「 陰キャ」にはつらすぎる集団生活。窮屈な宮中ぐらし、まひろはブレずに「自分らしく」いられるのか?【NHK大河『光る君へ』#32】
OTONA SALONE / 2024年8月26日 18時0分
*TOP画像/まひろ(吉高由里子) 大河ドラマ「光る君へ」 32話(8月25日放送)より(C)NHK
紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第32話が8月25日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
まひろは生まれてきた意味を見つけることができるのか
本放送では、まひろ(吉高由里子)が『源氏物語』の続きを道長(柄本佑)のそばで綴るシーンがありました。
道長は自身の最愛の女性が執筆に集中する姿をあたたかく見守っています。まひろが物語を綴る姿をながめながら、「俺がほれた女は こういう女だったのか…。」という思いがふと込み上げてくることも。言の葉をつなぐまひろに向ける道長のまなざしは優しく、(史実とは異なる可能性が高いものの)『源氏物語』がこのように書かれたのだろうかとイマジネーションをふくらませるとステキですよね。
一条天皇(塩野瑛久)はまひろが綴った物語を自身への当てつけとして一度はとらえたものの、物語やこの物語の書き手に興味をもちます。
彼はまひろが綴った物語には唐の故事や仏の教え、国の歴史がさりげなく取り入れられていることに気付き、書き手の博学ぶりが無双であると評価します。そして、書き手に会うことや物語の続きを読むことを切望するのです。
そんなある日、道長は「中宮様の女房にならぬか?」とまひろに率直に尋ねました。
まひろは「は?」と驚きの声を上げた後で、「続きをお読みくださいますならこの家で書いて お渡しいたします」と返事をし、女房の誘いにのりきではない様子。しかし、道長や彰子(見上愛)の事情、さらには我が家のことも鑑みて、この話について真剣に検討します。
まひろは家族の生活のためにも宮中に上がろうと考えていることを為時(岸谷五朗)に告げます。為時は老人扱いするなとしたうえで、「されど 帝の覚えめでたくその 誉れを持って藤壺に上がるのは悪いことではないぞ」と娘の背中を押しました。
為時は学問が好きで、賢いまひろに向かって「男であったなら」と度々こぼしていました。このような思いを抱えていた為時でしたが、まひろが出仕する際に「お前が…女子であってよかった」と娘のジェンダーをはじめて肯定します。
まひろは「男であったなら 勉学にすこぶる励んで 内裏に上がり 世を正します」(9話)と過去にもらしたこともありました。現段階では、まひろが自身の夢を実現するためにどのように動くことになるのかまでは見えてこないものの、勉学に励み、知性が認められたからこそ、内裏に上がる夢が実現したのです。彼女の願いは、“私らしく自分の生まれてきた意味を見つけること”ですが、この夢の実現にも一歩一歩近付いていると思います。
女にできることなどほとんどないと考えられていた時代ですが、中下級貴族の娘でしかなかったまひろは物語によって帝にもその存在を認められます。それは、まひろが大きな夢を抱きながらも、自分の心に正直だからです。また、こうした姿を世間の常識にとらわれず、あたたかく見守る為時や惟規(高杉真宙)の存在も大きいと思います。
【史実解説】女房は「ネクラ女性」には不向きな職業?紫式部は人間関係に悩んでいた
次週以降、本作ではまひろの宮中での暮らしが描かれると思いますが、史実における紫式部の宮中での様子を少しのぞいてみましょう。
紫式部は彰子の女房にならないかという誘いを受けたとき、宮仕えは落ちぶれた女のすることとして、気乗りしなかったという説があります。彼女が宮仕えを決めたのは宮中に対する憧れや自身の見識を深めるためというよりも、父・為時の年齢なども鑑みた経済的な事情によるといわれています。
女房は帝や中宮、その子どもたちとの距離が近く、宮中の行事など貴重な体験ができるものの、日々の暮らしは大変なものでしょう。就寝時は複数人の女房との相部屋になることが多いため、プライベートな空間の確保は難しいと考えられます。また、女房は人にお仕えする立場ですが、彼女たちの多くが実家では「姫さま」と呼ばれる身分です。例えば、本作では、まひろは乙丸(矢部太郎)やいと(信川清順)を従えていますし、賢子(永井花奈)のおしめ交換は基本的には乳母の仕事でした。女房として宮中に入ると、自分や我が子が他人にしてもらっていたようなことを、中宮やその子どもに行わなければなりません。
さらに、宮中では人間関係の悩みがつきものです。同僚から気に入られなければ、悪口や無視の対象になることも。紫式部も無視やあからさまに表される嫌悪感に悩まされることもありました。
また、紫式部は自身が属する彰子サロンについて気を揉んでいたと考えられます。清少納言が属していた定子サロンは華やかで、宮中の男たちを惹き付けていましたが、紫式部が属していた彰子サロンは魅力がいまひとつ欠けていたよう。紫式部はサロンの状況や彰子に仕える女房たちの振る舞いに批判的なまなざしを時には向けていました。
▶つづきの後編記事『平安時代、藤原道長も「肝試し」をしていた⁉ しかも、都には「鬼」まで棲んでいたなんて、コワッ!』では、平安時代における「鬼」について見ていきます。作品の背景を深掘りすることで、物語をもっと楽しむことができるはずです。__▶▶▶▶▶
参考資料
木村朗子『紫式部と男たち』文藝春秋 2023年
倉本一宏 (監修)『大河ドラマ 光る君へ 紫式部とその時代』宝島社 2023年
≪アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗さんの他の記事をチェック!≫
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