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ゲームでパラリンピック?田畑端氏の斬新なサステナブルに世界が注目

パラサポWEB / 2021年8月10日 18時59分

ゲーム体験を通じて、ソーシャルグッド(世の中にいいインパクトを与える)な未来をつくっていきたい、そう語るのは、日本を代表するゲームクリエイターの田畑端氏だ。

ゲーム業界の名門スクウェア・エニックスで、「ファイナルファンタジーXV」を世界的なヒットへと導いた立役者として知られる氏は、独立後、ゲームを活用することでビジネスにしづらいといわれる社会課題解決に挑んでいる。その第一弾としてリリースされたのが、世界初のIPC(国際パラリンピック委員会)公式パラリンピックゲーム「The Pegasus Dream Tour(ザ ペガサス ドリーム ツアー)」だ。このゲームでは、プレーを楽しむことがソーシャルグッドな活動につながる、サステナブルな世界観を目指しているというが、果たしてそんなチャレンジは可能なのだろうか。活動を始めた理由や追い求める理想について、話を伺った。

ゲームのもつ可能性を進化させることで見えた、よりよい未来づくり

ゲーム好きの人ならば、一度はその名を耳にしたことがあるに違いない。「ザ ペガサス ドリーム ツアー」を開発したJP GAMESの代表・田畑端氏は、大人気ゲーム・ファイナルファンタジーシリーズの「ファイナルファンタジーXV」や「ファイナルファンタジー零式」といった大作を手掛けた凄腕のゲームクリエイターだ。ビデオゲーム業界のパイオニアとしてその名を世界へ轟かせ、「ファイナルファンタジーXV」もシリーズの売上水準を上回る世界的な成功へと導く。その活躍は世界中から注目を集めている。

そんな氏がJP GAMESを設立したのは、2019年2月のこと。「ファイナルファンタジーXV」というスーパープロジェクトを成功させ、次なるキャリアを拓く新たな挑戦を模索する中、次第に膨らんでいったのは「世の中をよくするゲームをつくりたい」という熱い想いだった。

「そもそものきっかけは、(田畑氏の地元である岩手県も被災地となった)東日本大震災を経験したことにありました。知り合いや身近な人たちも被災して大変な思いをしていた中で感じたのは、ゲームのもつエンターテインメント性にはそんな人たちを元気づけたり、楽しませる力があるということ。もともと私は物事を進化させるのが好きな性分なので、このゲームのもつ可能性を進化させるとどんなことができるかと考えたときに、ゲームを活用して世の中をよくしていきたいというビジョンが見えてきたんです。

私が子どもの頃には、マンガやアニメを見ると、科学が発達したワクワクする未来が描かれていて、その到来をまだかまだかと待ちこがれていたものです。いまの世の中にもそんなワクワクする未来をつくって、それを後世に伝えていくことは、独立してでもやる価値があると思いましたね」(田畑氏)

その実現のひとつとして田畑氏がたどり着いたのが、ゲームを通じた社会課題の解決だ。仮想の世界で自分が主人公となって楽しむゲームには、勉強では学べない“体験”が蓄積されていく。この特性を上手く利用すれば、世の中をよくするために必要な教育の機会を提供でき、RPGのようにゲームのストーリーを追体験することで、社会課題も自分ゴトとして捉えてもらえるのではないか、と考えたからだ。

こうして田畑氏は、自身が培ってきたゲームクリエイターとしてのキャリアをよりよい未来づくりのために活かしていくことを決意する。

急成長する現在のパラスポーツには、ゲームの最盛期に近い面白さがある
パラリンピックを新たにブランディングした「ザ ペガサス ドリームツアー」では、ゲームを楽しむことで持続的に社会課題解決に貢献することができる仕組みが用意されている 

その記念すべき第1作目としてリリースされたのが世界初のIPC公式パラリンピックゲーム「ザ ペガサス ドリーム ツアー」だが、そもそもパラリンピックをゲームの題材にしようと考えたのはどうしてだろうか? もちろん、IPCからの打診やタイミングといった要因も大きいかもしれないが、田畑氏自身がパラリンピックやパラスポーツに興味がなければ作られなかったはずだ。その理由について田畑氏は次のように説明する。

「パラリンピックが、オリンピックというメインストリームに対するオルタナティブな存在として光り輝いて見えたんですよ。一般の人からすると、パラリンピックはオリンピックの後に開催される地味な大会というイメージかもしれませんが、実はパラスポーツの分野は人間の身体機能の拡張と科学技術の進化が融合することで、すごい勢いで成長しています。ゲーム業界ももっとも面白かったのは、テクノロジーの進化と世の中の文化や価値観の変化が並走して成長していた時代でした。いまのパラリンピックやパラスポーツには、当時のゲーム業界に近い面白さを感じましたね。

