世界パラに出場する3人の「トモキ」も躍動! ジャパンパラ陸上競技大会レポート
パラサポWEB / 2023年6月15日 14時40分
7月8日からフランスのパリで開催される「世界パラ陸上競技選手権大会」を控え、トップ選手たちは最終調整に励んでいる。
そんななか、岐阜メモリアルセンター長良川競技場で「2023ジャパンパラ陸上競技大会」(6月10日~11日)が行われ、アジア記録7、日本新記録14、日本タイ記録1、大会記録48が誕生した。
自らの記録と戦う選手たちの覚悟たるや、いかほどだろうか。パリ2024パラリンピックの前哨戦となる、世界パラに出場する車いすの「トモキ」たちを追った。
中長距離を得意とする鈴木朋樹3人のトモキのなかで最も若い29歳。千葉県生まれの鈴木朋樹(すずき・ともき)は、東京2020パラリンピックのユニバーサルリレーでアンカーを務め、銅メダル獲得に貢献した車いすT54クラスの選手だ。トラックで戦いながら、マラソンでも世界を転戦。東京パラリンピックではマラソン7位に終わり、来年のパリでは上位を狙う。
表彰式で笑顔を見せる鈴木(中央)世界パラの個人種目は800mと1500mに出場予定。今回のジャパンパラで出場した1500mでは、ベテランの樋口政幸を振り切って優勝したものの、「あまりいい感触ではなかった」と振り返った。
世界の猛者が集まるT54クラスにおいて「世界の進化がずば抜けてすごすぎる」と鈴木。「自分の進化が2019年ごろから止まっているという感覚になる」とも話すが、もちろん指をくわえて見ているわけではない。
普段からフィーリングを大事にしている鈴木。新しいレーサーの細かい感覚を確かめているところだ自分ももっとできることがある、と取り組んでいるひとつが、競技用車いすレーサーの改良だ。3月の東京マラソンから、自身が所属するトヨタ自動車とオーエックスエンジニアリングが共同開発した新型レーサーで大会に出場。トラックのレースは今回で2回目になるといい、新しい感覚を磨いているところだ。
カーボンファイバー製の新型レーサーは、トヨタ自動車のテクノロジーにより、スキャンした鈴木の体形と一体になるように成形され、乗りこなすことで効率のいい走りを実現させる。
トヨタの技術を駆使して作られた新型レーサーで走る鈴木「しっかり体に密着させてあげることで、乗っているときの疲労感も少なく、走行を安定させられるメリットがあります」
この1年でどれだけ自分が仕上げていけるか。「怖くもあり、楽しみでもある」というパリパラリンピックまで研鑽の日々は続く。
波に乗る短距離の生馬知季ジャパンパラ最終日の800m(T54)に出場し、鈴木らを抑えて優勝。力のこもったガッツポーズを見せたのが短距離を得意とする生馬知季(いこま・ともき)だ。和歌山県生まれの31歳。東京パラリンピックではユニバーサルリレーのメンバーとして日本代表に選出されたものの、当日のメンバーとして選ばれたのは中長距離を主戦場とする鈴木だった。その悔しさを胸に生馬がパリを目指しているのは言うまでもない。
800mで優勝した生馬今大会で800mの直後には、雨上がりの走路でユニバーサルリレーを走った。
新メンバーで挑んだこともあり、平凡なタイムに終わったが、同時に伸びしろを感じたという生馬。
ユニバーサルリレーを担当する高野大樹コーチはこう話す。
「今シーズン、生馬は好調。(1週間前にあった)日本選手権のユニバーサルリレーでも、いいタイムを出している。(世界パラでは)力通り出してもらえたらいいかなと思います」
ユニバーサルリレーではアンカーを務めるそして、世界パラの個人種目は100mと400mに出場予定だ。400mは選考のラストチャンスで派遣記録を破って代表の座を掴み、「競技人生の中で一番嬉しい瞬間だった」と本人は振り返る。
しかし、その喜びを超える瞬間が5月、スイス遠征で訪れる。高速トラックとして知られるアーボンで大会に出場した生馬は、日本のT54選手として初めて100mを13秒台で走り、レジェンド永尾嘉章が8年前に樹立した当時の日本記録(14秒07)を破ったのだ。
「練習内容を変えたわけではないけれど、練習に取り組む意識を高めたのが結果として出たのかな。追い風1mとコンディションも良かったです」
ジャパンパラ前日の練習で永尾に「よかったな」と声をかけられたという生馬。日本記録保持者になった生馬は、憧れの世界記録保持者レオペッカ・タハティ(フィンランド)にもスタートで肉薄し、世界の上位に手が届く位置に到達した。
今大会、100mを大会新の14秒19で走った生馬は、いつになく堂々として見えた。
100mの日本記録(13秒93)保持者としてジャパンパラに出場した ライバル登場に燃える王者、佐藤友祈静岡県生まれの33歳。東京パラリンピック金メダリストの佐藤友祈(さとう・ともき)は、T52クラスで戦う。世界パラは400mと1500mに出場予定で、3大会連続の2冠を狙う。
東京パラリンピック2冠の佐藤東京パラリンピック後、同クラスの1500mは非パラリンピック種目になり、佐藤はパリパラリンピックの400mで連覇を目指すが、5月のスイス遠征でベルギーの若手に首位を譲った。実に2016年以来となる負けを経験した佐藤は、「惨敗です」と悔しそうに明かした半面、生き生きとした目で語る。
「スイス遠征は、パリで世界パラが行われるということで、海外でのレース勘を掴みたいという狙いがありました。また、自分の立ち位置を見極められたらという思いもありました」
そのレースのなかの400mでベルギー選手に負けて、火がついたというわけだ。スイスではオランダのコーチに教えを請い、レーサーに乗るポジションを変更。ジャパンパラの10日前から背中がフラットになる新たなフォームで新しい挑戦を始めている。
パラリンピック連覇に向けてレーサーに乗るポジションを調整中だジャパンパラでは、遠征の疲労もあるなか、同日に100m、400m、1500mを走り、新記録はならず。とくに1500mは「情けないタイム」とコメントしつつも、3種目を終えて「出し切りました」と充実感をのぞかせた。
「これから世界パラまでの期間、しっかりと修正し、調整していけば400mと1500mで金メダルを獲れると思っています」
来年のパリパラリンピックでは、400mの金メダルとともに、2018年以来の世界記録更新を期待したい。
text by Asuka Senaga
photo by X-1
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