"上から目線"のモツ焼き屋が愛されるワケ

プレジデントオンライン / 2018年12月10日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/JianGang Wang)

年上の客にもタメ口で接客し、平然と注意もするのに、なぜか客足が途絶えないモツ焼き店がある。マーケティングに詳しい本間立平氏は「店が味に絶対的な自信を持っているから、お客さんを“指導”できるのだ。これからは客に従う時代から、客に従わせる時代になる」と説く。このモツ焼き店が好かれる理由とは――。

※本稿は、本間立平『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(大和書房)の一部を再編集したものです。

■鮮度抜群のモツを求めて客が集まる

ある繁華街に、私がよく行く、人気の「モツ焼き」のお店があります。「モツ」とは、「臓物」、つまり「内臓」のことで、主に豚のレバーや、心臓、腸などの串焼きを食べさせるお店です。モツは鮮度が命です。「朝挽き」というのをご存じでしょうか。朝までブーブーと鳴いていた豚さんを、その日のうちに提供することをいいます。そのお店も鮮度がウリで、仕入れたモツはその日のうちにすべて使い切ります。

この店、以前は「モツ刺し」を提供していました。しかし、数年前のある焼肉チェーンが引き起こしたユッケ事件を発端に、「生食禁止」が厳格になり、「刺し」は提供できなくなってしまいました。それでも人気は変わりません。毎日、鮮度抜群のモツを求めて、夕方の開店とともに客がなだれ込み、ものの5、6時間で売り切れてしまうほどなのです。

■山積みの商品はなぜ売れるのか

私は、この店の「品切れの伝え方」が非常に巧みであることに、以前から注目していました。「レバー」「タン」「ハツ」というように、メニューが一品ずつ木の札に書かれており、それが壁にずらりと並べてぶら下げられています。一品売り切れると、その札を裏返して、お客さんに品切れになったことを伝えます。表が「黒字」、裏が「赤字」になっており、閉店が近づくにつれ、最初は黒一色だったお品書きが、どんどん赤色に染まっていきます。

「いらっしゃい! 赤い札は売り切れだから、黒い札のやつを頼んでね!」

客は、壁のお品書きを見れば、何が残っているのか、一目瞭然です。それだけでなく、黒字がどんどん赤字に返されていく様を見て、「なくなる前に、あれも食べておこう」という気にさせられます。遅くから来た客が、すでに黒字札が少ないことに焦りを感じ、「残っているの全部1本ずつください!」と、すべての品をオーダーするのもいつもの光景です。このお店は、お品書きで<売れ行きの可視化>をしています。

店頭実験で、セールでの「山積みの効果」を観察していたときに、この「売れ行きの可視化」の力を思い知りました。100個ほどの特価商品を山積みにし、売れていく様子をウォッチします。最初の10~20個くらいは、慎重なせいか、売れるスピードはそれほど速くありません。

ただ、商品の山が少なくなってきて、残り50個くらいになると、売れ行きが加速していきます。買い物客の人だかりが発生し、残りが10個程度になると、隣の客に買われてはならぬと、誰もが、われ先にカゴに入れ、瞬時に品物がなくなります。どんどん減っていく商品と、他の買い物客の存在が、「煽り」の効果を生むのでしょう。

■店員がタメ口でおじさんを注意

「モツ焼き店」に戻りましょう。

ふと、私の横に、推定年齢50代くらいの、「おひとりさま」のおじさんが座りました。

本間 立平(著)『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(大和書房)

きょろきょろと店内を見回したり、メニューを探したりする様子から察するに、おそらくこの店は初めてのようです。お店のルールがわからなかったのでしょう。そのおじさんは、大きな声で、「カシラを2本ください!」と、赤字の札を注文してしまいました。すると、

「それは売り切れだよ。黒字のやつから頼んで」

と、30代前半くらいであろうお兄さんの店員が、思いっきり「タメ口」で、注文方法を修正しました。

「あ……、なるほどです」おじさんはすぐに、このお店の「品切れ表示システム」を理解したようです。黒字の札から、食べたいものを探し始めました。しかし、おじさんは再び、軽率な発言をしてしまいます。

「じゃあ、ハツをください。塩でお願いします」

■食べログで「接客に難あり」の理由

私も若いころはよくやってしまいました。このモツ焼き店に限らないのですが、飲食店に一見で入る際には、「郷に入っては郷に従え」の心構えでいることが重要です。お店から聞かれてもいないのに、味や調理方法などに注文をつけるのは、非常に危険な行為です。

焼肉店での「タレか塩」。ラーメン店での「ニンニクの有無」……。これらはすべて、聞かれてから答えるのが、「一見の作法」です。なぜなら、お店が「一番おいしい状態にして出す」ことを決めている場合があるからです。そして、このモツ焼き店も客側からの味の指定は一切受け付けていません。味付けにタレも塩もなく、モツのパフォーマンスを最大化する「ベストな味付け」があるだけです。

