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中国は「少子高齢化」でも成長し続ける理由

プレジデントオンライン / 2015年3月27日 9時15分

上海のビル群

■10~20年間、年平均7%程度で拡大し続ける

一国の経済成長の源泉は、労働力と機械設備や工場といった資本の投入、そして技術の進歩とされるが、それらの変化と密接に関わっているのが、一定期間の人口の変動を表す人口動態である。なぜなら、人口の規模や年齢構成の変化が、労働力の供給、貯蓄率や投資率、学校教育といった諸要素の動きを強く規定しているからである。経済活動を通じて一国の経済成長を促す主役は、どこまでいっても人間なのだ。

日本、韓国、台湾など東アジアの戦後経済の成長過程を見ればよくわかるが、人口増加のスピードが減速し、生産年齢人口(15~64歳)の割合が上昇している間は、労働供給が増大し、家計に余裕ができ貯蓄や子どもへの教育投資も増える。そうした環境下では、高い教育を受けた労働者が豊富に供給され、設備投資等の資金も容易に調達できる。経済成長が急速に進むゆえんである。

ところが、時とともに少子高齢化が進み、生産年齢人口は減少に転じ、高齢者の介護や医療にかかる費用が急増する社会が到来する。農村部の余剰労働が枯渇し、家計貯蓄率も大幅に落ち込む。国民経済は高度成長のエンジンを失い、安定成長を経て長期停滞に突入するのである。

過去30余年間、中国はこの生産年齢人口の比率上昇の恩恵で年平均10%の高度成長を遂げ、世界第2位の経済大国に躍進、一人当たりGDPも7000米ドル(2013年)という上位中所得国に躍進した。

だが近年、人手不足およびそれに起因する賃金上昇、労働の有効利用を妨げる諸制度が影響して、経済成長率が7%台にまで落ちている。一部の見方ではあるが、中国経済は今後も成長速度を落とし、1960年代以降に中南米や東南アジアで見られたような「中所得国の罠」に陥ってしまう危険性すらあるという。

しかし、筆者は中国を取り巻く国際環境が大きく変わらず、後述する制度改革を進めれば、向こう10~20年間、中国経済は年平均7%程度の伸び率で拡大し続けると考える。

そうなると、30年頃には、中国のGDPは13年の約3倍、日本のGDPの5倍(日本経済の成長率を年平均1%と仮定。米ドルベース)。仮にドル/円の為替レートが変わらず、ドル/人民元が今の1ドル=6元から1ドル=4元まで元高が進むなら、日本の8倍にまで膨らむ(14年には2倍)。いささか夢のようだが、以下で述べる人口動態と経済成長との関わりを見れば、中国経済にはそれだけの潜在力があると考えられる。

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図1:中国の人口転換

人口経済学によれば、一国の人口は、社会経済の発展に伴い出生率、死亡率がともに高い第一局面「多産多死」から「多産少死」へ、さらに「少産少死」「多死少産」の各局面へと移行する。「多産少死」の第二局面では人口が爆発的に増加するが、「少産少死」の第三局面に入ると、働き盛りの生産年齢人口の割合が上がり、14歳以下の子どもも、65歳以上の高齢者も比較的少ないという負担の軽い社会が形成される。経済が成長し、国も家計も豊かになる。

各国の人口動態がそのうちのどの局面にあるかは、国そのものの発展時期や医療技術や公衆衛生制度、出産・育児に関わる諸費用などに依拠する。図1は中華人民共和国が成立した49年から13年における出生率、死亡率および両者の差からなる増加率、総人口の推移を表すものだ。50年代末、「大躍進運動」が失敗した異常期を除けば、中国の人口転換はほぼ前述のセオリー通り推移しているといえる。

同図では多産多死という人口転換の第一局面は観測されないが、50年代、60年代には、多産少死およびそれに起因した人口爆発が見て取れる。70年代に入ると計画生育政策が施行され、80年代以降は規制のより厳しい一人っ子政策が採られた。その影響で、中国は発展途上国でありながら、早くも人口増加率を先進国並みの水準に落とし、欧米などの先進国に比べてはるかに速いスピードで第三局面の「少産少死」に突入したといえる。

人口増加の速度を落とし、食糧をはじめとする諸々の資源の不足を緩和するという一人っ子政策の目的はほぼ期待通り達成されたが、生産年齢人口の急増とともに、総人口に占めるその割合も急上昇したことは、全くの想定外であった。

中国の生産年齢人口は82年から10年で3億8000万人増え、総人口に占めるその割合も61.5%から74.5%と13ポイント上がった。働いて収入を得る人が多く、子どもの養育・教育費も、高齢者にかかる介護や医療、年金の負担も比較的少なくて済むという状況下で、家計貯蓄率(可処分所得に占める貯蓄の割合)が同期間中15ポイントも上昇し、25%に達している。

高い家計貯蓄率は高い投資率を支え、雇用機会の創出に寄与し、潤沢な資本と豊富かつ安価な労働力の結合によって新たな生産能力が形成された。それに、国も家計も学校教育への投資を増やし、潜在的能力の高い人材を養成し労働市場に供給し続けている。18歳人口に占める中学以上新卒者の割合は90年の43%から10年の87%に、85年にわずか2.8%だった高等教育機関に進学した若者の18歳人口比率も12年には37%に上昇した。資本、労働、教育(研究開発を支え技術進歩を促すもの)という経済成長の源泉がいずれも急増したわけで、経済成長も当然の帰結といえよう。

