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社員の"一生のお願い"を叶えまくったワケ

プレジデントオンライン / 2018年11月15日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Milatas)

倒産寸前の会社を再生させるには、なにから手をつければいいのか。メガネスーパーをV字回復させた星崎直彦社長は、「とにかく社員の話を聞くことが重要だ」と説く。就任直後から「『一生のお願い』はないか?」とスタッフに尋ねてまわり、そこで出たアイデアを実現させてきた。なぜそんな手が有効なのか――。

※本稿は、星崎尚彦『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■社長は口より先に「耳」を開け

私は外資系アパレルを中心に複数の会社の経営者を務めたが、メガネスーパーにやってきたときにはメガネをかけたことすらなく、メガネについて立派な門外漢だった。だから、長年続く赤字から会社を復活させるというミッションを掲げて入社したものの、最初は現場に飛び込んで話を聞くことしかできなかった。

会社の歴史も店舗のこともメガネのことも、全部スタッフが教えてくれた。毎日のミーティングや飲み会で、さんざん聞いた。会社や店のこと以外にも、「誰と誰が付き合っていた」をはじめとする楽しいがどうでもいい話まで、全部聞いた。それらはすべて、私なりのデータになった。

よくいわれることだが、話すよりも聞くことのほうが、よほど大事だ。経営者にとっても、それは真実である。

最終的に意思決定を下すのは私でも、その前にデータ収集を済ませておかなければ判断軸を持てないし、何も決められない。業界のことや会社のことをある程度理解していなくては、「今はこれをやろう」と自分の意見を強く押すこともできない。

■「言いたいこと言ってくれ!」ではしゃべらない

だから、トップとしての判断軸を持ったり決断したりするための情報収集が必須になるわけだが、いきなり外からやってきた見ず知らずの社長あるいはリーダーが、スタッフやメンバーに対して「さあ、言いたいことを全部言ってくれ!」などと言ったところで、社員の側からすれば普通は話しづらい。「そうですか」なんて言って、重要な情報をペラペラ話してくれる人はめったにいない。それでもひたすら、聞くのである。

たとえば、ある社員が「以前試して、うまくいったアイデア」を話してくれたのは、前オーナーの悪口をウダウダ聞いていたときだったと思う。流れでその話が出てきて、聞いたとたん「それ、もう一度やろう!」と突然私が言うと「え、いいんですか!?」と意外そうな反応が返ってきた。このとき、もし私が「何かアイデアない?」とあらたまって聞き出そうとしていたら、その話は出てこなかったと思う。

店のスタッフに「『一生のお願い』ってない?」という質問もよくした。「駐車場を2時間無料にしていいですか……」というささやかなお願いを述べたスタッフには、「2時間と限定するのが感じ悪いから、無制限でいい」といった。驚く相手に「そんなものが一生のお願いなのか?」と突っ込むと、それでまた話が弾んだ。

「可能であればTシャツを作って『セール』と書いていいですか」といういじらしいお願いもあった。現在は当社社員の全員が知っていることだが、私は「可能であれば」という言葉は大嫌いだ。「すぐにやれ」といったらTシャツの作り方がわからないというから、私がTシャツを買って、手作業でプリントして、店に配ってしまった。

委縮している社員から本音を聞こうと思ったら、社長が目を見て一生のお願いを聞くくらいでないと無理だ。その代わり、話してくれた内容に価値があれば、どんなにささいなことでも、面倒なことでも、必ず実行すること。これは鉄則だ。

■すぐに組織を変えたがる経営者の愚

門外漢の業界に飛び込めば、業界固有の知見が問われる場面は当然あるが、そんなこんなで半年も熱心なデータ収集に努めていれば、どこに問題を抱えているか、だいたいわかるようになる。データが一定以上に蓄積すると、「もうわかった、この会社はいける」と結論を出せる。

星崎尚彦『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』(KADOKAWA)

優れた経営者とは、情報の点と点がつながり、面になって、絵が見えてくるまで「待てる」人ではないだろうか。いかに即断即決の0秒経営を掲げていようと、中長期的に会社を成長させるためには、従業員との信頼関係の構築が先決。それだけは、付け焼き刃では不可能だ。

だからまず、データ収集に徹する。社長だろうが、すぐに組織をいじってはいけない。急がずじっくりと、この会社でどのボタンを押せばどんな作用が表れるのか、誰がキーパーソンなのか、誰が邪魔をしているのか、見極める時間として使う。未熟な経営者やリーダーほど、すぐ自分の色を出して組織を変えたがるものだが、それでは、社員もついてこない。