「あ、味は、こっちでやるんで」

またもや、「タメ口」がおじさんに突き刺さります。

実はこの店、「食べログ」で味が高く評価されている一方、「接客に難あり」と言われています。特にこの「タメ口」に対する悪評が後を絶ちません。下町のモツ焼き店などではタメ口でないことのほうが珍しいのですが、普段はこういった店に来ない人だと、「は? 何で客に対してタメ口なわけ?」と不満を抱くのも無理はないでしょう。

■自信がある店は客を「指導」する

タメ口であったり、味の指定をさせなかったり、このモツ焼き店の「上から」な感じは、一見、マイナスにしかならない気がします。しかしそれは、店が味に絶対的な自信を持っているからこその「ふるまい」だという見方もできます。

“無骨な接客は、おいしさの裏返し”この店の常連客は全員、そのことを理解しているのです。「こだわり」を伝えるための「ルール」をつくり、それを遵守させる。これが「買わせるメソッド」のひとつ、<指導>です。

昔テレビでよく紹介されていた「お客さんを叱る大阪の下着店」も、客を「指導下」においています。客が下着をきちんとたたんで元に戻さないと、店主の女性にどやしつけられます。どうして、そこまで客に厳しいのか。店主にインタビューすると、

「良いものを、破格で売っているのだから、それを買いに来る人にもそれなりにルールを守ってもらわなければ困る。それが嫌ならウチの客になってくれなくて結構」

商品の品質と価格に絶対的な自信があるからこそ、お客さんを「指導」できるのです。

■カゴを付けない自転車専門店

私は以前、スピードの速い自転車が欲しくなり、クロスバイクを買いに、自転車専門店に出向きました。店員は、私がスポーツ系の自転車を選ぶのが初めてだと知ると、ブランドごとの特徴や、自転車の選び方のポイントなどを、懇切丁寧に教えてくれました。

しかし、購入を決め、付属品を選ぶときになって、事件は起こりました。「よく買い物をするので、この自転車のフロントのところに『カゴ』を付けてくれませんか?」と私が頼むと、店員の表情が一変し、「それはできません」と断られたのです。「この間、クロスバイクに、ちょっとかっこいいカゴを付けて走っている人を見たんです。そういうのはありませんか?」と食い下がると、

「カゴを付ける人もいるでしょう。付けようと思えば付けられる。でも、ウチではやらない」

と、断固拒否されました。

■“夢”があるからカゴを付けない

「なるほど、この店にも、何か思うところがあるのだろう」とその日はカゴを諦めて帰りました。後日、何気なく、その店のホームページを見たとき、店員が、「頑にカゴを付けなかった理由」が判明したのです。そこには、その自転車専門店の「企業理念」が書かれていました。

弊社の目標は、「使い捨て感覚のママチャリで溢れ返っている街を、皆様に愛着を持ってご利用いただける機能性やデザイン性の高いこだわりの自転車で一杯にする」ということ!

客の要望通りにカゴを付ければ、間違いなく売り上げが上がります。それでも付けないのは、「かっこいい自転車で溢れる街が見たい」という、この店の“夢”があるからだったのです。その上で、「あなたが選んだその自転車は、カゴを付けるような自転車ではない」ということを、私に「指導」してきたのです。

■「商売のための商売」にファンはつかない

「(儲かるから)店舗を拡大しました」「(流行っているから)始めました」そんな商売のための商売では、お店にファンはつきません。どれだけ商品に思いを込めているのか。大げさに言えば、その仕事を通じて、社会にどういった変化をもたらしたいのか。これからは、そんな理念があるお店が受け入れられていくでしょう。

「こだわり」を伝えたいからルールがある。ときには客を叱咤する。わからない人には、客になってもらわなくても構わない。「指導」は売り手の熱意を伝え、買い手の共感を獲得します。客に従う時代から、客に従わせる時代へ。「指導」が効果を発揮する場面は、これからも増えていくでしょう。

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本間 立平(ほんま・たつへい)
ショッパー・サイコロジスト
「買う瞬間」を科学的に捉えるショッパーマーケティグに従事。プロモーションの成否は、「買い手のインサイト(本音)の把握」にあるとして、「購買心理学」の重要性を提唱している。購買行動観察、ヒアリング、過去の勝ちパターンの分析に、行動経済学、心理学、脳科学などのセオリーを統合し、「買わせるメソッド」を確立。電通グループの「購買起点型マーケティング」の実行集団、「電通S.P.A.T.チーム」の創設メンバー。所属は電通テック。店頭購買行動モデル「ARCAS」の開発者。

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(ショッパー・サイコロジスト 本間 立平 写真=iStock.com)

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