《アメリカ大統領選が10倍面白くなる》得票数で負けても勝てる“不合理システム”はなぜ生まれたのか 「ハリスが勝ったらテキサス州は独立する」という噂が流れたワケ
NEWSポストセブン / 2025年1月18日 11時15分
本連載ではこの選挙人制度についての解説を行なってきたわけであるが、「なぜこんなシステムをアメリカは採用しているのか」について、疑問に思う読者は多いだろう。しかし、これはアメリカの建国史と密接に結びついた、なかなか興味深い問題なのだ。
アメリカ合衆国は1776年、当時の北米大陸にあったイギリス植民地が本国から独立してつくられた国だが、その英植民地時代、すでにニューヨークやバージニアといった、現在のアメリカの「州」となる地域コミュニティは成立していた。ジョージ・ワシントンやジョン・アダムズといった建国の父たちは、あくまで自らが所属する、それらの地域コミュニティを独立させるため、イギリスとの独立戦争を戦ったのである。
これら北米大陸の地域コミュニティが無事にイギリスを退けて独立を果たした後、そこに州を取りまとめる“国家組織”をつくる必要を感じていなかった人々は、当時のアメリカに実際のところ、かなりたくさんいた。しかしながら、やはり各州の上部組織は必要だとの声もあって、「アメリカ合衆国」なるものは、かなりの妥協の末に成立した政府なのである。独立直後のアメリカ合衆国とは、強力な国家政府というより、現在のEU(ヨーロッパ連合)のようなものと一般にはとらえられていたし、初代大統領のワシントンも、自分が各州に強力な命令を下せるような存在だとは、特に思っていなかった。
アメリカ合衆国の主権は人民ではなく各州にある!?
これはアメリカ合衆国憲法を見てみれば明確にわかることだが、実はこの憲法には、例えば日本国憲法には明記されている主権在民、すなわち「一般民衆に国の主権がある」などといったことを直接規定する文章は、どこにも書かれていない。ここからアメリカには、「『アメリカ合衆国』の構成員とは、人民ではなく実は各州であり、人民はそれぞれが居住する各州の民ではあっても、『アメリカの民』ではない」といった考え方が伝統的に生まれてくることとなった(「州権論」という)。
この考え方を元に、「州は中央政府(合衆国政府)に不満があれば、その枠組みから脱退していい」という発想に至り、19世紀の南部諸州が起こした反乱が南北戦争である。もちろん、この南部の反乱は北部(合衆国政府)によって鎮圧され、今では「アメリカはきちんとした国家政府であり、主権者は人民である」といった考え方が一般的になってはいる。しかし、今回の大統領選が行なわれていた最中、「もしハリス政権ができたら、共和党の強いテキサス州はアメリカから独立する」などといった、本気か冗談かわからないようなニュースが流れていたのを見た記憶のある読者も多いだろう。それくらい、今なお州権論はアメリカ人の精神の奥底に、しっかりと根付いている思想でもあるのだ。
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