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文芸評論家・三宅香帆さんインタビュー「批評より考察が人気の今の時代、批評の面白さを伝えたい」

NEWSポストセブン / 2024年7月17日 7時15分

 三宅さんの本を読む前、タイトルから現代の状況をざっくり解説した本なのかとなんとなく想像していたら、明治の長時間労働の幕開けから読書と労働の問題を語っていく本格的な内容だった。大正教養主義や円本ブーム、戦後のサラリーマン小説やバブル期のミリオンセラーに言及しながら、「労働と文化」というテーマを掘り下げていく。

「時代を大づかみにとらえた、ざっくりした時代論を読むのがもともと好きだったので、読書論を書きませんかと言われてそういう感じで書いてみようと思いました。

 よしながふみさんの『大奥』が大好きで、200年ぐらいを物語として描くときのエピソードの切り取り方が秀逸なんですよね。時代ごとの面白いポイントだけつかんでいく感じで、それでいて全体のストーリーにも納得感がある。ああいう書き方ができたらいいな、というのは今回、思っていたことです」

 読書史の本であると同時に、文化的生活をあきらめて長時間働くことを当然とする、今の社会のあり方を、本当にこれでいいのかと問いかける本でもある。

 読書や本についての本では、自己啓発書のベストセラーは否定的に扱われることが多い。映画『花束みたいな恋をした』でも、自己啓発書を読むようになった恋人を、本好きの女性は冷ややかに眺めるが、三宅さんの書き方はニュートラルで自己啓発書を必ずしも否定しない。

誰かをマウンティングせずに批評するにはどう書けばいいか

「自己啓発書へのアレルギーみたいなものは、学生時代の私にもあったと思うんですけど、今はそういう分断をつくっていいのかな? という問いかけをしていきたいです。

 本が好きとか、読書が趣味ということ自体がマウンティングや、誰かに優越感を示す材料になりやすいというのは、読書の歴史を見ていても気づきます。マウンティングへの拒否反応は、特に若い世代には強いので、書き方によっては読書そのものが嫌われかねません。誰かをマウンティングせずに批評するにはどう書けばいいかというのは、常に考えていることですね」

 そのうえで、「読書は人生の『ノイズ』なのか?」という章を設けている。自分と関係がない情報を「ノイズ」ととらえるなら、読書はノイズだらけの無駄が多い行為のようだが、自分と離れたところにあるものに触れることこそが教養なのだと三宅さんは書いている。

 今回の本は、出版社のウェブサイトで連載していたときから反響が大きかったそうだ。会社員時代、三宅さんはウェブマーケティングの部署にいたそうだが、本を出すときに何か試みたことはあるのだろうか。

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