おそらく、50年後のオリンピックは現在とそこまで変わっていないと思いますが、50年後のパラリンピックは大変な進化を遂げているはずです。これからというタイミングで、その進化過程に関われるのは非常に魅力的だと思いました」(田畑氏)

また、こうした時代の流れやタイミング以外にも、パラアスリートのもつヒーロー性や特殊能力にも強く惹かれたという。自分の限界を突き詰めて、通常のアスリートたちができない偉業を成し遂げている事実や、想像以上の激しさやスピード感で躍動的にプレーをするスタイルを伝えるには、豊富な表現方法をもつゲームが果たせる役割は大きいと考えたそうだ。

目指すは、ダイバーシティ&インクルージョンが“当たり前”となる世界
パラアスリートとしてエネルギッシュに成長していくマインが、現実社会をポジティブに生きるパワーを与えてくれる 

そんな熱い想いをもつ田畑氏が手がけた「ザ ペガサス ドリーム ツアー」は、プレーヤー自身の分身となったアバター「Mine(マイン)」を通して、さまざまなパラスポーツの競技に参加し、パラアスリートとして高みを目指していくゲームだ。

そこには、IPCが志す「ダイバーシティ&インクルージョン」の世界が、ゲームクリエイターの手によって鮮やかに、そしてエキサイティングに描かれている。すべての個性が尊重されるゲームの舞台「ペガサスシティ」でつながり、仲間とともに成長していくストーリーこそ、世界的なパンデミックによって人と人とが分断された今こそ必要なのかもしれない。

Mineが他のプレーヤーたちと友だちになることで、あらゆる個性が尊重される「ダイバーシティ&インクルージョン」の世界を疑似体験することもできる  着用するユニフォームはもちろん、義手や義足、車いすも自分の好きなものを選んでカスタマイズすることができる

また、ゲームを通して“車いすに乗っている自分”や“義手を使っている自分”を体験できるのも「ザ ペガサス ドリーム ツアー」ならではの特徴だ。これらの用具はプレーヤーの好みでカスタマイズすることもでき、障がいをより身近に感じられる工夫も施されている。

「『ザ ペガサス ドリーム ツアー』では、障がいを個性として捉えた、個性ファーストの表現方法にこだわりました。たとえば、目が悪い人はメガネをかけますが、視覚に障がいのある人のアイテムではなく、現在ではファッションアイテムのひとつとして認知されていますよね。同じように、義足や義手も個性を表すためのアイテムとしてとらえ、プレーヤーが好きなものを選ぶことができるように設計しています」(コ・プロデューサー門田氏)

「実物を忠実に再現するのではなく、自分が好きなお洋服を身につける感覚で選べるように、ファッショナブルに見えるデザインを心がけました」(アートディレクター石崎氏)

(左)アートディレクターの石崎晴美さん。VFXやアートディレクションを担当。色使いやデザインにこだわり、ゲーム内のポジティブでエネルギッシュな世界に描いたそう。(右)コ・プロデューサーの門田瑛里さん。JP GAMESの立ち上げから参画し、IPCとの調整交渉や開発進行のマネジメントを担当。プロジェクトの根底を築いたキーパーソンだ

実際に、この表現方法は障がいのある方たちからも「自分と同じ障がいがこんなにカッコよく表現されているのは見たことがない」と高い評価を受けているそうだ。一方で、ゲーム内で義手や義足を付け替えるという表現にザワつきを覚える人もいるようだが、田畑氏はそのザワつきさえも想定済みだ。

「世の中に大きな変化を起こそうとすれば、賛否両論、いろんな意見が出てくるのは当然だと思います。むしろ波風も立たず無風という方が、何も社会にインパクトを与えられていない証拠。いろんな風を全部ひっくるめて、その先にある、ダイバーシティ&インクルージョンの考えが“当たり前”になる世界を目指しているんですよ」(田畑氏)。

コンテンツとビジネスを切り離す大胆な施策で、サステナブルを実現

最後に、ゲームでサステナブルな世界を実現する際に課題となったポイントについても伺ってみた。そこには、ゲームを開発・運営する上で避けては通れない収益面の問題とパラリンピックを題材にしたゲームの特性を両立させる大胆な解決策があった。

