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自民党が憲法改正にこだわる理由は何ですか?

プレジデントオンライン / 2016年10月27日 6時15分

中谷元氏(衆議院議員・前防衛相・自民党憲法改正推進本部長代理)

■前向きな議論で改憲議論は進化する

【塩田潮】7月の参院選の結果、自民党、公明党、日本維新の会、日本のこころを大切にする党の4党の合計議席数が、衆参両院で憲法改正案の国会発議に必要な「総議員の3分の2」を超えました。自民党の党内は改憲実現という方向で一つにまとまっていますか。

【中谷元・自民党憲法改正推進本部長代理】すぐにというような浮き足立った状況ではないですね。公明党との議論もあります。各党との調整もありますので、非常に落ち着いた状態だと思います。今後、建設的、前向きな議論が行われ、議論が進化するのでは、という期待はもっています。自民党は衆参の選挙公約で憲法改正の実現を謳っていますので、自民党の国会議員は憲法改正を実現したいという認識で集まっています。

【塩田】最近の安倍晋三首相の憲法改正への取り組み、その意欲をどう見ていますか。

【中谷】在任中に成し遂げたいと発言しています。そういう気持ちはもっていますが、行政府の長としてこの問題に口出ししてはならない立場だという姿勢は堅持しています。

【塩田】安倍首相は改憲作業のスケジュールについて指示はありませんか。筋金入りの改憲論者ですが、改憲案の中身について、自身の考えを述べたり、指示したり、国会での議論に注文を付けたりすることはないのですか。

【中谷】ないです。自民党総裁任期を3年延長する案が今、検討されていますが、憲法改正は国会で3分の2、その後に国民投票で過半数の賛成が必要なので、国民が国会での審議を見て納得し、賛同するような内容にしなければいけない。各党の熟議で納得と共感を得られるまで議論しなければいけないので、今の時点で「いつまでに」というものはありません。改憲案の内容についても、総理が指示とか注文を付けることはありません。

【塩田】現在、開会中の臨時国会から実質的な協議が始まると見ていいですか。

【中谷】各党に呼びかけはしています。

【塩田】自民党は2012年4月に独自の改憲案「日本国憲法改正草案」を策定していますが、民進党の野田佳彦幹事長(前首相)は協議に入る前に「撤回を」と言っています。

【中谷】これはわが党の歴史の中で発表した文書の一つで、その事実は撤回できません。ですが、これから衆参の憲法審査会で議論する場合、あくまでも当時の自民党の考えをまとめた一つの公式文章として、参考にしつつも、これを議論の基礎とするのではなく、幅広く各会派の参加を得て丁寧に合意形成を諮っていくべきだと思っています。各党に独自の考えを述べていただき、提案もしていただき、党内でも大いに議論して党の考えをまとめて出していきたいと思います。目的の達成には国民投票での過半数が必要で、失敗は許されません。国の基本法ですから、国民が納得し、賛同していただける状況をつくらないといけない。去年の安保法制のときのように、国論を二分するものにすべきじゃないと思います。野党第一党も賛同して、共同で提案するようなものが望ましいと思います。

■公明党との調整で大きな困難はない

【塩田】自民党の憲法改正草案では9条の改正を打ち出しています。自民党はこれから議論となる改憲案で9条の変更や安全保障に関する新条項の追加を想定していますか。

【中谷】これは白紙です。ですが、9条の解釈をめぐって、今まで非常に複雑でわかりにくい論争や政治的な混乱や闘争もありました。やはり9条について、国民がしっかりわかるような独自の提案を行い、賛同を得て、国の安全保障を確立させるべきです。そういうやり方を目指してしっかりと話し合いをしていきたいと思っています。

【塩田】自民党としては、9条の書き直しについて、各党との協議でどのへんまで許容するつもりですか。憲法改正を行うなら9条については少なくともこの点の改正が必要、というような合意が党内でできているのですか。

【中谷】侵略戦争をしてはならないという第1項は残す。これは全員一致した意見です。問題は第2項の書き方です。自分の国を守るための組織を何と呼ぶか、集団的自衛権をどう考えるかとか、まだ意見が分かれています。いろいろな議論がありますので、その中で合意を求めていけばいいと思います。

【塩田】現憲法の前文はいかがですか。

【中谷】非常にわかりにくいし、覚えにくい。内容についても、占領時代に書かれたのは事実です。今の時代に生きる日本人として、憲法はどうあるべきか、中学生にもわかるような文言に、と考えたらいいと思います。

【塩田】改憲案の協議に入ると、各党の改憲プランとのすり合わせが重要なポイントになると思いますので、各党の憲法に対する考え方や改憲構想をどう受け止めているか、お尋ねします。まず連立与党の公明党ですが、「加憲」が基本姿勢です。

【中谷】公明党の「加憲」は、日本国憲法の「基本的人権の尊重・国民主権・平和主義」の3大原理を堅持しつつ、時代に合わせて新たに必要とされる理念、条文を加えるものと承知をしています。3大原理の堅持では、自民党は当然、合意をすることができます。公明党とは調整で大きな点で困難になるとは考えていません。十分、協議できます。9条で自衛隊の位置づけや国際貢献の範囲を定義するのは「加憲」でしょう。

一昨年から昨年まで、集団的自衛権と平和安全法制の問題で与党として議論しました。時代の状況を見て、国家・国民の生命・財産を守る、領海・領土・領空を守る、主権を守るということを国としてきっちりやらなければいけませんので、公明党もこの状況の中で現実的に考えていくところがあるのではないでしょうか。