■中国経済は「ルイスの転換点」を通過したのか

ところが、04年初め、広東省の珠江デルタで企業の募集定員が集まらず、それまで無尽蔵に供給された安い労働力が不足し始めた。沿海地域の都市部で顕著となった局地的な人手不足は、やがて中西部地域へ波及し、中国経済は全体として労働力を無制限に供給できる状態から相対的・絶対的に不足する状態に移行し、いわゆる「ルイスの転換点」を通過したのでは? とまでいわれている。

ルイスの転換点とは、工業化が進む中で、農業の労働力が工業に移るが、その余剰がなくなるという転換点を指す。労働力が過剰であれば、雇用さえあれば低賃金でも人が集まり、企業は高い収益を上げ、一層の成長拡大も実現できる。が、この転換点を通過した後は、企業は労働力の不足と賃金の急上昇に直面する。国民経済の高度成長も難しくなる。

中国経済がルイスの転換点を通過したか否かを巡っては、意見の分かれるところだが、労働市場では有効求人倍率が1.0超に高止まりし、労働者の賃金が2桁の伸び率で上昇し続けていることは紛れもない事実である。ここで、農村から都市への出稼ぎ労働者=農民工の平均月収の推移を見てみる。90年頃におよそ3000万人弱だった農民工は13年に1億7000万人に膨れ上がり、世界の工場たる中国の製造業を支えている。この農民工の名目賃金は全期間において高い伸び率を見せているが、物価上昇を除いた実質賃金(78年価格を100とした物価指数)は00年まではわずかな伸びに留まり、急伸したのはそれ以降のことである。これを見る限りでは、中国経済はすでにルイスの転換点を通過したといえるのかもしれない。

■一人っ子政策の段階的見直しで出生率回復も

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図2:中国における労働力人口の推移

ただ筆者は、目下の人手不足については制度の欠陥に由来した部分が大きく、諸制度の改革を果敢に進めれば、人手不足が緩和され、持続的な経済成長の期間を広げることが可能だとみている。

都市部の就業率を低下させ、労働力の有効利用を妨げている制度の一つに、時代遅れの定年制度がある。原型は58年に制定施行され、平均寿命が70代後半と大きく伸びた今日でも、生産年齢は男性15~59歳、女性が15~54歳。男女差があるうえに、国際基準(15~64歳)ともかけ離れている。定年退職の年齢引き上げは、人手不足の緩和に寄与する重要な要因である。

中国の労働力人口は、今の法定退職年齢を基準に計算されている。そのため、国際基準に基づくそれとは総人数がピークを迎える時期が異なるため、長期的な推移も大きく違う形で表れる。図2を見ると、法定退職年齢に基づいた生産人口(図中B)は11年にピークを迎えたが、国際基準(同A)なら16年まで増え続ける計算となる。AとBのギャップ(棒グラフ)は、25年には約1億6700万人に拡大する見込み。20~39歳の人口(同C)は02年にピークを過ぎたとはいえ、国際基準まで働ける労働環境を構築すれば、この膨大な潜在労働力を活用できる。

そのためには、農民と市民を区別する戸籍制度を改革し、農村戸籍を持った農民工の就業選択・移住の規制を緩和することが有効だ。現行制度下では、青壮年期を過ぎた農民工の多くが田舎への帰還を余儀なくされている。農村・都市間における人口移動が、移住型ではなくこうしたUターン型であり続けたため、12年の第一次産業従事者2億6000万人という数字は、80年に比べてわずか3000万人しか減っていない。

この間、耕地面積が減少し、農業の機械化も飛躍的に進んだ(総動力が7倍増)。中国農業は依然、膨大な余剰労働力を抱え込んでいると見てよい。今後、戸籍制度を改革し、毎年中高校を卒業する800万人の農家子弟を都市へ移動、移住させても、農業経営に大した支障がないはずである。そうなれば、都市労働市場への供給も持続できるであろう。

もっと先の経済成長を見込む際に重要なのが、一人っ子政策の段階的見直しである。14年初め、一人っ子同士の夫婦であれば2人目の子の出産を認めるという規制を緩和し、夫婦の片方が一人っ子でも、2人目の子の出産を認めるとする改革が実行に移されている。今後は、出産制限が徐々に緩和されていくだろう。

中国では確かに少子高齢化が進み、生産年齢人口も近く減少する局面に突入する。生産年齢人口の比率増も鈍り、高齢者の介護や医療の費用が重くなる社会が目前に迫っている。

しかし、中国政府は戸籍制度、定年制度、一人っ子政策など非合理的な制度の改革を加速させ始めた。過去30余年間、様々な欠点を内包しながらも大きな経済的成果を上げてきた政府の執政能力を見れば、制度改革および経済成長の持続は十分に可能だろう。ただ、国内外で諸改革の進行・効果に対する懐疑的な見方も少なくなく、かつ各方面の利権に絡んだ強い抵抗も予想される。改革の前途は平坦ではありえまい。

図1:中国の人口転換 ※中国統計年鑑より作成。
図2:中国における労働力人口の推移 ※A系列は2011年までが中国統計年鑑による実数、12年以降は2010年人口センサスに基づいた推計値であり、B系列は2009年までが2000年センサス、10年以降が2010年センサス、C系列は2010年センサスに基づいた推計値である。

(同志社大学大学院教授 厳 善平 平良 徹=図版作成)

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