「音・ニオイが出て家族が怒る趣味」が「ナラティブな背景あるものづくり」へ。シェアアトリエ事業が捉えたクリエイティブの未来
OTONA SALONE / 2024年9月11日 17時1分
クリエイティブシーンで注目のあつまる南武線エリア・武蔵新城に9月27日オープンするシェアアトリエ・シェアサロン「千年共店」。企画開発を担当したフジケン(株)不動産企画開発プロデューサー・佐藤丹音さんと運営ディレクターを務める一級建築士の廣瀬悦子さんに話を伺います。
前編記事『「驚きでした、こんな大勢のクリエイターが活動しているとは」。注目の川崎・南武線エリア「武蔵新城」に新業態「シェアアトリエ」を作る建築集団の勝算』に続く後編です。
ところで、シェアアトリエとは何なのか?「音を出せる場が意外とないのです」
千年共店は1Fがカフェ、2Fがシェアサロン、3Fがシェアアトリエという構成です。
「こうしたシェアスペースで、床を汚す絵具の使用、ミシン・工具の音、粉塵の発生をOKにしているところは一部クラフト系を除いてほぼありません。そのため、先行する『シモノゲ共作所』には長いウェイティングリストがあるくらいなんです」(廣瀬さん)
『シモノゲ共作所』に入居中の作家・クリエイターさんたちは「創作をしていい物理的な場所が確保できない」と口々に訴えて集まってきた人々だそう。駅からの距離に関係なく、徒歩でも自転車でも集まったことは、「駅近が絶対正義」である不動産の概念とは大きく違い、驚いたと廣瀬さん。
「電源とWiFiと上下水道設備さえそろって入れば、他の設備は机すらいらないという人がほとんどで、シェアオフィスよりも設備投資は少なく済みます。遠くからくる方も結構いるのですが、これはクリエイティブの応援という点からいえば残念だなと感じます。ご自宅のそばにこういう物件があればもっと創作に時間を割けるのですから、アーティスト支援の目線からすれば痛しかゆしです」(廣瀬さん)
アトリエは、たとえば彫金や彫刻など音の出る作業、エアブラシなど塗料が散るもの、大型の彫塑や絵など自宅では困難なものの作業場としてイメージできるのですが、2Fのシェアサロンというのはいったいどのような業態なのでしょう?
「文字通り、スパ、ヘア、エステ、ネイルなどに使えるサロンのシェアです。1部屋だけ時間貸しで、残り4部屋は月ぎめ、合計5部屋です。都心部の青山などにはシェアサロンはありますが、物件への投資コストとして水回りが必須になるため、その分値段もお高めです。従って、単価をしっかりとっていける美容師さん向けヘアのシェアサロンが中心です。今回のようにユーザーが住む住宅地エリアに出店するとおそらく、違ったカジュアリティが演出できるのではと考えています」(佐藤さん)
そもそもユーザーとして、エステに行けば顔も髪もぐちゃぐちゃになるのに、わざわざターミナル駅まで出かけないとならないのがしんどかった。雑居ビルもテンションが下がるので「私はこれまで自宅近所でサロンを探すようにしていました」と佐藤さん。
「雑居ビルの雑多な空気をまとって施術を受けるよりも、きちっと造作された整った空間で受けたほうが、気分もよくて効果もあがると思うんです。そう思ってもらえるような空間をご用意しているので、あとはすてきな施術者さんに入ってもらって、私たちが受けるだけだなと(笑)」(佐藤さん)
これからサロン開業を考えている人に、初期費用をかけず、設備一式と光熱費込みでテストスタートを切ってもらうのにもいいと思います、と続けました。
「ナラティブなストーリーのあるものづくり」を受け入れてくれる土地。語りながら場を育てていく
すでにリノベーションはほぼ終わり、2F3Fは部分オープンとして内覧やお試し入居も可能、9月28日(土曜)の正式オープンを待つばかりの「千年共店」。どのような内部構成なのでしょう。
「1Fはカフェとして地域に開き、物販も行います。ものづくりの場としてのシェアアトリエはクリエイターが魂の内側に向かう作業の場であり、建物の中で何をしているのかが地域住民の皆様からはわかりにくいんです」(廣瀬さん)
ふらりと立ち寄れる雰囲気のよいカフェを作り上げて、「こんなにすごい才能がここで切磋琢磨しているんです」と自慢する場にしたい、と廣瀬さん。
「このように、シェアアトリエ運営側がクリエイターのPRも引き受け、ともすれば内輪にこもりがちな制作を外に向けて発信する役割を担うというのが、私の役割かなと思っています」(廣瀬さん)
この1Fカフェと、そこで開かれるマルシェには廣瀬さんのこだわりがそのまま戦略として盛り込まれています。
「私が志す場は、『モノの背景にある物語』を伝える媒介としての空間。ですから、このアトリエに限らず、日本中の作家の『良いもの』を、背景・工房風景を含めてご紹介していく予定です」(廣瀬さん)
この場で作られているものを伝える延長として、カフェで扱うものも「伝えたい背景」を持つものばかりだそう。
「たとえば、マルシェでも販売予定のトマト。トマトって、永田農法のようにストレスをかけると甘くなりますが、ストレスフリーにするとどうなると思いますか? じつはうまみ成分であるグルタミン酸が上がるのです。このうまみを追求した平塚の生産者のトマトとトマトジュースを提供します。コーヒーもまた、オリジナルの焙煎機による輻射熱を利用して、豆の内側からしっかり焙煎している、強い想いを持つ焙煎士から卸してもらいます。焙煎の度合いは7段階、お客様に合わせた焙煎を提供するというこだわりの人です」
なるほど、とにかくこのこだわりを語って伝える、ナラティブのハブになるのが廣瀬さんの役割というわですね。
「なので、語るべき熱量のある作り手さんに入居してもらえたら最高なんです。言葉にせずとも、もの作りに真摯に取り組んでいる眼、手つきに私は惚れます。その熱量を、私たちが受け止め、代わりに伝えていきたい。創造を応援する場所になるようにこの場所を編集しています。年齢も世代も国籍も関係ないって思っています」(廣瀬さん)
「よくあるクリエイティブ風の何か」で終わらせない。収益を出す投資商品として展開していきます
かつて「駄サイクル」という言葉がありましたが、ものづくりは閉じてしまうとそのコミュニティ内部の自己満足でなぐさめあって一層閉じていく印象があります。そのため、廣瀬さんはコミュニティビジネスは志向せず、個々の活動を外へ開いていく場として機能していきたいと考えているそう。
「あそこが支援したクリエーターはみんなグローバルに出て成功するよね、よっぽど刺激があったんだね、と語られる場所にしていきたいと思っています。弊社のパーパスは『つくる.かえる.かわる』、自分たちもどんどん成長しながら一緒に変わっていくイメージ、みなさんがそういうふうに前を向いて変わっていってくれたらいいな、と」(佐藤さん)
そう佐藤さんも続けます。この件に限っては、アウトソースして機械的に運用できてしまうような、温度のないビジネスをやりたくないのだそうです。
「いまは個人の力で数字を組み立てられる時代。個人が伸びて、地元も延びて、私たちもファンドとしてこの物件を伸ばしていける、そんな究極の『三方よし』を目指しています。収益物件でありつつ、インキュベーターでもあるようなモデルです」(佐藤さん)
理想的な、わくわくするようなお話ですよね。勝算はどこに見出していますか?
「自己満足ではなく、関与者全員の利益もきっちり上げ、他のエリアに転用できるビジネスモデルとして完成させていきます。弊社はもともと建てて売るディベロッパーですが、新規事業として継続的運用にも着手したというフェイズです」(佐藤さん)
なるほど、投資対象としてサービスやホビー、アート領域などの「コト」を捉えるということでしょうか。単なる売り抜けの利ざやではなく、継続的な利回りが取れていくような。
「弊社は『つくるファンド』という、個人が1万円から不動産投資に参加ができるサービスを立ち上げています。これを利用し、誰もが『千年共店』を応援し、そこから利益を得られる仕組みを予定しています」(佐藤さん)
クラファンのように、投資をハブにして「千年共店」への関与人口を増やし、コアなファン同士の口コミで情報拡散も目指すということでしょうか。
「そのため、投資家には必ずコーヒー券をリターンとしてお渡しし、施設に直接足を運んで応援いただける仕組みを作ります。同時に、編集空間として実験的な要素をどんどん取り入れて、止まることなく成長させていく。私たちは『新しい何かをつくり、かえる人』をこのスタイルで応援し続けます。数年後の姿がいまから楽しみです。正式オープンの9月28日にはマルシェを開催しますから、ぜひどんな物件なのかを見にきてください!」(佐藤さん)
●最新情報はインスタグラムにて公開中です。
●つくるファンド
●seets一級建築士事務所
【お知らせ】9月28日(土)オープンを記念してマルシェを開催します!詳しくはインスタグラムにて。
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