「えっ。塾に出かけていたのに、ずっと出席していなかった⁉」成績は右肩下がりに。理由を問い詰めると、ショッキングな答えが!
OTONA SALONE / 2024年9月3日 15時31分
発達障害と診断された愛梨さん(13歳・仮名)。日本語も英語もそのままでは読みづらく、中学に入ると成績が右肩下がりに落ちてしまいました。他にも、忘れ物が多いなど発達障害の様々な影響が出る中、母親の玲奈さん(仮名)も苦悩しました。しかし、愛梨さんと共にもがきながら、考え方が少しずつ変わっていったそうです。
【発達障害、生きづらさを考える #5 後編】
板書についていけない、頭に入らない
愛梨さん(13歳・仮名)は、中学1年生の時、塾の夏期講習やその後の授業にも行かず、駅ビルをうろうろして時間潰しをしていました。塾に行くふりをして定刻に家を出て、何事もなかったような顔をして時間になると帰宅していたのです。
玲奈さんは、「どうして相談してくれなかったの?」「なんで行かなかったの?」と愛梨さんを問い詰めました。すると愛梨さんは、「授業についていけなかった」とボソッと呟きました。
「ショッキングで、分からないことがあれば先生に聞けばいいと思いましたが、よく話すと、板書を書く先生のスピードに追いつけないのだと分かりました。後に、大学病院で診察してもらった時に先生に相談したら、学習障害も入っていると言われました。知能指数的には問題ないのですが、目で情報を取るスピードが追いつかないのです。国語の教科書を読むのにも、とても苦労していたと初めて知りました。」
愛梨さんは、本を指で追ってたどり読みしないと、内容が頭に入らなかったのです。
「紙の材質や書体によっても見えやすいものと見えないものがあるらしく、黒い文字が色付きの文字に見えることもあるそうです。私もびっくりしたのですが、愛梨にとってはそれがスタンダードなので、『みんなもそんなふうに見えているんじゃないの?』と驚いていました。
授業だけでなく、試験問題もまっすぐ読みづらく、文字の下に直線を引くと読みやすくなるそうです。英語の試験では、何も書いていない透明な定規を持ち込むことを許可してもらっています。定規を当てると1行ずつ読めるのですが、何もないと混乱して読めなくなるそうです。定規を使うだけでものすごく点数が変わります。」
小児科では、「学習障害だと思います。そういう子が一定数います」と言われ、詳しい検査をするために待機中だという愛梨さん。検査は8ヶ月待ちなので、11月まで待たなければなりません。
玲奈さんは、成績がどんどん下がっていくのでおかしいと思っていたと言います。しかし、その原因が学習障害だったとは夢にも思いませんでした。このままにしておくわけにはいかないと、玲奈さんはある行動に出ました。
タブレットで黒板を撮影させて
板書が追いつかないから授業についていけない。そうと分かった玲奈さんは、12月、学校から配布されているタブレットで黒板の撮影をさせてほしいと、学校にお願いしました。
ところが、返ってきた答えは「許可できない」でした。
「若い先生はすごく早く理解してくれました。でも、一人だけ許可してしまうと、『差別だとかずるいだとかいう声が出るかもしれない』と懸念されたのです。『撮影したい人は撮影していいよ』と声掛けしたり、先生が撮影してタブレットに一斉送信したりすると提案してくれた先生もいました。でも、国語の先生が、『国語は自分で書いて覚えないとダメだ』とおっしゃったそうです。」
しかし、文部科学省は、「障害のある子どもには合理的配慮や環境整備が必要」としています。そのことを知っていた玲奈さんは、教育委員会に相談しました。
「相談窓口の方も、『それはちょっとまずいですね』と言ってくれました。ただ、教育委員会から学校に連絡するとどうしても摩擦が生じるので、私からもう一度お願いしたほうがいいと、一緒に色々考えてくれました。私も娘がお世話になっているので、学校と喧嘩したいわけではありません。もう一度学校に電話して、『本人に勉強したいという意志があるので、なんとかしてあげたい。やはり難しいでしょうか・・・』と、下手に、下手に出てお願いしました。」