「通常のスマホゲームは、ゲームにたくさんお金を使ってくれる少数のゲーマー層を取り込むことで、その他大勢の人たちが無料で遊べるビジネスモデルを採用しています。このモデルだと課金することで強くなったり、上手になったりするゲームデザインになりがちなんですが、それを『ザ ペガサス ドリーム ツアー』に取り入れてしまうと、お金をたくさん使うと金メダルが取れるという、パラリンピックの理念に反するゲーム内容になってしまいますよね。これではダメだと考え、行き着いたのがコンテンツとビジネスを切り分けることでした」(田畑氏)

課金による収益モデルが採用できないとなり、それ以外の収益方法を模索した結果、コンテンツを制作するために開発した技術自体を製品化して企業に販売することで、to Cではなくto Bでマネタイズすることにしたのだ。

このサービスは「PEGASUS WORLD KIT(ペガサス ワールド キット)」として提供され、自社サービスをサイバー空間上に構築し、顧客とのエンゲージメントを高めながらマーケティング活動を行いたい企業に活用してもらう予定となっている。ANAホールディングスが新規事業として展開する仮想旅行プロジェクトにも導入されることが決まっているそうだ。

コンセプトに賛同したアーティストたちによるバーチャルライブイベントも開催!
「アバター・ガラパーティ」は、アーティストとファンが一緒につくり上げるRPG型のライブイベント。単にライブを鑑賞するだけでなく、ライブ会場を建設したり、ライブ中止の危機をみんなで乗り越えるストーリーも用意され、ライブ当日までのワクワク感を楽しむことができる ⒸJP GAMES inc.

これまでにないゲームを活用した社会課題の解決という理想と、それをサステナブルな形で実現する田畑氏の手腕には驚かされるばかりだが、こうしたソーシャルグッドなスタイルを貫くからこそ、「応援したい!」と考える協力者も多いようだ。

9月19日までペガサスシティを舞台に開催中のバーチャルライブイベント「Avatar GALA Party(アバター ガラパーティ)」には、ゲームを通じて社会貢献するというゲームのコンセプトに共感したピコ太郎、ヴァーチャル・ドリカム、三代目 J SOUL BROTHERSなどの人気アーティストが出演。ファンとのライブイベントを通じて、それぞれに掲げたソーシャルグッドなテーマを表現してくれるとのことだ。


これまでの社会貢献は、ボランティア精神によるところが大きかったが、田畑氏らのように才能も実力もあるトップクリエイターたちが真剣に取り組んでいくことでビジネスとしても成り立ち、サステナブルに普及できる可能性が高いのではないだろうか。彼らの優れたアイデアでこれからも多くの社会課題が解決していくことを期待したい。

PROFILE 

田畑 端(たばた はじめ)

スクウェア・エニックス在籍時代に「ファイナルファンタジーXV」の開発を手掛け、世界的な成功へと導く。 2018年11月に「ゲームはもっと進化できる」「ゲームにはゲーム以上のパワーがある」というコンセプトのもと、JP GAMESを設立。AAAクラスのロールプレイングゲーム開発経験や国内屈指の3DCG技術を駆使し、さまざまなビジネスパートナーとともに新たなゲームの世界を創造する。2019年4月に世界初のパラリンピック公式ゲーム「The Pegasus Dream Tour」の制作を発表。バーチャルなスポーツシティを舞台に、パラリンピックを未来のエンターテインメントとして表現する。

↓現実世界のパラリンピックと並行して楽しめるバーチャルライブイベント「アバター ガラパーティ」開催中 https://pegasus-dream.com/gala-party/

ピコ太郎 「ピコ祭り」〜縁結び〜

 イベント期間:8月9日(月)~21日(土)

 ライブ公演:8月22日(日) 11時~、18時~、23時~

ヴァーチャル・ドリカム 「Let's Evolve!」〜進化〜

 イベント期間:8月24日(火)~9月4日 (土)

 ライブ公演:9月5日(日)11時~、18時~、23時~

三代目 J SOUL BROTHERS 「SOUL of City」〜ウェルビーイング〜

 イベント期間:9月6日(月)~18日(土)

 ライブ:9月19日(日) 11時~、18時~、23時~

text by Jun Takayanagi(Parasapo Lab)

photo by Daisuke Taniguchi, ©2021 JP GAMES, Inc THE PEGASUS DREAM TOUR, and the shield logo are trademarks of JP GAMES, Inc All other trademarks and trade names are property of their respective owners

©2021 The International Paralympic Committee

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