安倍vs佐川は"150年ぶりの戊辰戦争"だ
プレジデントオンライン / 2018年3月29日 15時15分
■目下の政局は「第二次戊辰戦争」か
「150年前、明治という時代が始まったその瞬間を、山川健次郎は、政府軍と戦う白虎隊の一員として、迎えました」。このようなエピソードから始まった2018年1月22日の施政方針演説は、少なからぬ驚きをもって受け止められた。山川は維新期、朝敵とされた会津藩士でありながら、東京帝国大学総長に就いた立志伝中の人物だ。
安倍晋三が指摘するように18年は明治維新から150年の節目だ。ただ、戦後処理をめぐり、長州と会津の間には今なお溝がある。地元が山口県の安倍が、それを知らぬはずがない。その背景を踏まえれば異例の言及だった。
「公文書の書き換え疑い」との朝日新聞スクープをきっかけに、森友政局が再燃している。忖度、お友達政治など、わかりやすいフレーズが躍り、政権批判が喧しい。自民党関係者は語る。
「政治的圧力をかけたとの疑惑がかかる安倍首相は、長州藩士の血を引きます。そして、政権から主犯とされた前国税庁長官、佐川宣寿は1957年、福島県平市(現・いわき市)に生まれました。目下の政局は『第二次戊辰戦争』と指摘されています」
■佐川氏の保険業界への天下りはチャラに
福島にはかつて、磐城平藩が置かれた。戊辰戦争では、奥羽越列藩同盟に与し、新政府と戦った。1868(慶応4)年1月、京都南郊で勃発した鳥羽・伏見の戦いから1年半続いた戊辰戦争で、国内は大きく分断された。
この戦争では、薩長を中心に、新政府側が掲げた王政復古の理念に対し、東北諸藩は幕藩体制の存続にこそ正義があるとし、激しく抵抗した。なかでも、会津藩は鶴ヶ城(会津若松城)陥落時に、遺体の埋葬が許されなかったとの伝承が残り、薩長新政府への遺恨のもととされる。そもそも、明治体制は天皇を元首とし、強固な中央集権体制を敷いた。一方、幕藩体制はイメージと裏腹に各藩の裁量は大きかった。
「同じ長期政権として比べると、小泉純一郎内閣は、どのメディアとも対等に対峙してきました。安倍内閣は、産経、読売や保守系メディアに肩入れする一方で朝日新聞は敵視してきました。1度、『敵』だと認定されると破滅するまでやり込める安倍内閣。それは沖縄県知事や東京都知事への対応でもそうでした。佐川も敵認定されたとすれば、破滅するしかないでしょうね」(前出 自民党関係者)
野党の大物議員も「佐川は保険関連の協会への天下りが内定していましたが、チャラになったそうだ」と語る。
■内閣人事局というアメとムチ
17年2月の朝日新聞報道以来、森友疑惑は親安倍か、反安倍かの政治的対立を際立たせた。安倍政権は12年の政権復帰以降、特定秘密保護法や安全保障法制など国を二分するテーマを重要課題と位置づけ処理してきた。さらに戦後初めて憲法改正する具体的な政治日程に載せてみせた。
その構図に、歴史を重ねてみよう。官邸主導のトップダウンを進める政権に対し、佐川を筆頭に財務省、あるいは霞が関が抵抗したと考えることができる。官邸主権に対し各省の既得権益内で自由を求めた。財務省からの自殺者もまた、鶴ヶ城下よろしく野晒しにされたと言えなくもない。
今後行われる佐川の証人喚問でどれほどの真実が明らかになるか不透明だ。内閣人事局というアメとムチで、霞が関に忖度を迫ったという構図は確かにわかりやすい。ただ、書き換えをめぐる国土交通省からの報告が副総理の麻生太郎に伝わっていなかった経緯などから、増税をはじめ省益に反し続けた政権を葬ろうと目論んだ財務官僚の暴発、という見方も一定の説得力はあろう。
冒頭の安倍演説は、明治150年という節目にあたり、長州から会津、そしてすべての佐幕派に向けた、和解のメッセージと評価しうるものだった。
日本を取り巻く国際環境は、150年前も現在も厳しい。国内で無用なエネルギーを消費する余裕はない。国難に対し一丸となって取り組もう。安倍は、この演説にそんな思いを込めたのではないだろうか。
しかしその思いは、はかなく散った。燃え上がった森友政局は安定政権という外交上の強みはもちろん、安倍の総裁3選や悲願である改憲すら吹き飛ばしかねない状況だ。(文中敬称略)
(和井 直 写真=時事通信フォト)
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