理不尽だけど、子どものために頭を下げる
学校には、「発達障害の子どもがいるお母さんは感情的になる人が多い」と思っている人も少なからずいるそうです。
「最初断られた時はカーッと頭に来て、うちの子が撮影したいと言っているのに、うちの子の責任じゃないのに、なんで断るんだろうと思いました。でも、そこで感情に任せて言葉を発すると、『あそこのお母さんは感情的になる人だ』というレッテルを貼られます。それは愛梨のためにならないなと思いました。」
玲奈さんは、学校ともめてもデメリットしかない。なんとかなるなら頭を下げようと思ったそうです。一番何に重きを置くか考えた時、「子どもが学校で円滑に生活できること」が第一の目標だったと言います。
「すごく言い方は悪いけど、先生に同情的に考えてもらった方が愛莉のためになるという打算も多少ありました。学年主任に電話をして話を聞くと、『学年会議でも話が出ました。もう少し時間をください』と言われました。話をよく聞くと、国語は二人先生がいて、一度退職して嘱託で来られた年配の先生が反対したと分かりました。他の先生があまり強く言えなかったそうです。」
現代文の若手の先生は、「お力になれずすみません。はっきり約束することはできないが、2年生になったら撮影できるように動きたい」と言ってくれました。
自分の子どもを障害者にしたいの?
小学校の頃と変わらず、相変わらず忘れ物が多いそうですが、それは直りそうにありません。しかし、玲奈さんが気をつけるように促すことでなんとかカバーしていると言います。時間の概念もなく、予定があっても逆算して動くことができないので、出かける時間ギリギリになって、『あれ持っていない、これ持っていない』と遅刻してしまうことも度々あると言います。
「あらかじめ予定を聞いておいて、どこそこに着くには何時に家を出なければならないとか何時にご飯を食べ終わらなければならないとか教えておきます。スマートウォッチを持たせて、ことあるごとにアラームが鳴るようにしたら、普段は時間を気にしない子ですが、アラームの音や振動の刺激が伝わるので、『あっ』と思うようです。」
中学に入学してから、玲奈さんは愛梨さんに、「みんなと同じように進学して、良い学校に行ってもらいたい」と考えていました。しかし、今は、愛梨さんが発達障害だということに正面から向き合っています。
「愛梨が小学生の時、『発達障害の傾向があるからテストを受けさせようと思っている』と私の母に言ったことがあります。すると、『なんであなたは自分の子どもを障害者にしたいの?』と言われました。今はその気持ちも分かりますが、問題を抱えて生きていることに気づいてあげないと、本人はずっと辛いまま一生を送るでしょう。母には、『手助けすることでもっと楽しく生きられるなら、そのほうがいい』と言いました。」
ストレスなく、楽しく生きてくれたらそれでいい
愛梨さんのために学校に頭を下げて、家庭でも手助けしている玲奈さん。愛梨さんは玲奈さんに、「お母さんが色々調べてくれたり、病院に連れて行ってくれたりして良かった。放課後デイサービスにも通わせてくれて、私、生きることが楽しくなった。こんなに動いてくれるお母さんじゃなければどうなっていたか。」と言ってくれたそうです。
愛梨さんは幼い頃、スイミングスクールに通っていたので肺活量がありました。そのため、吹奏楽部でもオーボエを担当することになったのですが、玲奈さんは、「人生が楽しくなる一つの手段としてオーボエを使ってくれたらいい」と考えています。
「特別な音楽的才能があるとか、それを職業にとまでは考えていません。好きなことができて、愛梨の人生が豊かになればそれでいいと思っています。愛梨の場合、学習障害があるので入試が大きなハードルになります。たまたま近くに吹奏楽部推薦入試の制度がある高校を見つけたので、勉強への意欲を高めるためオーボエを買って、『(その高校の)吹奏楽部に入れるといいね』と後押ししています。」
岡田隆先生のここがポイント!
