【PLAYBACK Beijing】アルペンスキー金メダル3個の村岡桃佳、輝かしさを増す冬の記憶
パラサポWEB / 2022年4月6日 14時39分
日本代表のエースとして、主将として。だれよりも注目を浴び、そして期待を一心に受けて戦った10日間だった。
「すべてのレースで納得のいく滑り、攻め切れたと思えるレースができたことが、自分の中での成長だと思っています」
2018年に冬季パラリンピックにおける日本人選手史上最年少の金メダリストになってから4年。夏冬二刀流に挑戦し、東京パラリンピック100mで6位入賞を果たしてからわずか半年。大会直前に25歳になったばかりの村岡桃佳は、競技初日の滑降でいきなり金メダルを手にすると、続くスーパー大回転でも金メダル。スーパー複合で銀メダルを獲得。さらに、最も得意とする大回転で今大会3個目、通算4個目となる金メダルを獲得した。最終種目の回転は5位となり、全5種目の滑走を終えると、晴れやかで充実感に満ちた表情を見せた。
いま改めて村岡の活躍を振り返りたい。
3月5日 滑降で日本勢第1号となる金メダル
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で1月の世界選手権は不出場。それだけに「みんなで競い合うことが楽しみ」と大会に臨んだ。北京入り後の公式練習で初めて滑るコースを攻略し、自信を得た村岡は、スタート時「自分はできると思っていた」。7選手中3人しかゴールできない難コースだったが、ライバルで平昌大会2冠のアナ レーナ・フォルスターに0.82秒の差をつけて今大会ひとつめの金メダルを手にした。▶関連記事
1 村岡 桃佳 1分29秒77
2 アナ レーナ・フォルスター(ドイツ)1分30秒59
3 劉 思彤(中国)1分32秒10
3月6日 スーパー大回転で今大会2個目の金メダル
2日連続の金メダルに笑顔を見せる photo by AFLO SPORT
幸先のいいスタートを切った日本代表のエースは、2種目目のスーパー大回転でも快走。2番目にスタートし、序盤こそ慎重な滑りに見えたが、1番スタートで暫定首位だったフォルスターを終盤で逆転した。ゴール後のインタビューでスタート直後に左目のコンタクトレンズが外れたことを明かした。「一瞬、何も見えなくなり、思っていたラインと違うところに行ってしまった」と悔しがった村岡。見事、高速系2種目を制覇した。
1 村岡 桃佳 1分23秒73
2 アナ レーナ・フォルスター(ドイツ)1分23秒84
3 張 雯静(中国)1分24秒31
3月7日 スーパー複合で銀メダルを獲得
銀メダルを手にピースサイン photo by AFLO SPORT
前日の悔しさを晴らしたいと挑んだスーパー複合。スーパー大回転と回転を1回ずつ滑って合計タイムを競う。1本目のスーパー大回転こそ会心の滑りでトップに躍り出たが、2本目の回転で苦戦。フォルスターとの一騎打ちに敗れ「(高速系から技術系の会場に移り)雪の硬さも質もびっくりするくらい違い、自分自身も、スキーの調整もうまくいかなかった」。それでも3日連続のメダル獲得。メダルセレモニーで笑顔を見せた。
1 アナ レーナ・フォルスター(ドイツ)合計2分11秒37
(スーパー大回転1分26秒44、回転44秒93)
2 村岡 桃佳 合計2分12秒14
(スーパー大回転1分20秒37、回転51秒77)
3 劉 思彤(中国)合計2分15秒84
(スーパー大回転1分23秒21、回転52秒63)
3月11日 大回転で2連覇! 今大会3個目の金メダル
得意の大回転で有言実行の金メダル! photo by Getty Images Sport 「ターンの鋭さは誰にも負けない」。前回女王の意地を見せた photo by AFLO SPORT
「絶対、金メダル」。連覇のかかる大回転は、プレッシャーから1本目は動きが硬くなり、1秒04差で中国の劉思彤にリードを許した。村岡は「正直ショックだった」と明かしたが、「普段通りのターンができれば気持ちよく滑れるセット。滑りながら『調子がいい』と感じていた」と振り返るほど自信もあった。「追いかけられるより、追いかける方が好き。勝つか、転ぶか、それだけだった」。2本目はタイトなラインを滑らかに滑って逆転。7秒差の圧勝だった。表彰台では、思い入れのある種目で目を潤ませながらも今大会いちばんの笑顔を見せた。
1 村岡 桃佳 合計2分02秒27
(1回目1分01秒76、2回目1分00秒51)
2 劉 思彤(中国)合計2分09秒55
(1回目1分00秒72、2回目1分08秒83)
3 張 雯静(中国)合計2分10秒92
(1回目1分05秒21、2回目1分05秒71)
いよいよ12日は最終種目。意気込みを聞かれると「楽しむだけです!」と語った。
3月12日 回転5位も「やり切った!」
夏冬二刀流のゴールと位置づけた北京大会を終え、達成感を口にした photo by Getty Images Sport
「苦手」と明言していた回転は5位。前回大会は5種目でメダルを持ち帰っただけに、報道エリアで「悔しい結果になったが?」と問われたが、「今日の滑りに対して悔いは全然ない」ときっぱり。5種目を滑って、前回を超える金3、銀1という成績を残し、「競技面でもそれ以外でも4年間での成長を実感できた」と充実の笑顔を浮かべた。持てる力すべてを尽くして得られたかけがえのない経験になったに違いない。
1 アナ レーナ・フォルスター(ドイツ)合計1分37秒86
(1回目48秒50、2回目49秒36)
2 張 雯静(中国)合計1分40秒18
(1回目51秒11、2回目49秒07)
3 劉 思彤(中国)合計1分41秒31
(1回目49秒96、2回目51秒35)
============
5 村岡 桃佳 合計1分45秒54
(1回目53秒44、2回目52秒10)
夏目堅司監督は、5種目に出場しそのうち3つが金メダルという快挙を「シナリオ通り」と総括したが、ここまでの歩みは決して順調だったわけではない。1月には練習で右ひじの靭帯を痛め、現地入り後も障がいの軽い選手に有利な難コースに直面した。気温の上昇により2種目の日程が変更になったり、レース中にコンタクトレンズが外れるアクシデントもあったりした。それでも、「自分らしさ」を見失わず、前だけを見て滑り切った。
タフな日程を駆け抜けたからこそ、喜びもひとしおだ。
陸上競技との二刀流に挑戦したことが糧になり、「フィジカルだけでなく、いろいろなことに耐え抜く力がついてきた」と振り返った村岡。自身もアルペンスキーで10個のメダルを獲得している大日方邦子チームリーダーも、「短い時間でコースを攻略したり、気持ちをコントロールしたりするところもうまい。サポートしているものとしては最高にうれしい」と話している。
陸上競技との二刀流は未定としながらも、アルペンスキーでは2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ大会への挑戦を表明している村岡。さらに磨きのかかったターンを魅せて最速でゴールする、進化した冬の女王の活躍を期待せずにはいられない。
text by TEAM A
key visual by AFLO SPORT
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