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兄弟ユニット作家“大森兄弟”インタビュー「お互いの文章が違うという認識自体がなく、価値観を共有しているから書き続けられる」

NEWSポストセブン / 2024年8月1日 17時15分

 自慢の妻の尻を京の絵師に描かせ、挙句駆け落ちされた〈尻取の翁〉は因縁の屏風を、鉞担いだ亭主とは相撲が縁で結ばれたという〈熊娘〉は形見の陣羽織を返してほしいと訴えるが、行列は港まで延び、野次馬も含む有象無象の整理を従順な犬が、御白州の補助役は賢い猿が務めていた。

 さらに雉は桃次郎の命で島に通い、鬼の残党と闘うが、その苦労も〈三歩歩くと〉忘れてしまう。事情を知るのは傷ついた雉を毎日湯に入れ、介抱する下女の〈佳代〉だけで、彼女との切ない恋の行方も見物だ。

世界が閉じた瞬間お話は生まれる

兄「主を助けたり冒険したりする犬の映画が昔はあったじゃないですか。そういう犬の愛の重さへの違和感が、デビュー作同様、出ちゃった感じはします」

弟「猿も意地悪に書くのは避けようと兄と話していて、それで猿蟹合戦での悪行を後悔する猿にしたのかな」

兄「そして雉は『鶏は三歩歩けば忘れる』という諺を弟がしきりに言っていて」

弟「鳥頭=記憶喪失なんて典型的すぎますけど。でも雉は雄の方がキレイだし、受け専門なんだろうなとか、それで恋愛になったのか」

兄「いきなり佳代ちゃんを出してきたんですよ、弟が。試し書きの段階でもう雉と佳代ちゃんが散歩していて、ああ、こんなしっとりしたトーンで書くんだなって」

弟「僕は素直にいいなあと思った部分ほど記憶にないんですよ。当たり前すぎて」

兄「桃次郎が桃ではなく、川で拾ってきた〈マラフグリ〉から生まれた設定も、ダメ出しされると思ったら、ああ、いいのねって(笑)」

弟「少しギャグっぽい話はお互いニヤニヤしながら書いていますね。特にマラフグリはいかにも兄なんです、私に言わせると(笑)。そういう価値観を共有しているから、1つの作品を書いていけるのかもしれません」

 担当編集者によれば、正視を躊躇うほど剥き出しな人間を描いてきた著者の真価が存分に発揮されるために、昔話という誰もが知る拠り所が必要だったという。

兄「桃太郎にしても、物語はなぜ終わるのかって、確か弟が言い出したんです。登場人物にとっての世界が閉じた瞬間にお話は生まれ、結び目がなくなると今度は三つ編みが解けるみたいに、物語性は失われるって」

弟「一度は終わった物語をどう続けてどう閉じるか、そこは真剣に考えたよね」

兄「その時は『当たり前すぎるクエスチョンかなあ』とも思ったけど、自分もRPGゲームの終盤でずっとウロウロしているんですよ。敵を倒すと終わっちゃうのがイヤだから。そんな話を延々とできるくらいだし、たぶん今後も2人で書いていきそうな気はしますね」

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