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資産が少ないほうが"泥沼争続"引き起こす

プレジデントオンライン / 2019年1月5日 11時15分

写真=iStock.com/takasuu

働き盛りの世代が逃げられないのが「実家をどうするか」という問題。面倒だと放置してしまうのは危険だ。早めに手を打つにはどうすればいいか。今回、5つのテーマに応じて、各界のプロにアドバイスをもとめた。第5回は「兄弟姉妹の親争奪戦」について――。(第5回、全5回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年9月3日号)の掲載記事を再編集したものです。

■泥沼の「争続」を引き起こす遺産とは

相続を「争続」と言い表すことがあるのをご存じの方も多いでしょう。この言葉は、遺産分割を巡って親族が揉めるという相続の負の側面を端的に言い表しています。実際、相続を巡るトラブルは、家庭裁判所で受理した「遺産分割に関する処理」の件数だけでも、25年前の約1.5倍となる1万4662件に増加(2016年)。調停に持ち込まれるのはごく一部なので、日本中でこの数倍、数十倍の「争続」が繰り広げられていることになります。

こう言うと、「うちは遺産なんてないから大丈夫」と思われるかもしれません。ですが、実際には資産が少ないほうが揉めるのです。資産が多ければ、被相続人=親が自発的に相続対策を行うこともありますが、資産が少ない場合は「仲良く分けてくれればいい」と「ノーガード」の状態で死を迎えてしまうことが多いからです。ここから泥沼の戦いが始まります。

実際の例を紹介しましょう。ある家族は、兄夫婦が都内の実家で母親と同居し、弟夫婦は地方に住んでいました。そして、母親が遺言書を残さずに亡くなった。残ったのは、都内の土地・建物と、わずかな現金です。兄は、「母親の面倒を見た自分たちが家をもらう」と主張しました。しかし、弟は納得がいきません。「兄貴は都内に家賃も払わず住めているのに、自分たちはまだローンが残っている。実家は売って金をくれ」と主張しました。

このケースには、トラブルの種がいくつも潜んでいます。まず、相続財産のメインが不動産である点です。財産の中には、現金のように単純に分けられるものと、不動産のように分けられないものがあります。この場合、たとえ母親の持ち物であっても、兄夫婦の住まいでもあるため「住み続けたい」兄と、「売ってお金にしてほしい」弟は対立します。地方の不動産であれば、売ったところで大した金額にはならないので、兄が不動産を相続し、弟が兄から相当分の現金を受け取ることで問題は収束しますが、都内であればそう簡単に弟へ払える金額ではありません。

現金が少ない点も問題になることがあります。「親はもっと貯金をしていた。同居していた兄貴が使ってしまったのではないか」と弟から疑われるのです。体が不自由になった親のキャッシュカードを子どもが預かるケースは多いと思いますが、特に認知症の症状がある場合などは、後々それが問題になります。解決策としては、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」になっておくこと。「任意後見契約」として、事前に「自分の判断能力が低下した際はこの人に任せる」という契約を公証役場で結んでおくこともできます。

「介護」も火種のひとつです。この兄弟の場合、兄の配偶者は「介護をしたのは私だ」と言い、場合によっては「寄与分」を主張するかもしれません。「寄与分」とは、被相続人の財産の増加や維持に特別の貢献をした人に、貢献度に応じて相続分をプラスする仕組みのこと。「自分は寄与分を認められるはずだ」と私のもとへ相談に来る方もいますが、前述のように「特別の貢献」が必要とされるのが寄与分です。病床の親の介護をしたとしても、要介護度が高ければ行政に助けられる部分も多いもの。相続人全員の同意が必要なので、すんなり認められるものではないと思ったほうがいいでしょう。

▼兄弟姉妹が揉める火種チェックリスト
・遺言書がない
・遺産が不動産のみ
・遺産の中に大都市圏の高額な土地、建物がある
・きょうだいのうち親の介護が1人に集中していた
・介護が必要な親のキャッシュカードをきょうだいのうちの1人が預かっていた
・親と同居していたきょうだいが親の財産を引き出していた
・親が認知症になった

■もともと不仲なきょうだいのこじれ方

最大の問題は、遺言書がないことです。遺言書があれば、基本的にはそれに従って遺産を分割できますが、なければ話し合い=遺産分割協議が始まります。「法定相続分」という民法で決められた分け方の目安はありますが、従わなくてはいけないわけではありません。それぞれの思惑によって、「話し合い」は「揉め事」へと変容します。親が元気なうちに遺言書を残させるべきだったのです。

ポイントは「元気なうちに」という点。高齢であればいつ介護が必要になり、遺言書が書けない状態になるかわかりません。さらに、認知症の症状が出ていれば、たとえ遺言書があったとしても認められないケースもあるのです。

もともと折り合いが悪い兄弟なら、同居した兄が親に遺言書を書かせて「囲い込み」をすることさえあります。矛盾する内容の遺言書が2通あった場合、日付の新しいほうが有効になるので、弟に有利な(新しい)遺言書を作らせないためにも「一切会わせないぞ」というわけです。当然、親の死後は「無理やり書かせたのではないか」と弟に疑われ、「争続」は必至です。

▼よくある兄弟姉妹の揉めごと4大事例
【CASE1】もっとあるはずだ!
親が高齢になったり、認知症を発症するなどして、同居する子どもにキャッシュカードの管理を任せていると、後々、同居していなかった子どもから「もっと貯金があったのではないか」と疑われる。
【CASE2】住み続けたいvs売りたい
きょうだいのいずれかが親と同居していた場合、その家の資産価値が高いほど、「住み続けたい」人と、「売ってお金にして分けてほしい」人とで対立する。
【CASE3】親に会わせろvs面会謝絶
遺言書が2通あった場合、日付が新しいほうが有効になる。そのため、きょうだい仲が悪い場合、後から相手側にとって有利な遺言書を書かせないよう、親を施設に囲い込んで面会謝絶にしてしまう例も。
【CASE4】親の介護をした分、多く相続させろ
両親や義父母などを看続けても、貢献度に見合った財産分与が行われることはなかなかない。日常の世話や通院を手伝った程度では該当しないうえ、相続人全員の同意が必要になるためだ。

このようなトラブルを何千件と見てきた私から言える唯一の予防策は、きょうだい仲良く。そして、親が元気なうちに財産の分け方を家族全員に説明してもらうことです。相続トラブルは一見、金銭の取り合いに見えますが、その実、親の愛情の取り合いという非常に感情的な側面もあります。遺言書に「不動産は兄に残す」と書くだけでなく、その理由を親の口から伝えてもらう。兄嫁への感謝の言葉を伝えてもらう。これがあるだけで相続人=子どもの納得感はずいぶん違うのです。

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眞鍋淳也
弁護士
公認会計士。1995年、一橋大学卒業後、監査法人、会計事務所、法律事務所勤務などを経て2009年に南青山M's法律会計事務所を設立。06年成蹊大学にて法務博士号取得。

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(弁護士 眞鍋 淳也 構成=大高志帆 撮影=小倉和徳 写真=iStock.com)

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