《追悼》知の巨人・松岡正剛さん、週刊ポスト連載最終回を振り返る「日本の大切な面影がどのようなものであったか」現代に問う課題は重く響く
NEWSポストセブン / 2024年9月3日 11時45分
歴史や哲学、システム工学など異なる分野を編集という手法でつなぐ「編集工学」を提唱した著述家の松岡正剛氏がこの世を去った。独自の視点で日本文化を論じ続けた“知の巨人”は、2000年からウェブ上で一日一冊ずつ紹介する読書案内『千夜千冊』を開始。その数は1800冊を超え、知の源泉の一端が世に広く開かれている。
本誌「週刊ポスト」では2011年から100回にわたり連載『百辞百物百景』を寄稿いただいた。「氏神」「供養」など日本的なキーワードと、現代日本の様相を鋭く切り取った写真を組み合わせ、文化論や社会論を縦横無尽に展開した。
今回、「週刊ポスト」2013年9月13日号に掲載された同連載の最終回を再掲載。松岡氏が「いちばん大事にしている日本語」をめぐる思索の海に、今一度深く潜ってみたい。
「面影」~日本で一番大事な言葉です~
私がコンセプト・ジャパンとしていちばん大事にしている日本語は「面影」である。NHKで8回にわたって日本文化の特色を歴史的に視覚講義してほしいと頼まれたときも「おもかげの国・うつろいの国」と名付けた。
万葉集に「陸奥の真野の草原遠けども面影にして見ゆといふものを」という、笠女郎が大伴家持に贈った歌がある。家持が心ならずも陸奥に赴任したとき、笠女郎があなたの姿は都からは見えないけれどその面影はいつも見えていますよと詠んだものだ。その家持が坂上大嬢に贈った歌にも「かくばかり面影にのみ思ほえばいかにかもせむ人目しげくて」とあって、人目があるのでなかなか会えないけれど、面影とはいつも会っていますよと歌っている。
面影は現実の日々を超えてイメージの中で去来するプロフィールなのである。「俤」とも「於母影」とも綴る。人の面影ばかりではない。渡辺京二の名著に『逝きし世の面影』があるように、時代や国や故郷についての面影もある。日本人はこの面影をきわめて重視してきた。その面影が失われることを痛ましく感じてきた。
面影はたんなる記憶像のことではない。胸中にも眼前にも浮かぶ最も大切なコアイメージであり、その束であり、その因果応報である。それを辿れば自分や故郷や国がかつて大切にしてきた“面影ネットワーク”ともいうべきを次々に手繰り寄せることのできるものなのだ。万葉人はそれを歌枕などにも託した。
いま、われわれは日本の大切な面影がどのようなものであったかを、いささか忘れてしまっている。面影の候補はいろいろあるだろう。建設途中の東京タワーであることも、「抜けられません」という看板があった横町であることも、小さいときに習った小鼓であることも、ありうる。では日本人の集団心理としては何が面影になっているのか。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
法政大学名誉教授、江戸文化研究者である田中優子氏が、イシス編集学校の学長に就任
PR TIMES / 2024年9月2日 17時15分
-
ドクター和のニッポン臨終図巻 著述家・松岡正剛さん 人生の4分の1をがんと共存 病得てさらに冴えわたっていた筆、再読して日本を見つめ直したい
zakzak by夕刊フジ / 2024年9月2日 15時30分
-
著述家・松岡正剛さんが肺炎のため死去 享年80 「編集工学」提唱
ORICON NEWS / 2024年8月21日 13時3分
-
著述家松岡正剛さんが80歳で死去、がん再発から肺炎で 後日「お別れの会」開催予定/発表全文
日刊スポーツ / 2024年8月21日 10時52分
-
松岡正剛さん死去、80歳 著述家、編集工学者
共同通信 / 2024年8月21日 10時29分
ランキング
-
1クレジットカードをポケットに入れたまま「洗濯」してしまいました。外見は問題なさそうですが、このまま使用できるのでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月3日 2時20分
-
2あと3か月で今の健康保険証は廃止?マイナ保険証に変えないといけないのはいつまで?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月2日 8時4分
-
3東名・新東名「無料で通行できます」神奈川の国道246号通行止めで緊急措置 非ETC車も料金0円 「ありがたい」「神対応」の声も!?
くるまのニュース / 2024年9月2日 20時25分
-
4コレコレ、有名音楽Pによる「にじさんじ」所属VTuberらの盗撮疑いなどを告発。「品性下劣」「業界にいちゃいけない」と痛烈批判
オールアバウト / 2024年9月2日 11時5分
-
5「詰まってるトイレットペーパーはピンクが多い」?…設備業者の投稿が話題に
まいどなニュース / 2024年9月2日 16時50分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください