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山内マリコさん、『マリリン・トールド・ミー』についてインタビュー「今回初めてフェミニズムについてストレートに書きました」

NEWSポストセブン / 2024年8月1日 7時15分

 東京の狭いマンションで孤独な毎日を送る杏奈のもとに深夜、1本の電話がかかってくる。かけてきたのは60年近く前に亡くなったマリリン・モンローで、杏奈は自分以上に孤独なマリリンの話し相手になる。

「古い電話機に死んだ人から電話がかかってくるという設定は、これまでの私の小説のリアリティラインからはかなり逸脱しています。でも、コロナが広がりはじめた2020年には、こんなありえないことが起きるのかという、世界線がゆがむような感覚がありました。ありえないことが起きてもそれほど突飛ではない、という感じだったので、これでいける、と」

 杏奈は社会学部の学生で、3年生になるとジェンダー学のゼミに入る。杏奈がマリリンについて知っていく過程は、山内さんがマリリンの人生を知る過程そのものだそう。

「過去の文献を探すと、1980年代、1990年代に出版されたマリリンの伝記の大半は、男性の著者によって書かれたもの。今読むと書き手のバイアスを感じて読んでいて不快になることがありました。視点を変えたくて、最近アメリカで出た未邦訳の本を翻訳アプリを使って読んだり、国会図書館で古い雑誌にあたって、マリリンがどんなふうに日本で受容されていったのかを調べるといったリサーチに切り替えました」

 頭の弱いセックスシンボルのイメージを押し付けられることにマリリンが苦しんでいたことは知っていたが、伝記の書き手の側にもバイアスがあったのではないかという山内さんの指摘には、目からウロコが落ちる思いをした。

自分と同世代をちゃんとした大人として書こうと心がけた

 杏奈がマリリンの孤独に向き合う、1人暮らしの部屋の場面は杏奈の視点で語られるが、大学では視点が変わって杏奈も登場人物の1人になる。ゼミのやりとりはリアルで、実際に大学で行われているゼミを取材させてもらったそうだ。

「私も大学ではゼミに入っていたんですがほとんど記憶がなくて(笑い)。今のゼミって、学生たちが全部運営していて、ゼミ長の学生が『なんでも聞いてください』と頼もしかったり、みんな勉強熱心で、とても刺激になりました」

 10人のゼミ生を半分に分けて、教室に来るグループとオンラインで参加するグループを交互に振り分けるハイブリッド型の授業は、コロナの時代ならではのものだろう。

 ゼミを指導する松島教授と、杏奈の母、杏奈の親の世代の若い人に対するつかず離れずの距離感が絶妙だ。

「ふだんは見守って、必要最低限なところだけ話に入る松島教授のやり方は、見学させてもらった先生の距離感そのままですね。松島教授は非正規の教員歴が長くて上の教員につぶされそうになったことがある設定にしていて、自分がそういう目に遭ったからこそ下の世代を抑圧してはいけないという思いが強い。私は松島教授や杏奈の母親世代に属しているので、同世代をちゃんとした大人として書こうと心がけました」

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