてください pic.twitter.com/qfgtRdvsyQ
— kow (@kow_2002) July 4, 2022
<記事化協力>
kowさん(@kow_2002)
(咲村珠樹)
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