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なぜイーロン・マスクの宇宙プロジェクトは成功したか 「スペースX」の成功要因にある“モジュール性”

NEWSポストセブン / 2024年9月3日 11時45分

 たとえば巨大な水力発電ダムを例に取ろう。このプロジェクトは、川を巨大ダムでせき止めるか、せき止めないかの二者択一の問題で、モジュール性が入り込む余地などない、と思うかもしれない。

 だが実はあるのだ。河川の水流の一部を迂回させ、小型の水力発電タービンに通してから元の水路に戻すこともできる。これは「小(規模)水力発電」と呼ばれる方法だ。この種の発電設備は規模が小さく、巨大ダムに比べわずかな電力しか生成できない。だがこれらをレゴとみなして、いくつも組み合わせれば、環境負荷と反対運動、コスト、リスクを抑えながら、大規模な発電を行うことができる。

 水力発電王国ノルウェーは、人口わずか500万人だが、小水力発電を国策として積極的に推進し、2003年以降350件を超える小水力発電プロジェクトを進めており、その数は今も増え続けている。

 巨大工場の建設は、1つの大きいものをつくるか、つくらないかの二択に思えるかもしれない。だが起業家イーロン・マスクの自動車会社、テスラが建設するギガファクトリー1(現ギガ・ネバダ)は、当初からモジュール方式で設計された。

 マスクのレゴは、小さい工場だ。それを1つ建設して、稼働させる。その隣に2つめを建てて1つめと統合し、3つめ、4つめと増やしていく。テスラはこの方法を取ることによって、巨大施設の建設作業を進める間にも、発表から1年と経たずにバッテリーの生産を開始して、収益を上げ始めた。完成すれば、21のレゴブロックからなる、世界最大の敷地面積を有する工場が誕生する。

 イーロン・マスクはモジュール性の主要要素を、彼のエンジニアリング手法の根幹に据え、まったく異質なベンチャーにもモジュール性を導入している。宇宙輸送とサービスに革命を起こしたマスクの会社スペースXは、テスラと何の共通点もないように見えるかもしれない。

 だが再現可能なモジュール設計によって学習曲線を駆け上がり、実行を加速させ、パフォーマンスを改善する手法は、スペースXの計画立案・実行方式にも織り込まれている。

 これまで宇宙開発は、大規模で複雑な単発的プロジェクトを中心として推進され、膨大な資金がつぎ込まれてきた。設計・開発に当初予算の5.5倍の88億ドルを要した、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、その最新の一例に過ぎない。だが宇宙開発にもモジュール性の教訓が定着しつつあることを示す、有望な兆候がある。

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