【逆説の日本史】「対ソ干渉戦争」失敗の原因となった「シンボルと新国家のビジョン」欠如
NEWSポストセブン / 2024年12月2日 16時15分
この「戦い」をまともに描こうとすると、それだけの紙数を必要とするということだ。だが、この『逆説の日本史』は通史であるので、いかに重大事件とは言えそんなバランスを欠いた叙述はできない。そこで手っ取り早くこの五年間を理解してもらうために、二人の人物の経歴を紹介したい。
一人目は、グレゴリー・ミハイロビッチ・セミョーノフ。ロシアのコサックで、アタマン(頭目)と呼ばれた男である。二人目は、アレクサンドル・ヴァシーリエヴィチ・コルチャーク。ロシア帝国海軍で提督まで昇りつめた男である。
まず、セミョーノフ(1890~1946)だが、『世界大百科事典』(平凡社刊)では次のように説明されている。
〈ロシアの反革命派の軍人。ザバイカルのコサックの出身で、一等大尉。ロシア革命直後、〈満州特別部隊〉と称する白衛軍組織を編成してザバイカル州の革命勢力と対決した。その活動に着目した日本の参謀本部は武器と資金を提供し、軍事顧問団を派遣するなど、密接な関係をもった。1918年8月に連合国の本格的なシベリア軍事干渉が開始されると、日本軍の支援のもとにザバイカル州に反革命地方政権を樹立し、州民に対して苛酷な軍事独裁体制をしき、他方コルチャークの反革命軍事独裁政権とも対立した。1920年初頭にコルチャーク政権が崩壊したのちもチタ地方に居すわったが、同年秋に極東共和国人民革命軍に敗北し、そのころまでに日本の支持も失い、その政権は崩壊した。(以下略)〉
次に、コルチャーク(1873~1920)も同事典に以下のように記述されている。
〈帝政ロシアの提督。日露戦争に従軍、戦後の海軍再建に奔走した。二月革命時に黒海艦隊司令官であったが、革命で高揚した水兵の要求で1917年6月に辞任に追い込まれた。臨時政府によりアメリカに派遣されたのち、帰途、横浜で十月革命の報に接した。対ドイツ講和を結んだレーニン政権に対抗すべく、連合国とくにイギリスの後援をえてシベリアに乗り込み、18年11月に〈全ロシア政府〉陸海軍相、次いで同月のオムスクにおけるクーデタにより〈最高執政官〉に就任して軍事独裁体制をウラル以東のほぼ全域に樹立した。しかし軍事的敗北にともない、翌年末までにこの体制は崩壊した。イルクーツクで革命委員会の裁判をうけ、銃殺された。〉
ポイントはおわかりだろう。まずセミョーノフだが、彼は「日本軍の支援のもとにザバイカル州に反革命地方政権を樹立」した。つまり、「山県の夢」はこの時点で「正夢」となったのだ。そればかりでは無い。コルチャークに至っては「イギリスの後援をえてシベリアに乗り込み、(中略)軍事独裁体制をウラル以東のほぼ全域に樹立」したのだ。
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