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上田健次さんインタビュー『銀座「四宝堂」文房具店』シリーズ誕生の裏側「本が好きな人はどんなことが好きなんだろう?と考えてこの作品に辿り着きました」

NEWSポストセブン / 2024年12月11日 17時15分

「四宝堂」の第1作も、すぐに重版がかかったわけではないが動きは悪くなかったので、最初は書店1店舗だけのフェアから始め、それがうまくいくと、他店にも広げていき、次第に少しずつ読者が増えていった。

「本当に丁寧に育てていただいたんです。限られた店舗での展開のためにポップをつくっていただいたり、営業担当者が、いろんな店舗に足を運んでくださったり、細やかに動いてくださいました」

 さまざまな文房具が小説には出てくる。はじめにゲストとして店を訪れるその回の主人公の性別と年齢、名前を決め、鍵となる文房具を決めるそう。万年筆にシステム手帳、大学ノートにメモパッド。なじみ深い文房具が次々、登場する。最新巻の4巻ではスクラップブックやクリップ、奉書紙などが物語の展開に重要な役割をはたす。

 近ごろはデジタルでのやりとりが主流だが、長年にわたって使われてきた文房具には懐かしさが呼び起こされる。

 文字の乱れや筆圧、書き癖など、手書きの文字には、デジタルデータの情報からは読み取れない、書き手の感情を伝えることがある。

 色鉛筆のセットに入る色や、色の名前など、一見何も変わっていないような文房具にも、時代による変化があるそうだ。

「文具プランナーの方にも監修していただいているんですが、古い文房具について書くときは、フリマアプリに出品されている色鉛筆のセットの写真を見て色を確認するとか、自分でも細部を調べたりしています」

「改めて見直すと文房具って本当に種類が多い」

 編集者からは、「あまり手紙にこだわらないでください」という助言を受けたそうだ。

「これを言われたのは大きかったですね。手紙は確かに人の気持ちを伝えますが、それだけにしてしまうと小説の世界が広がらなかったかもしれません。改めて見直すと文房具って本当に種類が多くて、会社でオフィス用品通販のカタログをめくって、書くネタに困るということにはならないだろうなと思いました」

 会社で、という言葉が出てくることでおわかりのように、上田さんは現役ビジネスマンでもある。有名日用品メーカーの執行役員として働き、執筆は土日に集中してやるそうだ。

 生まれは東京・吉祥寺で、中野区の新井薬師で育った。家族で気軽に出かけるのは中野駅周辺、ちょっと足を延ばすのは新宿で、銀座はよほどのことがないと行かない特別な場所だったという。

「品がいい街ですよね。社会人になりたてのころは品川の独身寮に入っていたので、何かあると銀座や有楽町に行ってました。並木座(名画座)がまだあったし、戦災を免れた古い建物も残っていて、柳の緑があって。綺麗なお姉さんがたとのご縁はできませんでしたけど(笑い)、路上駐車のためのポーターが待っていて、という銀座の雰囲気はやはり特別でしたね」

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