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成功の秘訣は「やりたいと思ったときにやる」絵本作家、栄養士、ブローチ作家…“多刀流”のアスリート

パラサポWEB / 2021年12月15日 10時57分

東京2020パラリンピック陸上競技・女子走り幅跳び(T63)5位入賞の前川楓。オリジナルキャラクターをあしらった雑貨やLINEスタンプを販売するなどクリエイティブな才能も発揮していて、国際パラリンピック委員会(IPC)の公式サイトでは「アーティスト」と紹介されるほど。一体何を考え、どんな活動をしているのか。陸上界の外に広がる前川の世界線をのぞいてみると、そこには競技生活との共通点も見えてきた。


【絵本作家の顔】「みんな違って、みんないい」と伝えたい

12月15日、前川が絵本作家デビューを果たした。タイトルは『くうちゃん いってらっしゃい』(白順社)。右後ろ脚に義足を履いている犬の女の子くうちゃんが、朝起きて出かけるまでの日常の様子を描いた。

前川 自分が好きなことを自由に発信できて、お互いに「あなたにとっては、それが大切なんだね」と認め合える世界になってほしいと、ずっと願ってきました。一言で表せば、「みんな違って、みんないい」ということ。それをかわいく、楽しく、シンプルに伝えるための方法として、絵本を描いてみようと思いました。

絵本を描くと決めてから最初にしたのが、絵本の研究です。実家に帰り、幼いころに読んだ絵本たちを引っ張り出して読み直してみました。なかでも魅かれたのが、『わたしのワンピース』(西巻茅子作/こぐま社)という作品。ページをめくるごとに主人公のうさぎが着ているワンピースの柄が変わっていく様子が本当に素敵で、見ているだけで伝わってくるものがありました。言葉もシンプルで、擬音が効果的に使われているところもおもしろかったです。

私の絵本の主人公も動物がいいなと思い、迷わず愛犬のくうにしました。くうは、私が右脚を切断した事故のときに一緒にいた子。ともに人生を歩んで来た、かけがえのない存在です。今は離れて暮らしていますが、いつも気にかけていて、この存在をどこかに残しておきたいと思ったのも、主人公にした理由の一つです。

当初は、義足のくうちゃんだけでお話を作ろうと思っていたのですが、それだと義足が特別なものという感じになってしまって。でも、そうではなく、義足の人は、靴下や靴と同じように義足を履き、生活していると知ってほしくて、(健常者である)弟のぽうちゃんを登場させ、対比しながら描くことにしました。

くうちゃんは小学校低学年、ぽうちゃんは幼稚園児という設定だ。さらに、お母さんとお父さんを登場させることで、話に奥行きが生まれた。

前川 例えば、朝の着替えのとき、くうちゃんは義足を、ぽうちゃんは靴下を履きます。また、くうちゃんは一人で着替えますが、ぽうちゃんはお父さんに手伝ってもらいます。でも、朝食後の食器の片づけは、二人で一緒にします。ここで描きたかったのは、サポートとは、障がいの有無ではなく、困っている人や困っていることに対して自然と手を差し伸べるものであってほしい、ということです。また、くうちゃんには、障がいがあってもできることは自分でする子になってほしい、という願いも込めました。

ぽうちゃんを手伝っているのが、お父さんという点もポイントです。私には障がいの有無はもとより、LGBTQ(性的少数者)など多彩な友人がたくさんいて、これまでいろいろな悩みを聞いてきました。そのため、多様性やジェンダー平等にもすごく関心がありますし、その一つとして、子育てや家事がお母さんに偏るのはなんだか変だなと思っているんです。その思いを着替えのシーンで程よく表せたかなと思います。

今後は、くうちゃんが出かけた先での様子を描いていきたいという。そのアイデアの源となっているのが、子どもたちとの触れ合いだ。

前川 尊敬する先輩のパラリンピック走り幅跳びのメダリスト・山本篤さんが義足の子どもたちをサポートする活動に力を入れていて、よくご一緒させていただいています。そこで義足の子どもたちの悩みに耳を傾ける機会が増えたので、くうちゃんを通して、何か伝えていけたらと考えています。また、私自身、講演会で小中学校を訪れた際、「お風呂に入るとき、どうしているの?」といった質問をよくもらうので、温泉や海水浴のシーンも描きたいですね。

あと、いつか絶対、くうちゃんに板バネを履かせて走らせたいですし、アイデアが尽きることはありません。この作品をスタートに、読者の皆さんと一緒にくうちゃんの成長を見守っていけたらうれしいですね。


