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スティーブ・ジョブズのシンプル思考と禅の思想【1】

プレジデントオンライン / 2013年10月5日 12時15分

スティーブ・ジョブズ(時事通信フォト=写真)

死は生命にとって最高の発明――。こんな至言を遺した男の思想には、日本由来の「禅」が深く関わっていた。

■なぜ内部基板にまで美しさを求めたのか

「偉大な大工は、見えなくてもキャビネットの後ろにちゃちな木材を使ったりしない」(桑原晃弥『スティーブ・ジョブズ名語録』PHP文庫)

これは、11年10月に亡くなったアップル創業者スティーブ・ジョブズの言葉である。製品の外装だけでなく、内部のマザーボードにまで美しさを求めたジョブズは、チップや回路をもっとシンプルで魅力的な配置にしたいと考えた。技術者たちはマザーボードをのぞく者など誰もいないと反論したが、これに対しジョブズが放ったのがこの言葉であった。

製品の本質を重視する彼の精神は、禅の一派である曹洞宗の開祖・道元の教えに通じるところがある。たとえば道元の教えを弟子たちがまとめた『正法眼蔵随聞記(しょうぼうげんぞうずいもんき)』(岩波文庫など)には「実徳を蔵、外相を荘(かくしてかざらず)」(内面をよくして外面を飾らない)という言葉が出てくる。

実際、ジョブズと禅には深い結びつきがある。彼は青年時代から禅と接し、曹洞宗の僧侶である乙川弘文(おとがわこうぶん)老師に師事していた。

カウンターカルチャーが全盛を迎えた1960年代から70年代前半、若者たちは物質万能主義に疑念を抱き、精神世界に関心を向けた。ジョブズも、72年に大学に入ると東洋思想に傾倒していく。なかでも仏教や禅には強い影響を受けた。後年彼が語ったところによれば、「抽象的思考や論理的分析よりも直感的な理解や意識のほうが重要だと、このころに気づいたんだ」(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズI』講談社)という。

当時のジョブズが感銘を受けた本のひとつに、曹洞宗の鈴木俊隆(しゅんりゅう)老師による『禅マインドビギナーズ・マインド』(サンガ新書)がある。平易な言葉で語りかけるように書かれた同書は、きわめて具体的で実践的な禅の入門書だ。

鈴木師は、59年に渡米してから71年に亡くなるまでカリフォルニア州を拠点に禅の布教に尽力した。67年にはアメリカ初の本格的な禅院である「タサハラ禅マウンテンセンター」を創設している。このとき鈴木師が日本から呼び寄せた人物が、前出の乙川師であった(当時は養子先の知野姓を名乗っていた)。

ジョブズの結婚式を司った故・乙川弘文老師。©Nicolas Schossleitner

禅院の立ち上げを手伝った後、乙川師はいったん帰国するが、カリフォルニア州ロスアルトス市の信徒たちから「地元の禅堂で指導してほしい」との嘆願書を受けふたたび渡米(ケイレブ・メルビー原作、ジェス3作画『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』集英社インターナショナル)。70年、同市の「俳句禅堂」の住職となった。ちょうど同じ町に実家のあったジョブズは、75年頃より俳句禅堂に出入りするようになる。

すっかり禅に魅せられたジョブズは毎日のように乙川師のもとに通い、2~3カ月に1回は禅堂にこもって瞑想する静修を行うなど、できるかぎり師と長い時間をすごすようになった。創業後多忙をきわめてからもことあるごとに教えを求めたという。

85年に当時のCEOジョン・スカリーとの対立からアップルを飛び出し、NeXTを設立したときには、乙川師を自社の「宗教顧問」として招いている。人生のなかでも最大の試練を迎えていたジョブズは、おそらくこのとき師にすがるような気持ちだったのではないだろうか。

(ライター 近藤 正高 時事通信フォト=写真(ジョブズ))

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