まず動け、人に会え! 汗と涙の起業のリアル【1】 -対談:ビズリーチ社長 南 壮一郎×田原総一朗
プレジデントオンライン / 2015年11月25日 13時15分
モルガン・スタンレー、楽天球団を経て起業。会員制転職サイトを開設し、創業6年で従業員は500人を超えた。経歴だけなぞると順風満帆そのものだ。だが、その裏には人並外れた意志と行動力、そして天性の明るさがあった。
■メジャー全球団のGMに手紙で懇願
【田原】南さんは東北楽天ゴールデンイーグルス創設メンバーの1人だそうですね。もともとスポーツが好きだったのですか。
【南】ええ。父親の転勤で幼稚園からカナダのトロントで育ったのですが、そこにはブルージェイズというメジャーリーグのチームがあって地元から愛されていました。僕自身は子どものころからサッカーをやっていて、大学進学のためにボストンにいったときも続けていました。環境が変わってもやっていけたのは、心の支えとしてスポーツがあったからです。
【田原】アメリカのタフツ大学を卒業してモルガン・スタンレーに就職されたものの、金融業界は4年でお辞めになって、スポーツビジネスの世界に飛び込んだ。これはどうして?
【南】きっかけは日韓ワールドカップサッカーです。友達30人くらいで日本対ロシアを見にいったら、日本が見事に勝利しました。その瞬間がすごかったんですよ。みんな号泣して、知り合いだろうがなんだろうが構わず抱き合って喜びを表現した。僕の人生の中でこういう瞬間を何回味わえるのかと考えると、いてもたってもいられなくなり、何でもいいからスポーツに関わる仕事をやりたいと思うようになりました。
【田原】具体的には、どうしたの?
【南】まずアメリカのメジャーリーグの全球団のGMに、雇ってくれと手紙を書きました。ニューヨーク・メッツから「会ってもいい」と連絡があり、さっそく1週間後、飛行機に乗って話をさせていただいたのですが、結局は採用に至りませんでした。
【田原】それからどうしたのですか。
【南】10カ月くらいスポーツビジネス界への転職活動をした後、覚悟を決めて会社を退職。渋谷に2坪のレンタルスペースを借りて、とにかくスポーツと名がつく仕事を何でもやっていくことにしました。
【田原】たとえば?
【南】テニスの国際大会の通訳をしたり、フットサル場の管理人をやって大学生から「1万5000円です」と料金を集めたり。
【田原】それじゃなかなか食べていけないでしょう?
【南】ええ。困っていたときにまず助けてくれたのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の増田宗昭社長でした。金融機関時代の元上司がCCCに転職したのがきっかけで増田さんと知り合い、「僕らはいろんな会社を買っていくから、手伝ってくれ」と。じつは増田さんは、三木谷浩史さんが楽天をつくったときの最初の投資家。そのご縁で三木谷さんをご紹介いただき、楽天の企業買収のお手伝いの仕事もいただくようになりました。
【田原】そこで楽天との接点ができたのですね。そのとき楽天はまだプロ野球に参入していなかった?
【南】はい、三木谷さんにお会いして1年半後くらいにニュースで知りました。僕がやりたかった仕事はまさにこれだと思って連絡したら、三木谷さんは「20分だけ話を聞く」と。最初の10分でいままで僕がスポーツビジネスの世界に飛び込もうとした経緯をお話しして、後半の10分で自分の理想の球団経営についてプレゼンしました。すると、「明日から来てください」と。
【田原】三木谷さんは南さんの何を評価したんでしょうね。
【南】本人に聞いたことはないのですが、すべてを捨てていたことが大きかったのではないでしょうか。その志と行動力を買ってくれたのではないかと自分では考えています。
【田原】楽天イーグルスでは、どんな仕事をされたのですか。
【南】僕は三木谷さんに「ジョーカーをやれ」と言われていました。つまり、一番足りないところに、その都度ヘルプで入れと。ですからドラフト会議のテーブルにも座らせてもらったし、スタジアムでお客様をどう楽しませるのかという仕事もやりました。半年間で役割が目まぐるしく変わっていった印象ですね。
■30で会社を辞め、世界を放浪
【田原】当時、楽天は弱かったですよね。1年目はぶっちぎりのビリだった。チームが弱いのにどうやってお客さんを楽しませたんですか。
【南】最初は勝てないことがわかっていたので、試合の結果に依存しないようなエンターテインメントにする必要がありました。具体的には、7回裏の攻撃前に全員で風船を飛ばして臨場感を味わってもらったり、愛嬌のある悪役のマスコットをつくって、彼に観客を楽しませてもらったり。スタジアム全体を1つのエンターテインメントにするというのが、僕たちの1年目の狙いでした。
【田原】結局、楽天イーグルスには何年いらしたんですか。
【南】3年です。2007年までいました。
【田原】せっかく念願のスポーツビジネスにつけたのに、どうしてお辞めになったのですか。
【南】あるときインテリジェンス創業者でもあり、当時の球団社長の島田(亨)さんから呼び出されて、こうアドバイスされました。「三木谷さんはどこかのタイミングでおまえを球団社長にすることも考えていると思う。ただ、おまえはまだ30歳。一度外に出て、三木谷さんや僕が教えてきたものを試してみたほうが成長するんじゃないか」と。
【田原】そうですか。でも普通なら、「おまえは、球団のために頑張れ」と言いますよね。島田さんはどうして逆のことを言ったのか。
【南】球団ビジネスは社会的なインパクトが大きいのですが、売り上げは80億円ぐらいの事業です。島田さんは、僕にもっと大きいビジネスをさせたかったのでしょう。具体的には「おまえがいま見えている世界がここだとしたら、俺たちは2つぐらい上のレイヤーでビジネスをやってる。ここまで登ってこい」と言われました。
【田原】楽天球団を3年で辞めて、次は何をしましたか。
【南】1年間ふらふらしていました。MBAにいく選択肢もあったのですが、いまの世界や自分が置かれている立場をじっくり見極めたいと思って、とりあえず1年間、世界中を旅行していました。
【田原】それからどのような経緯で起業することになったのですか。
【南】もともと起業するつもりはなく、どこかに転職して新しい事業を創造できたらいいなと考えていました。こういうときはヘッドハンターに相談するといいと聞いて、1カ月に27人のヘッドハンターに会いました。でも、相談するうちにある疑問が浮かんだんです。みなさん親身になってアドバイスをくださるのですが、それぞれ紹介してくれる求人案件が違う。ということは、僕が本来持っている選択肢と可能性をぜんぶ見るまで、あと何人に会えばいいのかと。
【田原】つまり、もし100人会えば100通りの求人案件があって、際限がないと。
【南】もっと選択肢があるかもしれないのに、限られた中で選ぶことに抵抗を感じたのです。27人のヘッドハンターと会うのにすでに40時間くらい使っていました。便利な世の中になったはずなのに、これじゃ不便で、なかなか会う人も増やせない。これは何とかしないと世の中のためにならないと思いました。
【田原】それが起業のヒントになったわけですね。
【南】はい。採用したい企業と求職者がうまくマッチングしないのは、お互いをよく知らないブラックボックス状態になっているから。そこを解消すれば、新しい事業として成立するんじゃないかと考えました。
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1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。
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(ビズリーチ代表 南 壮一郎、ジャーナリスト 田原 総一朗 村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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