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研修医「月収30万に全然届かない」現実

プレジデントオンライン / 2018年10月13日 11時15分

写真=iStock.com/ipopba

大学病院の夜間診療には行っちゃダメ! 研修医が当直しているんだからね。医者のなかには、そんなことを言って患者を脅かす人がいる。実際にはどうなのか。研修医を集めて真相を探ってみた。

■研修医とインターンはどう違う?

研修医を「インターン」と呼んでいる人はいませんか?

かつて医学部の卒業生は、医師免許を取る「前」に、医療現場で無給のインターンをさせられた。あの東大全共闘が暴れたのは、もとはといえば「インターン制度廃止」運動が発端だった。おかげでこの制度は約50年前に廃止され、医療現場ではすでに死語になって久しい。

ところが、研修医はいまだに、世間からしばしば「インターン」と呼ばれてしまう。それ、間違いですから。

では、インターンと研修医との違いは何か。研修医は医師国家試験をパスした後に、一定の給料をもらってなるものだ。現在の研修医制度は2004年にスタートした。実はインターン制度廃止後も、約30年にわたり、研修医の労働面や給与面での処遇には問題が多かった。そこで抜本的な制度改革が行われ、今の研修医制度ができあがったというわけだ。

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▼研修医制度とは?
●インターン制度が前身(医師免許取得前、無給)
●1968年、臨床研修制度となる
●2004年、現在の研修医制度スタート
●初期研修期間は医師免許取得後2年間
●初期研修後は3~5年間の後期研修に入る

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だから、今の研修医は、昔みたいにひどい扱いをされているわけではない。世間の人が信じ込んでいる「インターンに診てもらうのは怖い」というウワサは、多分に誤解を含んだ都市伝説のようなものだろう。

とはいえ、研修医は相変わらず忙しいし、給料も安い。がんばっているけど、彼らの多くはへとへとだ。

現代の研修医たちは、どんな思いで仕事に向き合っているか。その実態を知るために、11月の某夜、首都圏にある某大学病院の現役研修医3人に集まってもらい、座談会を行った。

聞き手は、医学部出身のライター・朽木誠一郎。

■循環器内科は、なぜか体育会系

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相田さん(仮名) ●研修医1年目、大学病院腎臓内科 ●首都圏の私大医学部卒 ●家族に医師はいない、大学時代はサッカー部
伊佐山さん(仮名) ●研修医1年目、大学病院救急科 ●首都圏の私大医学部卒 ●父は開業医、大学時代は水泳部
梅村さん(仮名) ●研修医1年目、大学病院循環器内科 ●首都圏の私大医学部卒 ●両親とも医師、大学時代はサッカー部

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――こんばんは。みなさん、3人そろって、よく集まれましたね。残業はなかった?

【相田】いや、たまたまですよ。正直言うと、全員出席は無理かと思っていました。たぶんこのなかの誰かは、突発的なことが起きて病院を出られないだろうなと。ただ、僕の場合は今、腎臓内科にいるので、急患がなければ18時、あっても21時には仕事が終わります。当直がない日であれば、ある程度、帰れていますね。

――そこでまず、勤務状況を知りたいんですが、朝は何時頃から仕事が始まるんですか?

【相田】研修医は病棟で入院患者さんの採血などを担当するので、回る科にもよりますが、大体7時から8時くらいでしょうか。科によってはもっと早いこともあります。

――では、帰れるとはいえ、大体12時間くらいは勤務されているわけですね。

【相田】はい。でも、もっと楽な科もありますよ。麻酔科の先生たちは朝8時に来て17時や18時にはきっちり帰りますし。

――みなさんのような初期研修医は、ローテーションの仕組みによって数カ月ごとに複数の診療科を回りますが、勤務の大変さも回る科次第だということですね。ほかのお二人はいかがですか? 循環器内科と救急科というのは、急患がバンバン運ばれてくるイメージですが。

【梅村】そうですね、僕が今回っている循環器内科では、冬になると心筋梗塞がだんだん増えてくるので、夕方に緊急カテ(ーテル)が入ると、夜遅くなることはあります。とはいえ、日をまたぐことはほとんどないです。

――心臓に細い管を入れて検査・治療するのがカテですが、この治療はドラマティックですよね。運ばれてきたときは今にも命を落としそうだった患者さんが、カテをやると数時間後にはピンピンしていることもある。

【梅村】そうですね。循環器内科は指導医の先生たちも体育会系で、急患が運ばれてくると「やるぞ!」って感じです(笑)。

――科によって雰囲気は違いますよね。腎臓内科は研究肌の先生が多くてアカデミックだし。

【相田】そうですね。細かいところまでよく気がつく先生が多いです。

――伊佐山さんのいる救急科はやっぱり体育会系?

