アルペンスキー青木大和、異色のスキーヤーが見たパラリンピックの世界
パラサポWEB / 2022年3月23日 8時55分
ゴールした後、右手でガッツポーズをつくってみせた。北京冬季パラリンピックのアルペンスキー、初出場の青木大和(男子立位/LW3)はパラリンピックデビュー戦となった大回転で30位、得意の回転で26位。「率直に楽しかった」と笑顔をのぞかせた。
最後の出場枠でつかんだ夢舞台パラリンピック初出場を果たした青木大和
北京大会1ヵ月前、すでに4年後のミラノ・コルティナダンペッツォ大会を見据えているようだった。最終選考レースとなった2022ジャパンパラアルペンスキー競技大会のことだ。自信を持って臨んだ最終日の回転で、同じLW3クラスのベテラン東海将彦の合計タイムに1秒及ばなかった。青木の肩は落ち、がっかりした表情がうかがえた。
「自分の中ではかなり攻めたつもり。その上で届かなかったので、悔しいというよりはまだまだ差があると実感させられました」
それでも、夏目堅司監督は成長著しい選手として青木の名前を挙げ、日本代表の最後の出場枠は青木に与えられることになった。4日後、正式に日本代表名簿に名を連ねた。
大回転は30位だった「初めての大きな大会ということで、途中棄権を恐れずにとにかく攻めたい。その姿勢を画面越しに見てもらいたいです」
そして迎えた北京大会。過去に類を見ない過酷なコースで、現地入り後、高速系には出場せず、技術系種目に絞ることを決断。約10日間のトレーニングで北京の雪の感覚を掴み、まず挑んだのは3月10日の大回転。「めちゃくちゃ緊張しました。27年間生きてきて一番というくらい」と話したが、2本目で1本目からタイムを縮め、充実感をにじませた。
大会最終日の回転は、1回目では転倒するもコースに戻るしぶとさを見せた。最終順位は完走した26人中26位。「コルティナでは最下位からの大逆転ストーリーを見せることができるよう頑張りたい」と軽快な青木節を披露している。
難コースも滑り切ったどんなときも前を向く思考力は、幾多のハードルを乗り越えて身についた。20歳で初めて起業し、モビリティ開発などを行う会社経営者の顔を持つ。「困難を乗り越えてきた強心臓というところは自分の強みと言ってもいいかなと思います」。パラスポーツ界では異色ともいえる、経営者との二刀流にも挑戦中だ。
パラアルペンスキーの競技歴はまだ2年。27歳は、ベテラン勢の多いアルペンスキー日本代表では若手に位置する。中高でスキー部に所属していた経験者。20歳のときに階段から転落して脊髄を損傷した後、リハビリを経て、25歳でこの競技を始めた。すぐにパラリンピックへの挑戦を高らかに宣言したが、コロナ禍でレースへの出場も予定通り進まず、その道は容易ではなかったはずだ。それでも、青木に悲壮感はない。泥臭く気持ちを前面に出して滑り切った。
脊髄損傷の後遺症で両足にまひが残る青木。4年後は上位を目指すと誓う青木が戦う立位クラスには多様な障がいの選手が出場していてその滑り方もさまざまだ。一本足で驚異のバランス力を見せる選手もいれば、重度の障がいがあり両足を固定しながらも巧みにターンを刻んでいく選手もいる。自身の残された機能をフル活用する滑りをしたものが勝つ。パラリンピックというパラスポーツ最高峰の祭典で、パラスポーツの醍醐味であり難しさである、独自のスタイルを追求していく必要性を改めて感じたに違いない。
「もともとやってたスキーと感覚が違う部分が大きい。そこを少しずつ受け入れる2年だったのかな。もう自分の脚は動かないということをちゃんと受け入れながら、今後はそこにアジャストするスキーを追求していければ」
髪型を“日の丸レッド”にして祭典を楽しんだ(写真左)今回の目標は「出場」だったが、もちろん4年後はそうではない。世界と渡り合う力をつけるため、海外に拠点を置くことも視野に入れているという。パラリンピアンとなった青木大和は、新たな挑戦で世界を切り拓き、4年後の大舞台で高みを目指す。
text by TEAM A
photo by AFLO SPORT
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