現状把握だけではない。人に対する評価などは、とりわけ拙速のリスクが高い。たとえば、社長や責任者になってすぐ近寄ってきた人、遅れて近寄ってきた人がいるとしよう。前者のほうが、どうしてもかわいいと感じてしまう。だが、本当に正しい意見を述べているのはどちらか。会社のためを思って発言しているのはどちらか。それを判断できるほど、会社のことを理解するには、やはり数カ月はいるだろう。

だから私は、そもそも人を「使える・使えない」「いい人・悪い人」といった基準で評価しない。どの人についても、この人のいいところはここ、努力する必要があるのはここ、というふうに分けて考える。そしてその都度、その人の振る舞いや行動の結果については「今回はいいところが出たな、今回は悪いところが出たな」というとらえ方をする。

近寄ってきてくれたのがうれしくて、安易に「彼はすごく使える」とか「使えない」といった評価をしてしまうと、3カ月後にひっくり返るようなことになりかねない。そうなった場合、マネジメントとしての資質を疑われるのは当然だ。

■「来ないで」とお願いしても出社する社員

私が社長として社員の一生のお願いを聞く一方で、逆に私が「頼むからこうしてくれ」と社員にお願いをすることもある。これが、なかなか聞いてもらえない。「組織はトップダウンでたちまち変わる」などとカッコいいことを私が言えないのは、これが理由だ。

社長本人が現場に出張り、スタッフに面と向かってこれだけの言葉を尽くしてもなお、何かにつけて「本当に、いいんですか?」という確認が入るのである。それほどに、組織に根付いたルーティンや風土を変えるのは、難しい。

風邪をひいているのに喜々として出社してくる社員がいた。無理して働いても、風邪が長引くばかりか、お客さまや同僚に風邪をうつしてしまう恐れがある。だから「来ないでください、帰ってください」と再三お願いしているのに、「熱が38度ありますが、頑張ります!」というのだ。とんでもない話である。

あるいは、大雪や台風に見舞われたとしよう。ファックスを廃してパソコンを導入して以降、自宅にいても仕事は支障なくできるようになった。店を開けたところでお客さまもやって来ない。電車もバスも運行ストップしている。普通に考えれば、店は臨時休業という判断になる。私もそう推奨している。スタッフは家で仕事をしてもいいし、たまっている有給を消化してもいいではないか。

それなのに、「店は開けてナンボ」とばかりに出勤してくるスタッフがいるのだ。こんな日に店に来るとは。繰り返すが、待っていてもお客さまはやって来ないのだ。その無人の店に雪や台風のなかわざわざ出勤するために、スタッフがどれだけのリスクを冒すことになるのか。

そして店に着いたら、今度は雪かきをしようとする。これもムダな努力である。「雪が降っている間は放っておけ。やんでからかいてもらえるか?」と頼む。お客さまから「おたくのお店は、雪かきもしてないの?」というご批判をいただいたこともあるが、「スタッフが大変なので、今日はしません」とお返事した。ごく合理的な判断だと思う。

■社長からの「一生のお願い」

「本当に、店を閉めていいんですか?」という声には「なんで開けるんですか?」と問い返すだけで、本来いいはずだ。もちろん目の前に困っているお客さまがいたら、そのご期待にはなんとしても応えるべきだし、そうすれば売上もあがる。だが、そのお客さますらいない、台風や大雪の日に危険をおかして店に出るのはバカバカしい。まるで意味不明だ。

これだけいっても、現実にはなかなか店を閉められない。「今日、大雪なんで店閉めますね」と現場から報告があがるようになったのは、この1~2年でようやく、なのである。今年の冬には、私が「一生のお願いだから休んでくれ」と頼まなくて済むことを祈る。

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星崎尚彦(ほしざき・なおひこ)
ビジョナリーホールディングス代表取締役社長
1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、三井物産入社。スイスIMDビジネススクールでMBA取得。三井物産退社後、スイス「フラー・ジャコー」、イタリア「ブルーノマリ」、米国「バートン」の日本法人トップを務める。2013年6月、メガネスーパーの再建を任され、2016年に同社9年ぶりの黒字化を果たす。2017年11月より現職。

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(メガネスーパー代表取締役社長 星崎 尚彦 写真=iStock.com)

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