【伊佐山】体育会系ですね。医療ドラマなどで描かれるような、緊迫した状況になることも、実際によくあるので。とはいえ、一昔前の「救急医は激務」というイメージは、今とはちょっと違うと思います。

――今はどのように変わりましたか?

【伊佐山】まあ、休みの日はちゃんとありますからね。

――おお、休めるんですね。それはよかった。

【伊佐山】もちろん、自分のいる病院の救急科は、ということですが。シフトがしっかり組まれているので、過労で倒れてしまう、というほどではないですね。

――シフトはどのように?

【伊佐山】たとえば「入り」から「明け」までだと、当直もある場合には、朝の7時くらいに病院に行って患者さんのカルテを書いて、夕方の17時くらいまで病棟で患者さんの管理をし、そこから当直。深夜の救急車に対応して、朝の引き継ぎをして、15時くらいまでまた働きます。

――当直をはさんで30時間以上の勤務ですね。一般企業なら、労基署(労働基準監督署)に踏み込まれてしまう(笑)。

【梅村】たしかに(苦笑)。

【伊佐山】でも、その日は一応、寝られるので。

――そりゃ、寝なきゃダメですよ! でも当直のときは、寝ていられるんですか?

【梅村】救急車が来なければ寝られますよ。でも、そういう日は年に1回、あるかないか……。院内PHSが鳴りやまない日もあるので。

■まだ患者さんを死なせたことはありません

――忙しくて、「もう嫌だ」と思うことはない?

【伊佐山】本当に疲れているときに、「もう1台」と言われると、ちょっと悲しい気持ちにはなりますけど。でも、僕は来たら来たでうれしいですよ。

――それは、どうして?

【伊佐山】やっぱり、勉強になりますから。

――ほー、偉い。

【伊佐山】あっ、でも、病気になる人のことを考えたら、喜んじゃいけないんですけど。

――「勉強」という言葉が出たので聞きますが、みなさん、勉強はどのように?

【相田】僕は仕事が終わってから、22時半くらいまでは病院に残って勉強をしています。早く帰れる診療科を回っているときは、むしろ「よかった、勉強時間が取れる」と思っちゃいます(笑)。

――うわー、かなり遅くまでですね。ほかのお二人もそのくらいですか?

【伊佐山】はい、そのくらいです。

【梅村】研修医仲間で一緒に勉強会をすることもありますよ。

――研修医のみなさんって、本当に勉強熱心ですよね。

【相田】医療ミスはいつ起きてもおかしくない、という怖さが常にありますから。でも、なかにはそうじゃない人もいますよ。勉強だけじゃなくいろんな意味で、「自分の家族をコイツには診せたくない」と思うこともありますから(苦笑)。

――ちなみに、診察中にわからないことがあったときは、どうしているんですか?

【相田】メモ用紙にメモしておいて、それを専門書で調べます。診察室ですると患者さんに怪しまれますから、1度部屋を出てからすることが多いですね。

――へえ、紙なんですね。グーグルで検索……はさすがにできないとしても、デジタル機器を活用したりはしない?

【相田】いやぁ、患者さんの前でスマホを出すようなことは、できませんよ。

【伊佐山】タブレット端末に専門書や教科書をデータ化して保管する人はいますよね。百科事典みたいに膨大な量でも、全部まとめておけるから。でも、それを病院内で使えるかというと、雰囲気的に難しいかな……。

――医療現場って、意外とアナログですよね。

【梅村】ようやく電子カルテが一般的になったところですからね。

【相田】むしろ、患者さんのほうがネットでものすごく病気のことを調べていることもありますよ。

【伊佐山】ああ、あるある。研修医の自分より詳しいんじゃないかと思うこと。でも、一方で、間違ったことを信じている方も多いです。

【梅村】ネットでも本でも、週刊誌でも、間違った医学情報って多いんです。ほんと、ひどいですよ。

【伊佐山】やっぱり、直接診ている医師の意見が、一番信頼できるとは思いますよ。

【相田】今までは「医師が患者さんより圧倒的に知識量を持っている」という前提がありましたが、今ではだんだんイーブンになってきました。でも、病気の診断ができるのは、やっぱり医師だけですので。

――(突然、スッとグラスにビールを注がれて)あ、どうもどうも。本当に若手のお医者さんって、こういうことをしっかりするよね。

【伊佐山】やっぱり、医師の世界は上下関係が厳しいですからね。

――入学すると、まずビールの注ぎ方を叩き込まれますよね。

【伊佐山】低学年の頃から、年長の先生と関わる場が定期的に催されますから。

【梅村】あと、注いでもらうときは、必ず飲み干してから、とか。

【相田】今日はたまたま、自分が上座に座らせてもらってますが、なんだか落ち着かなくて……。

――みなさんは、危うく医療ミスを起こしかけた、といった経験はありますか?

【伊佐山】医療ミスではないですが、処方薬の量を間違えたことはありますね。2錠出すべきなのに、1錠しか出していなかったこともあります。

――それ、大丈夫なんですか?

