「水と油」の関係だった夫・蒋介石と米国交渉役との間に立った宋美齢夫人の”人間力”
NEWSポストセブン / 2024年7月25日 12時10分
すると蒋介石は、彼に軍事指揮権を与える代わりに、さらに10億ドルの借款を交換条件として持ち出してきた。
スティルウェル中将は、ルーズベルト大統領に報告書をしたため、「蒋介石は無能で、米国が支援する価値なし!」と結論づけた。しかし、1942年2月、米国議会は借款の議案を通過させた。
蒋介石にとって、これは天から降ってきた贈り物に他ならなかった。
15億ドルという巨額の資金を手に入れた蒋介石は、資金の一部を日中戦争のために軍需品の購入に振り分けたが、大部分の資金は共産党討伐のための準備金として蓄積してしまったのである。
蒋介石とスティルウェル中将は「水と油」の関係だった。傲慢で癇癪持ち、高飛車な物言いをするスティルウェルに、蒋介石は反感を覚えていた。スティルウェルも、国民政府の汚職体質と蒋介石の身勝手なやり口に腹を立て、二人はあからさまに対立した。
「蒋介石の発言は宋美齢の考え」と疑う人も
当時の米中関係において、宋美齢が果たした役割で最も大きかったのは、米国議会での名演説とその後に行った全米講演旅行だろう。その二つの活動を通じて、彼女の人気が沸騰して、中国への同情と支持を得ることになったのである。
だが、それは宋美齢が最初から意図したことではなかった。
米国軍人や政治家、中国に駐在する米国外交官たちの中には、もともと宋美齢のファンが多かった。蒋介石と会談したりパーティーで同席したりするたびに、いつも蒋介石の傍らで通訳する宋美齢を見てきた。上流階級の使う英語と機知に富む話術、聡明で理知的で独特な見解を持ち、艶やかなチャイナドレス姿と神秘的な黒い瞳の彼女に魅惑された。それにも増して、彼女は中国の最高権力者の蒋介石主席の夫人なのだから、政治的な影響力も絶大だ。
蒋介石が一言いえば、彼女は三言、十言、即座に英語に訳してみせる。「あれは蒋介石の意見ではなくて、宋美齢の考えではないか?」と疑う人も少なくなかったが、「彼女は私の永遠の女神だ!」と、公言して憚らない米国人外交官もいたほどだ。
訪米のきっかけは「病気治療」
だが、宋美齢にとって米国人との交際はストレスが多く、中国内陸部の南京や重慶、さらに奥地の成都など、高温多湿な気候と不衛生な環境が耐えがたかった。いつしか疲労が積み重なり、全身の激しい痛みと強い倦怠感に襲われ、過呼吸の症状に見舞われるようになった。四六時中つづく激しい歯痛にも悩まされた。
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