「重責がのしかかる管理職」働き方は変化するのか? IT新時代に求められるスキル
PHPオンライン衆知 / 2024年12月20日 11時40分
AIや自動化が進み、仕事の仕方が変わっていく中、管理職の役割も大きく変化しています。組織をどのように導き、自分自身のキャリアを築いていけばいいのか、迷っている方も多いのではないでしょうか。本記事では、これからの時代に求められるマネジャー像について、書籍『ビジネススクールで教えている武器としてのAI×TECHスキル』より解説します。
※本稿は、グロービス経営大学院著『ビジネススクールで教えている武器としてのAI×TECHスキル』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
管理職の役割とこれまでの変化
まず、管理職の役割をいくつかにブレークダウンしてみましょう。
マネジャーのあり方に関する考察で著名なヘンリー・ミンツバーグの論文では、マネジャーの仕事は大きく3つに分けられています。1つ目は対人関係役割、2つ目は情報伝達役割、3つ目が意思決定役割です。
このうち意思決定役割と情報伝達役割は、成果を出すことにより直接的にかかわります。それに対して対人関係役割は人を育てたり鼓舞したり、他部署との調整を図る役割です。この3つの役割を意識したうえで本稿を読み進めてください。
ここ十数年間のマネジャーの仕事の変化についてまず押さえておきたいポイントとして、マネジャーの責任が昔に比べ、重くなってきたという点があります。具体的には、単なる業務の管理監督者から、リソースの管理責任が生じ、さらに組織のフラット化によって周辺組織との調整まで含めたマネジメントをするように変化してきました。
さらにここにプレイングマネジャーの要素も加わります。2023年現在、概ね85%くらいがプレイングマネジャーです。プレーヤーとしての仕事が50%以上の管理職も4割以上いるとされます。
近年では、メンバーのマネジメントに求められるあり方も変わりました。より対話重視で配慮の必要性のあるやり方でコントロールしなくてはならなくなってきたのです。
また、フラット化した小さい組織が多く生じたことに伴って、管理職の仕事には、自分の組織のマネジメントをするだけではなく、組織外、あるいは外部ネットワークの活用でリソースを補うといったことが求められるようになってきました。
つまり、リソースの制約を超えて、どんどん組織外のものを活用することもマネジャーの仕事となってきたのです。この流れは、組織の垣根が低くなり、外部の企業や人材との協業が重要となる今後、ますます加速するでしょう。
IT新時代におけるマネジャーの仕事の変化
今後、マネジャーが率いるチームは、どんどんデータとITの仕組みを活用して、現場で自律的に動く組織になることが期待されています。短時間で意思決定していくことも必要です。データの統合などDXは最初は中央集権的にトップダウンで進むことが多いですが、ある程度浸透したら、次の段階では現場の自律的な判断でどんどん顧客(社内サービス部門であれば、社内顧客)の要望に合わせていくことが求められます。
DXが進むと、マネジャーが担ってきた情報伝達の役割も変わります。さまざまなデータが一元化されて誰でも見られるようになり、KPIや言語化されたノウハウなどが蓄積・可視化される結果、情報の非対称性が崩れていきます。
人事の機微情報等は別として、それ以外はほぼ可視化されすぐに検索できるようになっていくでしょう。つまり、情報格差で人をコントロールする時代ではなくなるということです。
そして、必要な情報のかなりの部分は簡単に手に入りますから、それを使って意思を持って物事を決めていく必要性が増します。
具体的には、自分の顧客(社内顧客も含む)のためにイシュー(課題)から見つけたり考えたりしなくてはならなくなります。自ら意思を持ち、情報を読んで、結論を出すというサイクルを高速で回す必要が出てくるわけです。マネジャーの意思決定役割が重要性を増すと言えるでしょう。
そのためには、クリティカル・シンキングの能力を高めて、より正しいイシュー設定や意思決定を行うことが必要です。クリティカル・シンキングは問題解決の思考法であると同時に、自分の意思決定に明確な根拠を付与する思考法でもあります。
さまざまな情報から何が言えるのか(So What?)を問う能力と、それとは逆に自分の主張についてなぜなら(Why?)を問いかけ理論武装する能力がきわめて重要になります。
また、(特に当面は)自分に必要な情報を整備してとっていくために、それをエンジニアに整備してもらわないといけません。彼らの力を使って自分に必要な情報を揃えなくてはいけないのです。それゆえ、ここでもテクノベート・シンキング*的な力も高める必要があるのです。これらのスキルを高めて業務を高速で回す必要があります。
*テクノベート・シンキングとは、徹底的にIT(機械)の力を活用することにより、人間だけでは実現できなかったソリューションを考案、実施しようという問題解決の方法論。テクノベートとはグロービスの造語で、テクノロジーとイノベーションを組み合わせたもの
人を相手にする仕事の変化
人を相手にする仕事も大きく変わることが予想されます。特に伝統的な日本企業では大きな変化がありそうです。
1つの大きな変化は、労働力の流動化です。正社員として長期間1つの業務、1つの企業に自身の時間の100%を注ぐ人は減っていき、管理すべきリソースの変化が激しくなったり、チームの定義が曖昧になったりします。かっちりした自分の部下と言える人は減っていきます。
そうなるとマネジャーは、先述した人脈(ネットワーク)を用いてリソースを集め、使うというスタイルに変化せざるを得ないでしょう。つまり、リソースの管理責任と言うとき、所与のリソースを管理するのではなくて、必要なリソースを集めてきて組織化し、管理して、不要な分は切るということまで責任が広がってくると想像されます。
たとえばある組織では、ITを用いた新プロダクトの開発にあたって、最初はマネジャーとエンジニア1人しか正社員がおらず、その後十何人も業務委託の人を集め、また他組織にさまざまな業務を依頼することでプロジェクトを進めていく、ということが起こるでしょう。
いったんサービスが出来上がったら、エンジニア組織は小さくし、オペレーションや営業の担当がさらに加わります。こうしたやり方がどんどん増えていくでしょう。それゆえ、プロジェクトをマネジメントする力が重要になってきます。
なお、プロジェクトのマネジメントについては、オーソドックスなプロジェクトチームの運営論(目標の明確化、メンバーの役割と責任の明確化、忌憚なくコミュニケーションできる場づくり、リソース管理、メンバー間のコンフリクトの解決など)に加え、IT時代においては、さまざまなプロジェクトマネジメントの方法論を知っておくことも大切です。
AIの進化などにより、プロジェクトの期間もどんどん短くなります。アジャイルに、トライアンドエラーしながら新しいサービスを作っていくようになるでしょう。チームも解散したりくっついたりといったことが増えます。
つまり、組織がフラット化するだけではなくて、組織全体が流動化、プロジェクト型になるわけです。企業規模によってどのような外部プレーヤーと組むかは変わってきますが、社外の組織や人材と組む機会は確実に増えるでしょう。
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