社員一人ひとりに数字の意識を持たせるには
プレジデントオンライン / 2015年6月4日 14時15分
以前もアメリカ・サンディエゴ市からの帰途、JALの国際線に搭乗しました。京セラグループと私が、計画当初から寄付を続けてきた同市にあるジャパニーズ・フレンドシップ・ガーデンの日本庭園の起工式に招かれたときのことです。
機内でくつろいでいると、キャビンアテンダントの女性が「名誉会長、これが最後の1本ですので買っていただけますか?」と、やさしく声をかけてくれました。見ると、国際線だけで販売している芋焼酎の逸品「森伊蔵」です。
以前のJALなら考えられない光景といっていいでしょう。私がJALに着任したときは、機内販売の管理責任者はいたようですが、上層部が選んだ商品を、決められた値段で売っているだけで、誰も販売目標といった数字を意識していませんでした。
驚いた私は、CAの方々に「デパートならお客さまに足を運んでもらうために、展覧会などの催しをする。だが、飛行機には初めから乗客がいて、飛行中はどこへも行かない。そんな絶好の商いの機会を無駄にしてどうする。あなたたちは海外経験も豊富で、顧客のニーズもよく知っているでしょう。目標を決めて売りなさい」と話したわけです。
その際、小売りのマージンにも言及しました。デパートでは、おおよそ3割、ものによっては4~5割の掛け値で販売しています。彼女たちも、そうしたビジネス意識を持って、仕入れの際には、そうした調査もして、1個当たりの利益と販売目標を決めるようにも伝えました。その甲斐もあって、いまJALの機内販売は、かなり高収益になりました。先ほどの「森伊蔵」を勧めてくれたCAの女性も、そこが理解できたからこそ頑張ってくれているのでしょう。ただ熱心な売り込みには感心したものの、私は「私には必要ありません」と、結局断りました。それを見ていた、稲盛財団で専務理事をしている弟が買ってあげたようです。
■ぬるま湯から脱却、経営者意識を持つ
再建のために、JALでは全社員共通の行動指針として「JALフィロソフィ」を作成しました。内容の詳細は門外不出ですが、第1部は「すばらしい人生を送るために」、第2部は「すばらしいJALとなるために」です。
当然、京セラの哲学が基本に置かれていますから、売り上げや経費についても、それまでのぬるま湯的な体質から脱却することをシビアに求めています。私は、あらゆる機会を通じて教育に全力を尽くしました。それが功を奏し、全社員が経営者意識を持って仕事に取り組んでいます。
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1932年、鹿児島市に生まれる。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職。59年4月、知人より出資を得て、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立し、現在名誉会長。第二電電企画、KDDIの設立、JALの再建にも携わる。
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(京セラ名誉会長 稲盛 和夫 岡村繁雄=構成)
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