【栄養士の顔】見た目もかわいいバランスの取れた食事づくり

栄養士免許を持つ前川は、インスタグラムで遊び心あふれた料理を定期的に投稿。アーティスト魂を感じる一皿でフォロワーを楽しませている。

その他、おうちごはんを紹介する専門のアカウントも公開しており、アスリート食とは思えないほど見た目が華やかでおいしそうな料理の写真が並ぶ。

前川 食べることが大好きな私にとって、食事はまずおいしいことが重要です。同時に、アスリートとしての体調管理が欠かせないため、栄養バランスも気にしなくてはいけません。そのため、毎食、栄養士の知識を生かして、タンパク質量と脂質量、糖質量を考えながら、味つけにこだわって料理をしています。

1年の中でも、張り切って料理を作る日がいくつかあります。そのうちの一つが、ハロウィーンです。ちょっと怖い、でもかわいいものがいっぱいのハロウィーンが大好きで、毎年、気合を入れて特別な一皿を作ります。1週間ほど前からラフ画を描いて、レシピを考えたこともあるんですよ。

例えば、昨年は、ごまで目と口をつけておばけに見立てたバナナを、プロテインと豆乳と豆腐のスムージーの上に浮かべて、ドライフルーツをちりばめました。このおばけのように、食べ物をデコるのも好きです。野菜を使って目、鼻、口をつけるだけで、途端にかわいくなって、食欲もおいしさも増すから不思議です。

栄養士免許を取ったきっかけは、受験勉強をしながら陸上の練習もしていたころに取り組んだ無理な減量です。我流で、糖質を全く取らずに、鶏むね肉とブロッコリーばかり食べるような食生活を続けていたら、生理が止まってしまって。このままではだめだと、栄養学を学べる大学に入り、きちんと勉強したら、減量中でも食べられるものが結構あるとわかって、うれしかったです。食べられるものが増えていくにつれて、料理の味も見た目もこだわるように。今では、我慢することなくヘルシーな食生活を維持できています。


【ブローチ作家の顔】満足するまで、こだわり抜く

絵本の制作が一段落したという前川が最近、力を入れているのがブローチ作りだ。クッキーや動物、クリスマスツリー、雪の結晶などいろいろなモチーフがあるが、なかでも気に入っているというのが、自身もいつも食べている食パンを再現したものだという。

前川 食パンにフムスというひよこ豆のペーストを塗って、ブロッコリーや人参、トマトといった野菜で目や鼻、口を描いて食べるのがお気に入りです。それをモチーフにした食パンのブローチは、かなりリアルを追い求めて作りました。我ながらなかなかの再現度と満足しています。

それも粘土選びからこだわったおかげです。石膏粘土は約10種類、樹脂粘土も5種類ほど取り寄せて、焼き上がりの質感や色、割れやすさも確認して。食パンは、型紙を自分で作って一つひとつ切り抜き、乾かして。その上にフムスの質感を表現した粘土を塗って乾かして。今度は顔のパーツにする野菜を作って乗せて、乾いたら色を塗ってまた乾かして。最後にニスを塗って、ブローチ用の金具を付けて…という感じで、製作に1、2週間かかりました。

これだけ手間暇かけるのは、自分が納得いくものを作りたいから。中途半端なものを作っても、「もっといいものができたのに」って、ずっと胸の中にモヤモヤが残ると思うんです。ですから、自分が「よし!」と思えるまで、努力や工夫をやめたくない。これはブローチづくりに限らず、どんなことにも共通している部分でもあります。

「やりたいと思ったときにやると、一番いいものができる」という前川。それは陸上競技の練習も、創作活動も同じだという。直感を大切にしつつも、自分を客観視できること、そして納得いくまでがんばり抜けるところに、前川の強さと多彩さの秘密があるのかもしれない。

前川楓(まえがわ・かえで)

陸上競技でパラリンピックに2大会連続出場。100mと走り幅跳びが専門のパラアスリート。

Instagram @k_s1082 Twitter @K_S1082

「パリ2024パラリンピックでは、陸上競技の走り幅跳びと女子100mでメダルを狙いに行きます。そのためにも、こんどのシーズンはライバルの兎澤朋美選手を倒して、2種目で日本新を更新します!」

photo by Hiroaki Yoda

text by TEAM A

key visual by AFLO SPORT, Kaede Maegawa

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