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《標高3000メートル密着ルポ》槍ヶ岳で医療ボランティアが支える“雲の上の診療所”、時代とともに変わる山頂のリアル「雪はどんどん減り、熱中症の登山客が……」「人手が足りず週末しか開所できない診療所も」

NEWSポストセブン / 2024年9月6日 7時15分

 この日の午前中までに、不調を訴える登山客7人を診察した鹿野医師は苦笑いを浮かべながら語る。

「高山病や熱中症とみられる方、山頂から降りる際に転倒して軽い外傷を負った方などを治療しました。どなたも大事には至らず、本当によかったです。

 高山病とみられるうちの一人は小学生くらいのお子さんでした。シャイな性格なのか、何を聞いても首を横に振るか、うなずくだけで問診が大変で……。その子は翌朝4時にもう一度診察し、無事に下山していきました。想定外のことが起きてしまうのが山ですが、こうしたケースは予想していませんでしたね」

 幸いにも午後から翌々日までの患者はゼロ。天候にも恵まれ、落ち着いた時間が続いた。

 こうした空き時間には、医療従事者たちはパトロール中の山岳遭難救助隊の隊員らと共に登山客に声をかけて体調を確認するほか、診療所の屋根の上で布団を干し、山荘名物のプリンを食べて休憩することもあった。そして、夕方になると山荘の厨房やバックヤードを手伝い、宿泊客の食事の後で山荘のスタッフと一緒に夕食をとる。

 1年ぶりに再会する旧知の山荘スタッフとのおしゃべりも欠かせない楽しみのひとつだ。そして、日中は天候と時間によって刻々と変化する槍ヶ岳の雄大な姿を、夜は静寂に包まれた満天の星空を眺める。ボランティアの彼らにとって、山を愛する仲間との時間と絶景が唯一の報酬なのだ。

近年は熱中症患者が急増「低体温症は減ったが、温暖化の影響が出ている」

 一方で、令和の山岳医療の現場では、昭和・平成とは異なる変化も起きている。20年近く槍ヶ岳診療所のボランティアを続けている看護師が話す。

「標高1000メートルを超えるごとに気温は6度下がると言われますが、昔と比べて低体温症で運び込まれる患者さんは少なくなりました。防水・透湿性、速乾性に優れたウェアの普及によって低体温症に陥る人が減ったことが大きいと思います。逆に近年は熱中症になる人が増えている印象です」

「槍ヶ岳山荘」の社長を務める穂刈大輔もまた「悪天候で低体温症になるケースはありますが、ここ数年は例年より気温が高く、熱中症になるお客さんが増えています。夏の雪渓の面積もどんどん減っていますし、温暖化の影響が出ていると思います」と懸念していた。

 さらに山岳診療所が抱える、ある“課題”についてもこう語る。

「山岳診療所の中には勤務医を派遣してもらっている所もありますが、ほとんどの場合がボランティア頼みです。人手が足りず、週末しか開所できない所もあると聞きます。そんな中、槍ヶ岳診療所はボランティアにもかかわらず、手厚い体制でよくやってくれています。

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