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【書評】宇垣美里が漫画『トラとミケ』を読む「私の知らない“昭和”を思わせる懐かしさが漂っていてほっこりと心が温まった」

NEWSポストセブン / 2024年9月4日 7時15分

【書評】『トラとミケ』/ねこまき(ミューズワーク)/小学館/1〜6巻とも1485円。
【評者】宇垣美里(フリーアナウンサー・俳優)

“行きつけの飲み屋さん”が大人になるとできるものだと思っていた。仕事帰りにふらりと一人で寄って、店員さんや顔なじみのお客さんとなんてことない会話を楽みながら美味しい料理に舌鼓を打つうちに、いつの間にかその日の疲れから解放されている自分にふと気づく、そんなお店が。大人になって十数年経つけれど、未だにそんな居場所はできていない。食事は基本自炊だし、今日は仕事の話しかしなかったなあ、なんて日も時にはある。ああ、うちの近所に「トラとミケ」があったらなあ。きっと毎日通っちゃうのに!

 名古屋の猫道商店街にある、トラとミケの姉妹がきりもりするどて煮屋「トラとミケ」には、今日もたくさんの常連さんが訪れている。お客さんたちの目当ては50年以上継ぎ足してきた味噌だれでじっくり煮込んだどて煮やサクサクの串カツ、そしてわいわいと賑やかなこのお店の雰囲気だ。

 鉛筆と水彩で優しく描かれる擬人化された猫たちの日常。いや、猫化した人々の日常、だろうか。全ページ淡いカラーで台詞もみな手書きの柔らかな文字で書いてあり、迸る多幸感に連日のブルーライトで疲弊した目が癒される。マンガはもっぱら電子書籍派の私も、この作品ばかりは紙で所有。風情ある下町で繰り広げられる密な人間模様は、私の知らない“昭和”を思わせる懐かしさが漂っていてほっこりと心が温まった。

 店内のメニューはもちろんのこと、トラとミケが自宅で育てているぬか漬けに梅干し、近所のカフェで提供される白樺サンドまで、そろいもそろってとても美味しそう。読み進める毎にどんどんお腹が空いてくる。春のお花見や冬のお正月のおせちなど、その季節ならではの食事や景色の描写も楽しく、巻数関係なく今の自分と同じ季節のページを探して読むのもおすすめだ。

 東京オリンピックや客のひとりが見に行く映画の『君たちはどう生きるか』、敬老会の面々が美味しそうに食べる“ぴよりん”など、現実とリンクしている小物使いにも思わずにやり。

 最新刊である6巻では、“にゃーディアン”と名乗る商店街敬老会の面々たちにスポットがあてられる。よろず事相談所を立ち上げ、様々な寄せられた相談事を解決していく一方で、歳をとって家族のお荷物のようだと感じる自分の立場に凹んだり、オレオレ詐欺に遭遇したり。あっけらかんとした明るさがあるのにどこか切なくほろ苦い。とあるキャラクターの認知症が分かってからの描写には、亡き祖母との日々を思い出しぼろぼろと涙が止まらなかった。

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