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《デビュー35周年》今なお熱視線を集める漫画家・安野モヨコ 幅広い作品に共通して描かれる“女の生き様”とそれを支える“欲望”

NEWSポストセブン / 2024年9月7日 11時15分

 美しくも恐ろしい女たちの欲望の形は、作品によってさまざま。『ハッピー・マニア』の主人公・カヨコが《彼氏ほしい!!》と恋愛に全力投球している一方で、『働きマン』の主人公・松方弘子は《あたしは仕事したなーって思って 死にたい》と、仕事に生きがいを求める。その根底にある「本音」は共通していると、トミヤマさんは読み解く。

「そうした欲望の根底には“自分の力で自分の居場所を手に入れたい”という本音があるのではないでしょうか。少女マンガ研究者の藤本由香里さんが『私の居場所はどこにあるの?』という本を書いていますが、安野作品の登場人物もやはり、“居場所”を探しているんです。作品のテーマやキャラクターによって、それを恋愛に求めるか、仕事に求めるかが異なる。そして“居場所が欲しい”という本音は、現実を生きるすべての女性にも共通しているでしょう」

 もう1つ、安野作品に通底するのは、大きな野望ではなく極めて即物的な欲求が描かれていることだ。高校生の頃から安野作品を愛読してきたという作家の鈴木涼美さんが分析する。

「“いまよりかわいくなりたい”“いい男とつきあいたい”といった、ゆるくて、どこか即物的な欲望がほとんどです。けれど、そんな取るに足らない、でも次々と湧き上がってくる小さな欲望こそが、私たち女性が日々を生き抜く糧であり、なくてはならないものなのだと再確認できる」(鈴木さん・以下同)

 その姿からは、“欲望がないと生きられない”という女の本質が浮かび上がってくる。

「立身出世に向かって努力すればお金も愛も手に入る男性とは違い、女性はややこしい。高学歴や高収入が必ずしもモテにつながらないどころか、モテの邪魔になることもあるし、かわいいだけではばかにされる。家庭を持つことができても、独身で自由に働いている女性がうらやましくなる日がある。どこを向いて努力すればいいかわからないからこそ、女はあらゆる種類の欲望を抱き続けるんです。

 恋やおしゃれを全力で楽しみたいけれど、それだけでは満たされない。仕事で成功したいけれど、やはりそれだけでは満たされない。安野先生はこの表裏一体の欲望を、絵と物語で見事に表現していると思います」

叶わなくても欲し続けていたい

 一方で「欲望を満たされたくないという欲望」も描かれている。何度恋愛で失敗しても懲りずに恋に夢中になる『ハッピー・マニア』のカヨコがそうだ。

「欲望を叶えることよりも、追いかけ続けることが生きる活力になるのです。そうした女性は、満たされた途端に燃え尽き症候群になってしまいます」(三宅さん)

 不幸になると知りながら突き進もうとしたり、反対に申し分のない相手のはずなのに「この人と結婚して本当に幸せになれるのかしら」と悩んだりする経験は、多くの女性は身に覚えがあるはずだ。

「人生のさまざまな局面での女としての不安や揺らぎ、そして欲望は、主人公たちと同世代が読めば共感し、年を重ねてから読めば“古傷”が痛気持ちよくうずく。その実感はリアルを超えてもはや生々しいほど。時代や地域、時には種族さえ違う登場人物たちと、感情が接続されるのです」(トミヤマさん)

 女に生まれた以上、何才になっても強く、「欲深い女」でいよう。それこそが“居場所”をつくるはずだ。

※女性セブン2024年9月19日号

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