部下が「慕う上司」と「ご退場を願う上司」 何がその差を生むのか?
PHPオンライン衆知 / 2025年1月13日 12時0分
誰もが、不安や不満に覆われた組織で、大事な人生の大半を過ごしたくはないだろう。もし残念にもそんな境遇に置かれることになっても、自分だけはその「原因」にならない努力をしたいものである。自身が組織の仲間たちからどう見られているか。そうした意識を維持していくうえでのヒントを、書籍『組織と仲間をこわす人、乱す人、活かす人』よりご紹介しよう。
※本稿は、平岡祥孝著『組織と仲間をこわす人、乱す人、活かす人』(PHP新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
あなたは「おぞましい」上司になっていませんか?
とあるビジネス雑誌編集担当者から、「部下にとっておぞましい上司とは、どのような上司だと思いますか」という電話インタビューを受けたときのことです。
このような質問は初めてでした。私にとっては難問、いや奇問。人間的な面から魅力ある上司や軽蔑すべき上司を語ることは比較的容易です。けれども、「おぞましい上司」となると、一瞬、返答に窮しました。
ここはあくまでも個人的経験に基づくと断った上で、次のように答えました。
力量・手腕は限りなくマイナス評価であっても、強烈な上昇志向を持った輩が社内力学と処世術を駆使して、狙いを定めていた役職・職位に執念で就いたとき、部下に対する支配欲求を前面に出して権力や権限を乱用しつつ、命令と統制で押さえ付けていく上司になった場合ではないかと、私は考えた次第です。皆さん、心当たりはありませんか。
人間誰しも上位の立場に立つと、下位の人間を支配したくなるものでしょう。ですが、この誘惑と戦って、上司は支配欲求を抑える必要があります。なぜならば、部下の主体性や自主性を奪ってしまうからです。
実は教育現場においても同様です。教員が学習活動や課外活動において、自らの教育方法や指導方法を一方的に押し付けるために、生徒あるいは学生の成長の芽を摘んでいる事例は、枚挙にいとまがないでしょう。
あくまでも私見ながら、上司としての権力や権限の最善の使い方は、「必要があると判断した際には、権力の行使に何ら躊躇しないことを、普段から発信しておく。しかし、実際には行使しないこと」です。
適度な緊張感さえあればよいのです。実際に行使したならば、部下は萎縮してしまい、自主性や主体性を発揮するどころではありません。
その結果、優秀で気骨のある部下は反発し、長いものには巻かれろ的な部下は面従腹背に徹し、耐性の弱い部下は操り人形もどきに変身しかねない。
部下のワークモチベーションを引き出すためには、上司は部下との信頼関係を築いて心理的安心感を与えつつ、部下が潜在的に持っているであろう、貢献への欲求、有能感への欲求あるいは成長への欲求を刺激したり、満たしてやったりすることが必要です。
年上の部下には、上司としての立場で物を言う必要はあるものの、あくまでも長幼の序をわきまえて礼儀をもって接する。年下の部下には、下の人間と思わずに丁寧に対応し支援する。では、「理想の上司とは?」と問われたならば、私は「敬愛される上司」と答えますが、いかがでしょうか。
もう「退場したほうがいい」上司になっているのでは?
