"日本の夏の通勤地獄"を変えた《関西私鉄戦争》 冷房車導入への“昭和なハードル”と庶民には異次元な「超ぜいたく列車」とは
NEWSポストセブン / 2025年2月12日 6時52分
戦前の京阪は、飛ぶ鳥を落とす勢いで“京阪王国”の建設に向けて爆進した。
ところが……。
特急「燕」を追い抜いて話題になった新京阪線(大阪・天神橋‐京都・大宮)を阪急に持っていかれた。
名古屋と京都を結ぶ「直通特急」計画が頓挫した。
阪神電鉄との合併話は幻になってしまった。
経営参加していた阪和電鉄(大阪‐和歌山)を南海に持っていかれた。
奈良電気鉄道(京都‐奈良)をめぐる近鉄との買収合戦に敗れた。
2府6県にまたがる“京阪王国”の野望は夢と消え、残ったのは京阪本線と京都‐大津を結ぶローカル線だけだった。
カーブの多い京阪本線は、スピード競争では阪急や国鉄に勝てない。利便性と快適性、そして京都ブランドを最大限に利用して新たな戦いに挑んだ。
その中でも特筆すべきは「テレビカー」だ。
京阪といえばテレビカーといわれるほど、関西では人気を集めた。
日本でテレビの本放送が始まったのは1953(昭和28)年2月。その1年後には京阪電車にテレビカーが登場している。
テレビは京阪沿線の門真市に本社がある松下電器(現パナソニック)製だった。走行する電車でテレビがどのように受信できるかという実験も兼ねたという。
当時、松下電器製の白黒テレビ1号機が29万円したという。大卒の初任給の平均が1万円ぐらいだったので、2年分の給与に匹敵する価格だ。庶民にはとても手が出ない超ぜいたく品で、街頭テレビに黒山の人だかりができた時代。テレビカーがどれだけ話題になったか容易に想像できるだろう。
京阪特急は当時、国鉄の2等車(現在のグリーン車)並みの転換クロスシート(背もたれの向きを変えて進行方向に向かって座ることができるシート)だった。特急券は不要で、しかもテレビを見ることができるというぜいたく三昧は大いに人気を集めた。
京阪のテレビカーへの思い入れは並々ならぬものがあった。
1963(昭和38)年の天満橋から淀屋橋までの延伸区間は、すべて地下路線となった。せっかく大阪の中心部への乗り入れが実現したのに、始発駅の淀屋橋からテレビ受信できないのでは話にならない。
京阪は、多額の費用をかけてトンネル内にケーブルを引いて、地下路線内でもテレビを見ることができるようにしてしまった。
京阪のテレビカーには、小学生時代の強烈な思い出がある。
テレビが設置されている車両には、屋根にアンテナが据え付けてあり、車体には大きな赤い斜字体で「テレビカー」と書かれていた。もうそれを見ただけでウキウキしたものだ。
自宅で見るのとは違う。電車でテレビを見ることができるというのは全く異次元の出来事だった。
せっかくテレビがよく見える座席に座ったのに、どんな番組を見たのかは覚えていない。それよりも、しばしば画像が乱れ、音声が途切れて、ものすごく見づらかったことだけが記憶に残っている。
テレビが一家に1台から、一人に1台の時代となり、やがてワンセグで見ることができるようになった。人気を集めたテレビカーにも終焉の日はやってくる。
2009(平成21)年から順次、テレビの撤去が始まった。車内では、スマホで思い思いに動画を見たり、ゲームを楽しむ乗客が日に日に増えていった。
2013(平成25)年にはすべてのテレビカーの運用が終了した。
(第4回に続く)
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