森永卓郎「グリコのおまけ」1400点コレクションに見る、経済と世相
プレジデントオンライン / 2013年10月11日 15時15分
“食玩”と聞いてほとんどの人が真っ先に思い浮かべるのは、「グリコのおまけ」だろう。正式なおまけの登場は昭和に入ってからだが、すでにグリコが発売された1921(大正12)年におまけの原型といえる紙製の「絵カード」が封入されていたから、実に90年以上の歴史を有していることになる。
この「おまけ」を偏愛し、こつこつと収集をつづけてきたのが、経済アナリストの森永卓郎氏だ。ネットオークションの時代になってコレクションは急速に膨れ上がり、今や総数は1万点を超えているという。
今回、森永氏のコレクションから1400点を選りすぐり、写真つきで時代背景などとともにまとめた『グリコのおもちゃ図鑑』(プレジデント社刊)が出版された。
森永氏によれば、「グリコのおまけ」は“時代を映す鏡”だという。おもちゃの素材や造形、テーマなどから、その当時の経済や文化、世相が見えてくるということだ。実際、「おまけ」の変遷をたどっていくと、その背後にある時代のさまざまな表情が浮かび上がってくる。
■大成功した「鉄人28号」キャラクター戦略
戦後の高度経済成長の波に乗って、テレビの普及率が一気に上昇したことを背景に登場したのが、一世を風靡したアニメ番組「鉄人28号」(1963年)のおまけだった。
これは、グリコの新しい「アニメ・キャラクター戦略」に基づくもので、グリコ1社で番組を提供し、おもちゃを大量生産するとともに、大規模な広告キャンペーンを展開したのである。「この戦略は絶大な効果をもたらし、子どもたちにキャラクターグッズへの強烈なあこがれを抱かせ、グリコの拡販に大いに貢献しました」(森永卓郎『グリコのおもちゃ図鑑』)。
当時の「鉄人」人気は絶大なもので、多種多様なおまけが生み出され、果てはキャラクターをあしらった「鉄人28号グリコ」が発売されるほどだった。
森永氏自身も自らを「頭のおかしい鉄人マニア」と称し、「鉄人マニアは子どものころ果たせなかった夢を半世紀後にかなえようとばかりに、オークションで苛烈な争奪戦を繰り広げています」。
実際、一部のおまけは現在でも、1点数万円という高値で取引されることもあるという。
■豊かなメルヘンの世界が広がる「星のポーとペー」
「グリコのおまけ」と聞くと、ノスタルジックな想いが込み上げてくる人は多いと思うが、当然ながらそのイメージの中心になるのは、かつて自分たちが少年少女だったころのおまけに限られるだろう。
しかし、本書を手にその歴史をたどってみると、「グリコのおまけ」がもつ世界は実に広く深く、時代ごとにそのイメージを大きく変えてきたことがわかる。
今回、筆者がはじめてその存在を知って衝撃を受けたのが、80年代半ばに登場した「星のポーとペー」シリーズだ。このころの「グリコのおまけ」には、オリジナルキャラクターが多数登場するようになっていたが、「星のポーとペー」はその代表格で、独特の世界観をもとに魅力的なキャラクターが生み出された。脇役のキャラや道具にも同じコンセプトが貫かれ、眺めているだけでほのぼのとしたストーリーが今にも紡ぎだされるようだ。
世はバブル景気でだれもが浮かれている時代に、「おまけ」という小宇宙の中でこんなにも豊かな世界が創造されていたとは思いもよらなかった。
『グリコのおもちゃ図鑑』に掲載されている写真は、すべて森永氏自身が撮影したものだ。1つ1つに愛情を注ぎながら撮影したことが伝わってくるもので、プロの写真家が見過ごしてしまうかもしれないおまけの表情を的確に捉えているように思われる。
秋の夜長、本書を片手におまけの織りなす世界にじっくり浸ってみるのもいいのではないだろうか。
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1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。現在、経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。そのほかに、金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開。「グリコのおもちゃ」をはじめ、ミニカー、ペットボトルキャップ、空き缶などのコレクターとしても知られる。
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(コギトスム 千崎 研司 撮影=森永卓郎)
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