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【逆説の日本史】「天皇信仰」がもたらした「野蛮にして極悪」なソビエトに対する強い反感

NEWSポストセブン / 2024年10月24日 11時15分

 ここで、ちょっと袁世凱のことを思い出していただきたい。なぜロシア革命の分析中に袁世凱の話が出てくるのかと思われるかもしれないが、それが当時の人々の気持ちになって考える、ということである。歴史学者の場合はロシア史が専門の人間と中国史が専門の人間は違うので認識が難しいが、当時の一般の日本人にとってみれば袁世凱もニコライ2世も同じ地球という空間に同時に生きていた人間だ。その袁世凱を日本人はどう思っていたか?

 あえて繰り返すまでも無いだろう、中国が向かおうとしていた近代化路線を妨害した極悪人で、日本人にとっては不倶戴天の敵である。中国の民主体制を確立しようとした宋教仁を暗殺し、自ら皇帝になろうとした野蛮人でもある。しかしここが肝心だが、その「極悪人にして野蛮人」の袁世凱ですら「清皇帝一家皆殺し」はやっていないのである。

 もちろん、それは袁世凱がとくに寛大だったわけでは無く、さまざまな理由があったことはすでに述べたとおりだ。しかし、どんな事情があったにせよ袁世凱は「清皇帝一家皆殺し」をやっていないのに、ロシア共産党は皇帝一家を幼子に至るまで皆殺しにした。しかも正式な裁判もせずに、だ。国王夫妻をギロチンにかけたフランス革命ですら形式的な裁判はあったのに、である。

 おわかりだろう。当時の日本人がロシア革命、いやその革命を実行したロシア共産党をどう思ったか? あの袁世凱ですらやらないことをやった、「野蛮にして極悪な組織」ということである。前回述べたように、革命軍はその旗印が赤色であったことに基づき「赤軍」と呼ばれたのだが、そこから日本では共産主義者に対する蔑称として「アカ」という言葉が生まれた。「アカは極悪人」「アカは撲滅すべき」という思いが、日本人の共通信条となってしまった。

 日本人にも共産主義に共鳴した人間はいた。当時の世界は欧米列強によるアジア・アフリカに対する植民地化が進んでおり、それは自由や平等という人類の普遍的価値を犯すものであった。ではなぜそうなったかと言えば、資本主義が発展すると侵略を肯定する帝国主義になってしまうからだ。

 もともと経済学者であったカール・マルクスは、資本主義を捨てて新しい経済体制すなわち共産主義体制を構築しない限り、こうした「悪」は根絶できないと考えた。マルクスは理論を述べたにすぎないが、それを実践し実際にそうした国家を建国したのが革命家ウラジーミル・レーニンである。彼が建国したソビエト連邦は、最終的には自由を弾圧し周辺の国をまさに「帝国主義的」に侵略する、とんでもない国家になってしまいわずか六十九年で滅亡したが、そんな未来を当時予測した者は一人もいない。

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