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グローバルを生き抜く「ライフスキルと英語スキル」

プレジデントオンライン / 2017年1月29日 11時15分

辻秀一・スポーツドクター

■心のマネジメントと英語のスキル

【三宅義和・イーオン社長】辻秀一先生は、英語の学習とご機嫌を保つ「Flow」のためのトレーニングは似ているとおっしゃいます。どちらもトレーニングを毎日続けないと元に戻ってしまう。ご指摘の通りなのですが、そのことを私たちは意外と忘れがちです。

【辻秀一・スポーツドクター】人間は安易に流れるのです。「英語は大事だ」と思っていても、学校も会社も日本語で通じてしまうので、僕たちは日々、日本語の脳しか使っていないわけです。「英語は必要ですか」と聞かれたら、「必要だ」と答えるものの、では今日は英語で何か話したかというと、おそらくほとんどの人は英語を使っていません。

これとすごく似ているのが「機嫌が悪いより、ご機嫌なほうがいい」と、みんな思っているのに、そうなる努力をしないことです。あたかも日々の生活が日本語で間に合う状況と一緒なんです。その際の言い訳が、難しい、無理、忙しいという3つです。

しかし、来週、ニューヨークで講演をするとなれば、絶対に練習に力が入ります。あるいは、オフィスに戻ったら、秘書が英語しか話さなかったらどうでしょう。僕のビジネス面での英語の価値がぐっと高まる。このように、自分にとってのバリューが上がれば、英語もメンタルも、しっかり練習しなきゃいけないと考えるはずです。

【三宅】そのためには英語を話せることで、すごく楽しい経験をした、あるいは、朝から機嫌がよいことによって1日がよくなったといった実感、経験が大事ですよね。

【辻】大事ですね。それと価値の高い人と会うこと。例えば、僕が下手クソな英語でもしゃべろうとしたときに、「OK、ではここから英語をなるべく使いましょう」と同じように、「できれば機嫌よくやろう」と励ましてくれるような価値の高い人と、どれだけ触れ合えるかだと思うのです。

【三宅】英会話スクールにしても、非常に楽しく学べれば、上達も早い。

【辻】英語を話す、気分も爽快。心地よい状態で、また英語にも触れる。当然、能率も上がるし、頭に入ってくるし、コミュニケーションも楽しくなるという好循環になるんですね。英語の学習と「Flow」のためのトレーニングは似ているし、相乗効果も大きい。

【三宅】ぜひそういうスクールにしていきたいと思います。

【辻】世の中の流れは、間違いなくグローバル化に進んでいます。と同時に、現代は心の時代でもあります。そこを生き抜くために必要なのが、心のマネジメントのためのライフスキルと英語のスキルだと僕は考えます。心をマネジメントできて、どこへ行っても英語が通じる。この2つがしっかりとしていれば、世界に出ても臆することはありません。

■世界がホームなら何も問題は起きない

三宅義和・イーオン社長

【三宅】ところで、先生は「スポーツは文化だ」と言われます。これも非常にユニークな発想で、普通、スポーツはスポーツ、文化は文化というように考えがちなのですが、この言葉の真意はどこにありますか。

【辻】文化というのは、英語で「culture」。語源はラテン語らしくcultivativeだそうです。人として耕され、豊かになる活動を語源としているんですね。そうした活動にスポーツを入れないというのはおかしいと思いませんか。

そもそも、東京オリンピックの開会式の1964年10月10日を、国民の祝日として「スポーツの日」ではなく「体育の日」としてしまい、体育に閉じ込められてしまったわけです。しかも、「文化の日」は別にあります。日本は、国を挙げてスポーツと文化を分けているわけです。でも違います。僕は、文化、カルチャーの中にスポーツもあれば、芸術もあるし、武道もある。読書もあるし、音楽もある、美術もあると思っています。

それでも、2011年に「スポーツ基本法」が定められて、やっと「スポーツは、世界共通の人類の文化である」という言葉が盛り込まれました。世界中のいろんな書物を読むと、スポーツの特質はおおむね4つになるようです。すなわち、医療性、芸術性、コミュニケーション性、そして教育性です。これらが、本来あるスポーツの文化的価値だということになります。

ただ僕は、子どもたちにもわかるように、これによる4つの価値を「元気・感動・仲間・成長」と言い換えました。人間を豊かにしていく心のビタミンをわれわれに提示してくれるのがスポーツだと信じて疑いません。