【塩田】公明党の「加憲」の具体的な中身について、何が協議事項となると思いますか。

【中谷】そういうことでお話を伺ったことはありません。あらかじめ与党で協議して決めたりすると、野党が参加できなくなるので、審査会の場では与野党の枠を超え、政党と政党という立場で議論していきたいと思います。

【塩田】日本維新の会は「おおさか維新」時代の3月に独自の改憲案を発表しました。

【中谷】学校教育の無償化、地域主権に関する統治機構改革、憲法裁判所の新設の三つを提案したと承知していますが。具体的な改正項目を発表されたことには敬意を表したい。三つの論点はいずれも自民党の憲法案には入っていません。ですが、自民党案は叩き台です。提案について、あらかじめ排除をする考えもないし、憲法審査会の場で議論すべき問題だと思います。自民党としては、この3点については、白紙です。

■改憲案がまとまるか国会の最後の採決までわからない

【塩田】自民党の憲法改正草案では、新しい章を設けて「緊急事態」の規定を新設していますが、一時的な措置とはいえ、内閣または内閣総理大臣の権限で国民の基本的人権を制約する条項には、公明党や維新からも反対の声が聞こえてきます。

【中谷】想定外の事態に、政府は機能不全の状態を回復して一時的、臨時的に国民の生命、財産を守る必要があります。それが恣意的に行われないことが大事で、チェックするのは国会です。その場合、国家が機能しないとチェックできません。そういう意味で、衆議院の解散中に緊急事態となった場合にどうするかという問題は与野党共通の認識で、これに反対する人はあまりいないと思います。きちんと整備しておくことが絶対に必要だということで、改正草案に書きました。

【塩田】民進党はともかく、憲法改正容認の自民党、公明党、維新の間でも、改憲案の中身について大きな違いがあります。合計で「3分の2」到達といっても、見方を変えれば各党に拒否権があるともいえますが、自民党は他党の主張をどこまで許容できますか。

『安倍晋三の憲法戦争』塩田 潮(著)・プレジデント社刊

【中谷】改憲案がまとまるかどうかは、国会で最後の採決の瞬間まで、誰にもわからないんですね。まだ全然、白紙です。幅広い合意が必要です。

【塩田】改憲は最後に国民投票での承認が必要ですが、改憲肯定派の国民の中にも、改憲は経済や国民生活、雇用、人口減社会対策、安全保障など山積している課題を後回しにして急いで取り組むような政治の最重要課題ではないという声が根強く存在します。国民の憲法に対する「冷めた目」は、実は改憲実現の最大の壁ではないかと思いますが。

【中谷】景気、雇用、社会保障などが重要課題であるのは間違いありません。ただ、憲法改正も国民が真剣に取り組むべき課題と考えている人もいるわけです。今年の11月3日で現憲法公布70年です。先述の3大原理が果たしてきた役割は大きく、完全に日本社会に定着していますが、安全保障の問題とか、議員定数をめぐる1票の格差の問題など、憲法に関する現実の課題もありますので、そういう点を協議する必要はあろうかと思います。

【塩田】これから国会で憲法をめぐる協議が本格化すると思いますが、12年に自民党の改正草案の策定で起草委員長を務めた点も踏まえて、これからご自身でどういう役割を担わなければ、と思っていますか。

【中谷】何よりも熟議ですので、各党の考えを述べる機会をつくり、深く意見交換して議論し、共通の項目の取りまとめができるような環境づくりに努力をしていくことです。防衛相として安全保障法制に取り組んだときも、非常に激しい国会でしたが、担当大臣としては誠意をもって、正直に、ごまかさずに、一つ一つやってきました。誠意は相手に通じると思いますので、正直にやっていきたいなと思っています。

【塩田】憲法をめぐる各党の協議で、もっとも強く懸念される点は何ですか。

【中谷】それは党利党略に陥って、反対のための反対とか、選挙に有利とか不利とか、そういう形になってしまうのが心配です。本来あるべき姿について、各党が率直に考えを述べる。「万機公論に決すべし」で、国の将来のために真摯に臨むべきだと思います。

【塩田】ありがとうございました。

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中谷元(なかたに・げん)
衆議院議員・前防衛相・自民党憲法改正推進本部長代理
1957(昭和32)年10月、高知市生まれ。土佐高校卒業後、防衛大学校に進み、80年に本科(理工学専攻)卒業。陸上自衛官となり、84年に陸上自衛隊普通科連隊小銃小隊長・レンジャー教官担当二等陸尉で退官。85年に衆議院議員の加藤紘一(元官房長官)の秘書となる。今井勇(元厚相)、宮沢喜一(元首相)の秘書を経て、90年総選挙で衆議院議員に初当選。以後、連続9回当選(高知全県区、高知2区の後、2014年総選挙から高知1区)。小泉内閣で防衛庁長官となる。14年に安倍内閣で防衛相・安全保障法制担当相に起用され、集団的自衛権行使容認に伴う安保法案の審議・採決が行われた15年の安保国会で担当大臣を務めた。16年8月に退任。一方で、自民党が12年4月に発表した日本国憲法改正草案の策定の際、党憲法改正推進本部事務局長として起草委員会委員長を担当した。著書は『右でも左でもない政治 リベラルの旗』『誰も書けなかった防衛省の真実』など。

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(作家・評論家 塩田 潮 尾崎三朗=撮影)

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