選手と会話?スポーツをメタバースで観戦したら…
パラサポWEB / 2023年9月14日 12時21分
メタバース(仮想空間)は、スポーツを大きく変える可能性を秘めている。スポーツの「する」に着目した前編に引き続き、後編では私たちにより身近なスポーツを「観る」、スポーツを「支える」におけるメタバースの可能性について見ていこう。
メタバース×「観る」スポーツオンラインで取材を受けてくれた、順天堂大学スポーツ健康科学部の山田泰行准教授 箱根駅伝を観戦しながら選手やスタッフと交流できる!?
2022年に順天堂大学スポーツ健康科学部の山田泰行准教授のゼミで実施した「メタバースを活用して社会の課題解決を考える」というテーマのアイデアソン(アイデアを出し合い、マラソンのように競い、アイデアをブラッシュアップさせる手法)では、大学生から「観る」スポーツの体験の価値を高めるユニークなアイデアが出たという。
「箱根駅伝をメタバースで視聴するサービス『箱根oVict(オビクト)』というアイデアが面白かったです。oVice(オヴィス)は2次元のバーチャル空間でコミュニケーションを楽しめるアプリです(oVice株式会社が提供)。oViceでは、参加者が自分のアバターを操作し、バーチャル空間を移動ながら、話したい相手や場所を選んで自由に会話できます。箱根駅伝の中継中に、出走を待つ選手や、走り終えた選手、選手を支えるスタッフらとバーチャル空間で繋がり、会話を楽しみながら、箱根駅伝を観戦するというアイデアです。テレビでは流れることのない、控え選手やスタッフの声をライブで聴くことができるという点で、スポーツ観戦の価値を高める素晴らしいアイデアだと思いました」(山田泰行氏、以下同)
©順天堂大学スポーツ健康科学部山田泰行ゼミoViceはバーチャル空間で会議やイベントを行うビジネスメタバースとして知られており、すでに2,300社以上の企業が導入した実績を持つ。このサービスをスポーツ観戦に活用しようというのだ。
「このアイデアを考えたのは、順天堂大学で箱根駅伝を目指す柘植航太さんのグループです。彼のプレゼンを聞いて、箱根駅伝を走ることができなかった控え選手や、チームを支えてきたスタッフにも、一人ひとりにドラマがあることを知りました。テレビ中継では、走行中の選手にドリンクを渡す給水員はチームスタッフの一人にしか映りません。しかし、給水員も輝かしい実績を持って入部してきた選手の一人です。レース直前のケガや、わずかな実力差を受け入れて給水員に徹する者、出走選手から全身の信頼を得て給水員に指名された者など、テレビには映らないヒーローたちの話を聴きながら箱根駅伝を観戦できるという秀逸なアイデアです」
ここに過去の箱根駅伝の給水員について触れた新聞記事がある。
2021年の第97回大会では、優勝候補・青山学院大の主将でエース格だった神林勇太選手(4年)が給水員に回った。大会直前に疲労骨折が判明し「チームを勝たせるために自分の役目を果たそうと思った」。9区で1学年後輩の飯田貴之選手に水を渡して励ます献身的な姿が、お茶の間に感動を呼んだ。(読売新聞 2022年12月30日)
「箱根駅伝はアマチュアの学生イベントなので、どこまで経済活動が許容されるかわかりませんが、『箱根oVict』のバーチャルルームには、クラウドファンディングやスポンサー広告、ノベルティ販売などの機能を付加することが可能です。このようなメタバースとフィンテックの併用は、チームの経済基盤の確立やチームブランディングに役立つと考えられます」
このアイデアソンでは、大学生が考案したメタバース企画がoVice社に提案されたという。近い将来、本当にアバターを使った駅伝観戦が可能になるかもしれない。
©順天堂大学スポーツ健康科学部山田泰行ゼミ メタバース×「支える」スポーツスポーツ中継の選手のインタビューなどでよく聞くのが「ファンの声援があったから頑張れた」、「スタッフのおかげでいいパフォーマンスができた」、「最高の環境で気持ちよくプレイできた」といったアスリートの発言。ファンの熱い声援が選手のモチベーションを上げる「支える」もあるし、選手のコンディションを「支える」もある。選手や観客の安全を「支える」こともあるだろう。スポーツはただ選手がいいパフォーマンスを見せてくれる一方通行ではなく、ファンやスタッフの「支え」がなくてはならないものなのだ。
メジャーリーグがメタバースに球場を設置そのような中、2022年にはアメリカのMLBの球団が仮想空間に球場を設置することを発表。チームのファンは、自宅にいながらにして仮想空間に作られた球場で試合観戦ができるというのだ。しかし、ファンがリアルな球場に行かず、メタバースの球場で観戦するようになったら、ファンの声援や、チケット・グッズの購入によって選手を支えることができなくなるのではないだろうか。
「スポーツ分野でメタバースが発展しても、スタジアムに行ってスポーツ観戦を楽しむ人はかなりいるはずです。なぜなら、メタバースの進化と同様に、スポーツ観戦の現場で提供されるサービスも日々進化を遂げているからです。私たちがプロスポーツ観戦の満足度向上を目的に実施したフィールドワーク(スポーツPAOT)では、スタジアムに足を運んだ者だけが味わえる感動や、得られるサービスが数多くあることを明らかにしました。プロスポーツ観戦の会場は、イベント運営を支える人たちが考えた創意工夫で満ち溢れています。例えば、プロバスケットボールの試合では、試合中にファウルが発生すると3秒後にファウルの名称、ファウルの解説、リプレイ映像がアリーナの大型モニターに提示されます。あまりに速く情報が提示されるので、アリーナで生観戦しているのに、まるでテレビで観戦しているような感覚になりました。Jリーグではサポーターの応援をみるのも楽しいですし、プロラグビーリーグワンの試合では、選手を全力で応援している子どもたちの姿に癒されました。このようなスポーツの醍醐味は、メタバースやテレビでは味わうことができないですよね」
©順天堂大学スポーツ健康科学部山田泰行ゼミ最近、にわかに注目されるようになったChatGPTは、その高度な機能を人間がどのようにうまく使いこなすかが社会課題となっているが、メタバースにも同じことが言えるのではないだろうか。チームのブランディング、ファンのコミュニティ形成、審判のトレーニング、スポーツ観戦の価値の多様化など、メタバースがスポーツにもたらし得る恩恵は測り知れない。使い方次第では5年後、10年後のスポーツは想像もできないような発展を遂げているかもしれない。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
資料提供:順天堂大学スポーツ健康科学部山田泰行ゼミ
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