【三宅】なるほど、とても理解しやすいですね。

【辻】このようにスポーツをとらえると、この特質はプレイヤーだけでなく、同時にサポーターにも当てはまります。応援する側は「見る・支える・話す・聞く」ことで4つの価値を実感する。だから『スラムダンク』のマンガを読むのもスポーツなんですね。

何回読んでも、元気になり、感動し、仲間ができて、成長するということを考えさせられる。そしてそれは、クオリティ・オブ・ライフを高めるための要素でもあります。元気がなく、感動もなく、仲間はいないし、成長しないというのでは、人生はつまらないものになってしまいますからね。

【三宅】最近のアスリートの英語力ですけれども、練習ひと筋で全然勉強していない人もいれば、非常に流暢に話す人もいる。昨今は海外でプレーするし、外国人選手がチーム内に増えてくるのがあたりまえになってきました。これにどう対応していくべきでしょうか。

【辻】「ホーム&アウェー」という言葉がありますけれども、文化や習慣にしてもそうですが、何より語学ができないと、ものすごい疎外感を抱くものです。自分の言いたいことが伝えられず、相手の言っていることがわからないということが、最大のアウェーなんですよ。

【三宅】非常にわかりやすい(笑)。

【辻】やはり人間というのは、アウェーと感じると、それだけで「Non Flow」になってしまいます。そうなるとパフォーマンスが落ち、スポーツなら勝てないし、ビジネスパーソンも実績を残せません。アウェーの生活と文化を知るために必要なのは語学です。だから語学ができないと世界で活躍なんて絶対に無理でしょう。

【三宅】国内では強いけれど、海外に出ると活躍できない選手も多い。

【辻】だから世界がホームだったら、何の問題もありません。その意味でも、英語は大事です。

■人間としての価値の素晴らしさを知るべき

【三宅】最近、スポーツに限らず、教育界でも産業界でもグローバル人材育成という言葉がキーワードになっています。世界に伍していける若者を、もっと増やしていこうということですが、辻先生が考えられるグローバル人材のイメージを教えてください。

【辻】結局人間とは、自分の過去の経験に基づいた、自分の居心地のいい領域の中で生きるという習性のある生命体なんです。居心地のよさの中で生きたい。みんな変わりたいといっても変われないのは、それが一番の理由です。ただし、いつも固定化された環境で生きていたのではグローバル人材にはなれないでしょうね。

これから世界にどんどんつながっていこうとするなら、どんなときにも、揺らがず、とらわれず、もっと柔軟に自然体で生きていけることが基本です。それを加速させていくためにも、英語力があったほうがいいのは間違いありません。ただ僕は、人間はコミュニケーションの生き物なので語学のスキルも大切ですが、根本はライフスキルが高いことがグローバル人材の必須条件だと考えています。つまり、ここでも「Flow」でいることが必要になってくるのです。

スポーツの世界でも、どんどんグローバル化が起こっていきます。例えば、北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手にしても、近いうちにメジャーリーグに挑戦するでしょう。おそらく彼は、アメリカに渡るまでに英語を体得すると思います。彼は、必要なことは絶対にやり遂げるのです。アメリカでプレーするという目標設定をしたら、そのためにするべきことを絞り込んで実践し達成していくという方法をとっていきます。その目標に英会話は間違いなく入っていますね。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【三宅】野球の才能にあふれているだけではないのですね。一流選手の一流たる所以はそうしたところにもあるのですね。

【辻】サッカーの中田英寿さんが、イタリア語で元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏にインタビューしている映像を見たことがあります。大谷選手も絶対にそうなると思います。

一方で、イチロー選手は、日本語での表現にすごくこだわりを持っている人です。もちろん、英語もできるでしょうが、自分の話す日本語を大切にしているから、いつも通訳を使うようにしています。多分、日本語の語感で自分の心をマネジメントしているからですね。

【三宅】最後に日本人英語学習者と、将来のアスリートたちへの励ましのメッセージをいただけますでしょうか。

【辻】誰にでも足りないことがあります。僕にしても、いくつかの仕事をこなしていますが、毎日のように不足感はあります。しかし、そこにばかり目が行ってしまうと「あれもできていない、これもダメだ」というふうにネガティブになってしまう。

確かにそんな場合もあるでしょうが、1人ひとりが人間としての価値の素晴らしさを知るべきです。足りないことはあるけれども、改善してよりよくなっていけば、どんな人もダメなどということは絶対にないわけです。そのことを、もっと信じてほしい。それが、一番伝えたいことです。

(イーオン代表取締役社長 三宅 義和 岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)

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