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カツセマサヒコさん、3作目の長編小説『ブルーマリッジ』についてインタビュー「自分の中に潜む偏見とどう向き合っていくかは一生続くテーマだと思う」

NEWSポストセブン / 2024年9月1日 16時15分

 はじめは妻から離婚したいと言われる土方を軸にして書いていたが、改稿するうちにどんどん変わっていき、雨宮と土方をほとんど同じ重さで描く、いまのかたちに落ち着いたという。

 優秀な営業マンの土方は、管理職になると部下にも自分と同じように働くことを要求、目をかけていた部下の女性にパワハラだと訴えられる。パワハラを匿名で告発できるこの制度の発案者が人事部に配属された雨宮だった。

「2人がそれぞれ『いいやつ』と『悪いやつ』になっちゃいそうですけど、善と悪に分けてこの小説を書きたくない気持ちがすごくあって。人間関係も、もっと大きい国と国との関係性もそうなんじゃないかと思うんですけど、それぞれがこれまでの慣習や信念に基づき行動した結果、加害が起きると思うんですよね。

 なので、加害にいたるまでの過程にもスポットライトを当てて書こうと意識しました」

 おれはこんなにがんばってきたのに、どうして妻も部下もわかってくれないのか。土方の目に見える世界も丁寧に描かれるので、彼の心情がきちんと読者に伝わってくる。

 雨宮についてもそれは同じで、パワハラ被害者の話を聞く立場の雨宮が、ある人との関係では小さな加害をくりかえし、その本人から言われるまでそのことに気づいていなかったりもする。

完成だと思って原稿を送るたびに、大量の赤字が返ってきた

 苦境の彼らに手を差し伸べるのが、どちらのケースも同性の知人であることにもカツセさんの思いが投影されている。

「男性性の鎧みたいなものを着こんでいるとき、その鎧を剥いでくれる人が近くにいないといけない、というのは自分が実感していることで、男性どうしでケアできたらいいな、という気持ちがありました。窮地に陥った男に女性が手を差し伸べる、ケア役に女性をあてる物語は、もういいかなと思ったので」

 原稿を書き上げてからさらに1年近く改稿を重ね、最後は出版社の宿泊施設に泊まり込んで完成させたそうだ。

「ぼくはこれで完成だと思って原稿を送るんですけど、そのたびに大量の赤字が返ってきて。なんで伝わらないんだ!と思いながらも直すたびに圧倒的によくなる実感があるので悔しいですよね(笑い)。

 改稿を重ねるたびに担当編集者と議論を重ね、『こういう被害を受けた人はこんな発言をできるだろうか?』『どんな会社なら現実的か?』とじっくり話し合いました」

 カツセさんは新卒で印刷会社に入社し、小説の雨宮と同じように人事系の職場に配属されている。メンタルヘルスの問題で休職した社員の復帰面談や退職面談に立ち会ったこともあったそうだ。

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