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【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】三重から浜松へ珍道中・前編

OVO [オーヴォ] / 2024年5月7日 16時5分

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】三重から浜松へ珍道中・前編

2024年5月2日=1,852
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


 先月4月のとある日曜、数人のがん仲間に会うため、地元・三重から静岡県浜松市へ向かった。今回は専属秘書(編注:妻のあかねさん)が同行しない単独行動である。この日は最寄り駅から浜松駅までずっとJRで行くことにした。乗車券を買う手間が少なくて簡単なのがいい。と思っていたが、乗車後すぐに試練が襲ってきた。

▽寒い

 それは…列車内がむやみに寒い! なんと4月なのに冷房が入っている。温暖化が進む現代の4月ともなると、日中は汗ばむことも増えてくる。だから「乗車中くらい涼しい方が心地よいでしょう」というJRのおもてなしなんだろう。

 でも、こちとらはそうはいかぬ。抗がん剤治療中の現役がん患者である。上半身とくに首筋から頭部にかけて冷え冷えしてくる。冬用のジャンパーを着ててよかったぁ。さらにジャンパーのフードもかぶる。周りの乗客から不審がられたのか、優先席に座る私の隣には誰も近付いてこなかった。ソーシャルディスタンスが保たれたことは、誠にありがたかった。

▽3時間前

 そんなこんなで寒冷に耐え、浜松駅には現地集合時刻の約3時間前に到着してしまった。目的の店は、駅前停留所からバスに乗れば所要時間10分あまり。降車後はバス停の前に集合場所の店があると聞いた。

 つまりまだ2時間ぐらい余裕がある。駅前の店にでも入って、何かを飲食することにした。しかし、いまは休日の昼前、どこも人が多い。浜松といえばやっぱりウナギか、とのぞいてみるとウナギ屋は客であふれていた。いやそれ以上に、価格を見て驚いた。うな丼の最安値で3千円を超えている。現状の私生活からは難しい金額だ。

 ふと振り返ると、そこに見慣れた牛丼屋が目に飛び込んできた。ここなら牛丼の小盛りがある。500円しないで食べられる。気が付いたらすでにドアをくぐっていた…。

▽タブレット注文

 カウンターに座ると店員さんが笑顔で声をかけてきた。

  「タブレット注文、お願いしまぁす」

 えぇ~?! 声かけ注文やないんや。「牛丼の小盛り!」と口先まで出かかっていたのを私はこらえ、「は~い」と答えた。できる自信もないのにカッコつけた。

 がん発病と同時に、終活として携帯電話を手放した。その時は「自分はもう長くないから必要ない」と思ったが、5年が経った。必要だ。だが再び持つことには抵抗がある。それでいまでも手放したままのオレである。しかも発病前に所有していたのはガラケー。つまりスマホは手にしたことがない。

 説明は長くなったが、そんなわけで案の定、「タブレット注文」はうまく進まない。注文できへん。店員さんを呼ぼうか…。しかし、ここは人に頼らず自立することに挑戦した。5分ほど格闘して、2度失敗して、3度目にようやく注文が完了した。さらに「つゆだく」までクリックできた。

 みなさんから見れば何をアホなことしとるんや、でしょう。いやいやこれは会心の出来。「成長したやないの、大橋洋平」。自分で自分をほめてあげた。自画自賛、自己満足、これらは非常に心地いい。牛丼小盛りで胃袋を満たした(胃は大部分もうないけれど)わたくしは、意気揚々とバス乗り場を目指した。


▽長蛇の列

 未知の地を訪れるにあたり、バス乗り場の番号は三重を発つ前にすでに確認済みだ。乗り場は2番、そう2番乗り場である。そこからバスに乗れれば10分ほどで現地に到着する。ヨシヨシと歩きながら間もなく、目を疑った。

 な、なんと・・・長蛇の列が連なっている。2番乗り場が隠れるくらいだ。多すぎて数える気にもならない。さすが浜松市。私が住む人口5千人台の町のバス停では、どんなに立ち並んでも片手に収まる。こんなことで集合予定までに間に合うのか。残り時間は2時間ほどとなっていた。

(後編に続く)

ところでユーチューブらいぶ配信、しぶとく続けてます。チャンネル名「足し算命・大橋洋平の間」。配信日時が不定期なためご視聴しづらいとは察しますが、どこかでお気づきの際にはお付き合いくださいな。ご登録も大歓迎。応援してもらえると恐れながら生きる力になります。引き続きご贔屓のほどを。
わたくし生きている限り何卒よろしくお願い申し上げまぁす!

(発信中、フェイスブックおよびYouTubeチャンネル「足し算命・大橋洋平の間」)

おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)、2022年11月「緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。

このコーナーではがん闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

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