不妊治療の「始めどき」「やめどき」 日本は先進国の中でも「極めて遅れている」現実、男性の意識改革も喫緊
NEWSポストセブン / 2024年6月14日 16時15分
妊娠して安定期まで成長したとしても、妊娠中の母体には大きな負担がかかる。
「35才以降は高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤などのリスクが増え、それに伴う流産や死産の可能性も高まる。子宮や胎盤の状態から、早産になりやすい。早産で生まれてしまうと母体はもちろん赤ちゃんにとっても命にかかわります。また、40代になってから出産されて、きょうだいを産みたいという希望を持つかたも多いのですが、子育てにも体力が必要です」(岡田さん・以下同)
遡ること約10年前には、「卵子老化」という言葉に注目が集まり、不妊は女性の問題と考える向きもいまだに強いが、男性側にも当然加齢に伴う変化はある。日本生殖医学会は、「加齢とともに1日に作られる精子の数が減少する」ことや、「男性の加齢によって自然流産の確率が上昇」するという報告があることを公表しており、海外の疫学調査では、父親の加齢が子供の神経発達障害のリスクを上げるという結果も出ている。
子を産むのこそ女性だが、年齢の壁は男女ともにはだかるものであり、不妊治療の当事者は決して女性とは限らない。にもかかわらず、日本の不妊治療は女性にかかる負担があまりにも大きい。実際、厚生労働省が公表したデータによると2022年度の男性不妊の治療者はわずか513人だ。女性にかかる精神的負担は、経験者にとっても受け止め方はそれぞれ異なり、誰にもストレスを明かせないことがさらなる苦しみともなる。
「たとえば、体外受精をする場合の採卵は腟から卵巣へと針を刺して行うので痛みが伴います。1回の採卵につき2週間に4〜5回行うのが一般的で、後半の1週間で2、3日に1回は通院することになる。そのために、仕事をしている場合は遅刻・早退をせざるを得ず、両立させるのは簡単ではありません」
日本の不妊治療は世界でも遅れている
日本におけるこうした不妊治療の実態は、先進国の中では「極めて遅れている方」だと岡田さんは嘆く。
「そもそも日本の場合、不妊治療をしていること、不妊治療によって子供を授かったことを当事者が公にしにくいという特徴があります。前述の通り、いま不妊治療を行うことは決して特別なケースではない。いまより少しオープンにできれば精神的負担は緩和され、治療しやすくなる環境が作れるはずです」
河合さんも、保険適用の範囲拡大のほかにも国にできることがあると指摘する。
「海外で一般的になっている治療のひとつにPGT-Aというものがあります。これはいわば受精卵の着床前診断のようなもので、体外で受精させた受精卵を子宮に戻す前に染色体を調べ、染色体異常が認められない受精卵だけを戻すことで、妊娠しなかったり流産したりする体外受精を大きく減らすことができます。
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