【伊佐山】病院内では薬剤師さんがダブルチェックをしてくれるので、大丈夫でした。もちろん、気を引き締めなければいけませんけど。

【相田】まだ、幸い、自分のミスで亡くなった患者さんはいません。でも、それはいつ起きてもおかしくない、という怖さは常にあります。

――とはいえ、研修医1年目だと、「研修医なのに重い症状の患者が来てしまって、1人でどうしよう」といった、マンガでよくある設定は、あんまりないのかな?

【伊佐山】人手不足の病院だとありうるかもしれませんが、基本的にはないはずです。研修医が処置をしているときは、うしろで指導医が見ていて、ミスがあれば「違うよ」と言ってもらえる環境ですね。

■研修医の給料は、本当に安いか?

――患者さんと向き合うときの緊張やプレッシャーについてはどうですか?

【梅村】正直に言うと、最近、なくなってきたかもしれないです。ある程度、ドンと構えられるようになったというか。ヤバいか、ヤバくないかの判断はできるようになってきました。

――それは、いつ頃から?

【梅村】医師になって半年くらいからですね。というのも、ずっと先輩医師に頼ってばかりだと、自分が上の立場になったときに、後輩を指導できないと思うので。

――あと、下世話な質問でごめんなさい。今のお給料って、自分の仕事に見合っていると思いますか?

【相田】うーん、見合っているかいないかで言うと、見合っていないですね。時給にしたら一体いくらなんだろう……。

――研修先は田舎より都会が人気だから、給料は都会のほうがかえって田舎より安い傾向にありますよね。さらに、大学病院だとなお安い。月々の給料は20万~30万くらい?

【伊佐山】いや、30万円なんてぜんぜん届かないですよ。

――あ、やっぱり。

【梅村】ただ、卒業から3年目に初期研修を終えて後期研修が始まると、一気に給料が数倍になると聞いているので、それを励みにがんばっています(笑)。

※研修医マッチング制度とは、研修希望者と病院双方の希望をもとに、システム上で両者をマッチングする仕組み

▼後期研修医になると月収は100万円に!

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山際さん(仮名) ●研修医4年目(後期研修医)、中規模病院小児科 ●首都圏の私大医学部卒 ●父は歯科医、大学時代はバレー部

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病院内のさまざまな科を経験する初期研修医と異なり、3年目からの後期研修医は専門の科を選んでそこに所属する。4年目の山際さん(仮名)は小児科を選んだ後期研修医だ。

――小児科に決めたのはいつですか?

【山際】人によっては初期研修の1年目で決めることもありますが、僕の場合は2年目で興味のある科を回り直して、そこで小児科に決めました。

お年を召した患者さんなどでは、特定の臓器というよりは、あちこちが悪いじゃないですか。そうすると、へんな言い方をすると呼吸器科と腎臓内科が患者さんを取り合ったり、押し付け合ったり。その点、小児科なら1人の患者さんを、全身、包括的に診られるので。

――山際さんは、出身大学の医局には入局していないとか。かつての研修医制度ではほとんどの研修医が医局に入りましたが、今は少ないんですね。

【山際】ええ。入局する人としない人は半々くらいですね。

皮膚科や眼科など、専門性が高い科については、大学病院でないと症例が集まらないこともあるかもしれませんが、そんなに専門性が高くない分野でなら、大学と市中病院とで症例の差はないかな、と思います。

――あと、待遇が気になります。ストレートにうかがって、月収は?

【山際】大体、100万円くらいになりますね。

――やはり、初期研修医からは一気に上がりますね。

【山際】大学病院よりは、市中病院のほうが後期研修医の給料が高いということもあります。

――初期研修医は1人では当直しないそうですが、今は?

【山際】1人です。月に5回くらいは当直をしています。ただし、これは市中病院だからで、大学だと1人では当直をさせないところが多いでしょう。

――初期研修医時代と比べて、生活は落ち着きました?

【山際】それは、そうですね。僕は今度結婚するのですが、その準備ができるくらいには余裕があります(笑)。

だいたい朝は8時くらいに病院に行って、急患が入らなければ18時に帰ることも少なくないです。平均して週に1回くらいは急患が入るので、そういうときは19時とか20時とかですね。

急患といっても小児科の場合、10人に9人は、すぐに自宅へ帰ってもらっても問題ないような患者さんです。すると、逆に10人に1人を見逃さないのが一番大事な仕事になるんですよ。後期研修を終えたら、次は専門性を身に付けるために、小児診療に特化した病院に行こうと思っています。

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朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)
1986年、茨城県生まれ。水戸一高、群馬大学医学部卒。卒業後は医師の道を歩まず、在学中から活躍のライター業へ。インチキ医療サイトの告発にも取り組んでいる。

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(朽木 誠一郎 写真=iStock.com)

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