過日、私が尊敬する在京の企業経営者と会食した時に、「人口減少高齢化による市場の変貌に対応して、生き残る企業経営には何が求められますか」と尋ねたところ、「企業の未来は現在にしかないことを肝に銘じることです」と話されました。
一見安定しているように見えても、内実は不安定要素が隠れていることも少なからず。分析力や洞察力に秀でた者が警鐘を鳴らしたとしても、無視されたり、異端児扱いされたりしてしまう悲喜劇も起こります。
けれども、ひとたびマイナスインパクトを受けたならば、たちまち組織の問題点や脆弱性が露呈します。先送りされてきた火中の栗をポケットに入れられた経営職や管理職は不運ですが、覚悟に勝る決断なし。ここは背水の陣で立ち向かうのみ。
安定している時こそ組織の中に、適度の危機感や緊張感を醸成する必要があるのでは。その上で先見性のある経営者ならば、持続可能性を確実にしていくことを目的として、経営体力のあるうちに、未来に向けて布石を打ったり、戦略的に重点投資をしたりします。
余談ながら、自己責任論が闊歩する昨今、自身の市場価値を高めることとて同様です。自己研鑽と人格の陶冶に励むのは当然のことながら、身銭を切るさりげない布石と自己投資は大切です。
ただし、売り込みだけが先行してしまうような、下心見え見えでは嫌われますよ。世の中は実績と信用、そして人間性が評価軸。私の前職の私立大学教員時代には、インターンシップ事業や就職支援を通して、変化を恐れず、変化を取り込む経営者の謦咳に接することが、幾度かありました。
企業経営とは無縁の教員には、そのような変革志向の経営者の片言隻句までもが新鮮でした。魅力的な企業とは規模の大小ではなく、経営者の志が従業員に希望を与えている企業だと、私は考えました。
他方、経営職や管理職には時代性があるのではとも思いました。過去の成功体験を忘れることができない人ほど、新思考を受け入れるよりも、旧来的な意識や発想を捨て去ることが難しいのではありませんか。
自説に固執する。予断と偏見で判断する。助言や提案は素直に聞かない。原理原則よりも勘や感覚に頼る。非難中傷は大好き。感情がすぐ顔に出る。情実で意思決定する。これでは組織衰退は必定ゆえ、ご退場を誰もが願うことに。
だが、出処進退は自己決断。17世紀フランスの思想家ラ・ロシュフコーの言葉、「人の偉さにも果物と同じように旬がある」という言葉が思い出されますね。
仕事は必ず誰かが見ている――人間性があらわれる「引き継ぎ」
人事異動は悲喜こもごも。もちろん昇任・昇格や栄転もあるでしょう。他方、左遷という言葉は最近あまり聞かれなくなりましたが、不平不満の人事も多々ありや。けれども、どのような人事であっても他部署や新任地に異動する前に最も大切な仕事は、後任者への業務の引き継ぎではないでしょうか。
この引き継ぎに際しては、当人の人間性が如実に表れてくる場面の一つだと思います。引き継ぎは、駅伝のように業務のたすきをつなぐことです。
「後は野となれ山となれ」では、仕事人失格。後任者に託する気持ちが何より大切です。そして、後任者が着手しやすいように工夫することが第一です。
引き継ぎ資料は後任者の立場に立って作成しなければなりません。かつて自分自身が後任者であったときに困ったことを思い出せば、いろいろ浮かんではきませんか。
継続性の観点からは、文書による可視化が必要不可欠です。後任者の業務経験や業務知識にも配慮して、記述には意を尽くしたいものです。また、交代直後3カ月間程度までの優先順位を示してあげることも必要でしょう。
内示などから異動まで時間的余裕はさほどないでしょう。ですが、どれだけ意識的に引き継ぎ時間をつくることができるか否かが重要です。
意志あれば道あり。離任ゆえに手のひらを返したような対応や、粗雑な引き継ぎ資料をメールで一方的に送ることは、罪つくり。何も1回のまとまった時間ではなくてもいいのではないでしょうか。短時間であっても後任者との接触回数を増やすことの方が、逆に意思疎通が図られるかもしれません。
紙媒体の引き継ぎ資料に沿って、後任者には丁寧に説明していくことが大切です。後任者が初めて経験する部署ならば、なおさら時間をかけて説明しなくてはなりません。
情報通信網の発達で、どこにいても問い合わせは可能ですが、質問に快く答えてくれたり、気さくに相談に乗ってくれたりする先輩や同僚が近くにいれば、心強い限りです。困ったときに頼りになる人を紹介しておくことも、引き継ぎとしては親切この上なし。
ともあれ、引き継ぎは手間がかかります。手を抜くならば異動後、後任者から頻繁に問い合わせが来るかもよ。ついつい、いら立つ場合もあるでしょう。たとえ異動に不満でも、立つ鳥跡を濁さず。最後まで職責を全うすることは仕事の美学です。誰かが必ず見ています。
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