得意科目と不得意科目といったように、科目単位でものを見がちです。しかし、同じ算数といっても、計算問題と文章問題では求められるスキルが違います。文章問題では、書かれている内容を頭の中で整理し図解することが求められます。さらに、決められた解答欄の広さの中にうまく収めなければなりません(器用にコンパクトな字が書けるとも限りません)。複雑な計算などは、問題用紙の余白や解答用紙の裏に書くという要領の良さも求められます。図形の問題は、補助線を引くなどして、さまざまな視点で図形を見ることが求められるでしょう。
国語の文章も、A4用紙を横向きにおいて上半分に書かれている場合もあれば、A4用紙の縦向きにして、1行が上から下まで続く場合もあります。注視点の運びを考えたとき、後者のほうが難しいですし、次の行を読むときに行を読み飛ばしたり、いろいろな行が目に入ってどこを読んでいいか分からないこともあります。読解力の問題といいますが、実際には文章の中から要領よく該当箇所を探す、という作業が多いものです。そうすると、文章をざっと目を走らせてみるスキルが求められるのです。このように見ていくと、一つの科目でつまずきがあったとしても、その科目全体ではなく、その問題を解くに必要なスキルのどこかに困難があると考える方が適切なのです。
しかし、実際はどうでしょうか。テストの点数が取れないとき、努力が足りない、何度も繰り返しなさい、といいます。何度も読むと覚える、手で書いて覚えるという指導もあるでしょう。実際、音読のたどたどしい子がすらすら読めるようになります。しかし、それは目の運びがうまくなったのではなく、ただ耳が覚えているだけであることが多いものです。逆に手で書くと形を取るのに必死で、目で見た方が覚えられる子もいます。マンツーマンでついて教えてみると、音読をすればしっかりと理解できていたり、問題を図解するとそこから先はできたり、文章全体ではなくパラグラフごとに要約すると、十分に内容を理解することができたりする子もいます。そのようなとき、「本当はわかっているんだけどね」とか「じっくり取り組むとできるんだけど・・・」といわれがちですが、横で助け舟を出した特定のステップが、本人には困難なスキルなのかもしれない、という視点も大切なのです。
このようなとき、ただその科目の課題をやらせるだけでは、その科目が苦手である、その科目が嫌いだ、となってしまいます。その課題で求められるスキルのどこが苦手で、どこは問題がないのか、あるいは得意なのか、という視点で考える必要があるのです。
小学校に入学した頃には、「分かち書き(※)」がしてあります。ノートもマス目のノートだったでしょう。しかし、それが字がどんどんと小さくなり、行間も小さくなっていきます。ノートも罫線だけのノートになり、解答欄が余白ということもあります。
誰もがこのような変化についていけるわけではありません。この学年になったらこうだ、という理屈は、誰にも当てはまるとは限りません。スリットをつかって読むべきところをハイライトしたり、タブレットを使うことが必要な子もいます。そのような補助具を使うとき、もっとも抵抗されるのは、「それを許容したら、将来、困るのはこの子ですよ」という、ありがた迷惑な意見であったり、「お子さんだけにタブレットを許容すれば不公平になる。タブレットには電卓機能がついている」という、一瞬正論の、しかしよく考えれば正当性のない意見であったりします。
その子の将来を考えれば、学びから遠ざかることのほうがもっと不利益でしょう。合理的配慮を行うことは、そこの子の成長の機会を奪うことでも、その子の可能性を諦めることでもありません。その子が、享受すべき学びの機会を保証するものだということを心得る必要があると思います。
※「分かち書き」編集部注:語と語、文節と文節のあいだを1文字分空けて文章を書くこと。低学年児の読みの負担軽減のために、学習上の配慮として生まれものでもあります。
【岡田 隆先生 プロフィール】
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長/奈良県立医科大学精神医学講座教授
1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科に入局。関連病院での勤務を経て、同大学院博士課程(精神医学)に入学。京都大学医学部附属病院精神科神経科(児童外来担当)、デイケア診療部、京都大学大学院医学研究科精神医学講座講師を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科講師、2013年より准教授、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部部長、2023年より奈良県立医科大学精神医学講座教授。
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