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谷川浩司・十七世名人が語り尽くす「羽生善治と藤井聡太」 2人の天才はなぜ“相手の得意戦法”を避けないのか

NEWSポストセブン / 2024年8月15日 7時15分

 藤井さんも似たようなところがあって、私が立会人を務めた叡王戦第二局、珍しく序盤で角換わりの最新型から少し変化したんです。これはあまり見られなかったことで幼い頃から何度も対局している伊藤さんが相手だから何かしらの気持ちの変化があったのかなと思いました。感想戦でも2人だけの世界といいますか、笑みを浮かべながら楽しそうでした。元々声が小さいのと、10手も20手も先のことを言っているので傍で見ていても何を喋ってるかわからなかったんですが(笑)。

 将棋は2人でひとつの芸術作品を作り上げていく作業でもあるので、拮抗した実力の相手が現れることは望ましいと思いますし、やっぱり前例から離れ、中盤や終盤のねじり合いが続いて、最後に互いの玉が詰むか詰まないかの局面を時間のない中で読み切っていくのが棋士として一番充実した時間だと思います。藤井さんは伊藤さんとの対局で、それを味わえたのではないでしょうか」

 棋は対話なり──。谷川は藤井と伊藤の対局の中にその萌芽を見てとった。それは全棋士の中で最も数多く対局している羽生と谷川の間にも存在したものだった。

「阿吽の呼吸という言葉がありますが、棋士も対局を重ねていくに従ってお互いにわかり合えてきます。私と羽生さんは一番多い時には年間20局以上対局したんですけれども、お互いに必ず何か新しいことを準備して臨んでいました。7六歩、3四歩と歩を突くだけなんですけれども、そこに込められた様々な準備や思いを読み取るんです。

 対局数が100を超える頃にはもう『定跡も前例も少ない形で戦いましょう』という理解があって、タイトル戦のどこか一局は相振り飛車という形で戦うことが多かったです。お互い基本的には飛車を最初にある筋で使う居飛車党なので、飛車を振ることは少なかった。だから実戦例も少なく、他の棋士も研究していないので可能性や自由さがありました。まだAIもない時代だったので許されたことかもしれませんが」

全冠制覇は辛すぎる

 全冠独占が崩れ、棋界が動き出す中、7月末に藤井への挑戦権を懸けた王座戦挑戦者決定戦が行われ、前年度の王座戦で藤井の八冠制覇を許した31歳の永瀬が53歳の羽生との大一番を制した。

「永瀬さんは前年度のリターンマッチになります。それとは別に王位戦では渡辺(明)さんが挑戦者になっている。渡辺さん、永瀬さんはトップ棋士の中で最も藤井さんに痛い目に遭ってきた2人です。八冠が崩れて将棋界が動いたのは確かですが、タイトルを獲ったのが21歳の伊藤さんなので、30代の2人にしてみれば手強い後輩がもう1人増えたということ。

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