河野外相「次の質問どうぞ」4連発の胸中
プレジデントオンライン / 2018年12月14日 9時15分
■動揺しながら「次の質問、どうぞ」を繰り返す
「朱に交われば赤くなる」とは、このことか。国会や記者会見でそっけない受け答えが目立つ安倍晋三首相の姿勢が、他の閣僚たちに伝播している。中でも河野太郎外相は12月11日の記者会見で日ロ交渉についての記者の質問を繰り返し無視する行動に出た。
河野氏は、原発推進路線に批判的な立場で知られ、「安倍1強」の中では自説を曲げずに、説明責任をはたすタイプとみられていただけに、驚きと失望の声が上がる。
少し長くなるが、記者会見の問題部分を再現してみたい。
記者「日ロ関係についてうかがいます。先日、ラブロフ・ロシア外相が、日ロ平和条約の締結について『第2次世界大戦の結果を認めることを意味すると、日本が認めることが最初の一歩である』というような発言をしていますが、この発言に対する大臣の受けとめをお願いします」
河野氏「次の質問、どうぞ」
記者「ラブロフ外相、ペスコフ報道官等々、いろいろな原則的立場の表明があります。それに対して、反論を公の場でするおつもりもないということでよろしいんでしょうか」
河野氏「次の質問、どうぞ」
記者「ロシア側からはどんどん、これまで通りの提案が出てきます。アンバランスな状況が実際の協議にも与えるという懸念もあると思うんですけど、その点に関してはどうお考えでしょうか」
河野氏「次の質問、どうぞ」
記者「なんで『次の質問、どうぞ』と言うんですか」
河野氏「次の質問、どうぞ」
ロシア関係の質問を受けている時の河野氏はメガネに手をやったりコップの水を飲んだり……と明らかに落ち着きがない様子だった。
■記者クラブの抗議に「神妙に受け止める」と回答
この後、別の質問が1問出たが、それにはていねいに回答。最後に再び記者から「『次の質問、どうぞ』というふうに回答されていますが、公の場面の質問に対して、そういう答弁をされるのは適切ではないんじゃないでしょうか」と問われると。河野氏は再び厳しい表情に戻り「交渉に向けての環境をしっかり整えたいというふうに思っております」と言い、会見を終えた。
会見後、外務省記者クラブは会見での誠実な対応を申し入れ、河野氏は「神妙に受け止める」と回答した。
■ロシアを刺激するのを恐れ「だんまり戦術」を続ける
河野氏が、記者の質問を「拒否」する理由は、分かりやすい。自身の発言でロシア側を刺激し、領土交渉にマイナスとなるのを避けたのだ。
日本国内では、安倍首相とプーチンロシア大統領の間で「平和条約締結後に歯舞、色丹両島を日本に引き渡す」とする日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで合意したのを契機に「2島先行返還」への期待が高まっている。安倍氏も強い期待を持っており、うまくいきそうな場合は来夏の参院選に併せて衆院を解散して衆参ダブル選を視野に入れている。
ただしロシア外交はしたたかだ。プーチン氏と安倍氏は過去23回会談を重ね、人間関係を構築してはいるが、いつハシゴを外されるか分からない。実際、記者団の河野氏への質問にあるように、ラブロフ外相らが盛んにけん制球を投げている。
これに対する日本政府の対応は「だんまり戦術」だ。いちいち反応して相手を刺激するとろくなことはない。安倍氏は国会で野党議員から「北方領土がロシア(ソ連)に不法占拠された」という従来の政府見解の確認を求められても「いちいち反応するのは差し控えたい」などと慎重な答弁を貫いている。そのあたりのことは「安倍首相は"改憲"から"領土"に乗り換えた」を参照いただきたい。
■せめて「答えは控える」と答えていれば
河野氏の発言もこの流れからきたものではある。それは分かるのだが、それにしても、ひどい対応と言わざるを得ない。例えばゼロ回答でも「政府の方針は変わりませんが、現在非常に敏感な時期ですので答えは控えさせてもらいます」と答えていれば大きな問題とならなかっただろう。
「次の質問、どうぞ」の4連発は、会見という場を通じて国民に説明責任を果たそうという姿勢を放棄したことになる。
安倍政権では、首相らが質問の趣旨をはぐらかす「ご飯論法」を使い、菅義偉官房長官ら閣僚は記者団の質問に対し「そのような指摘は当たらない」というように突き放した回答を連発するなど、説明責任を果たす意識が薄い。河野氏の対応はその中でも最たる例となった。
■大臣になると豹変する河野氏
河野氏の「二面性」についても触れておきたい。河野氏は安倍政権の中では異質な存在とみられることがある。若手、中堅議員時代には本会議で「造反」することもしばしばあった。自民党内では政府の原発政策と一線を画して「脱原発」の立場をとり、行政の無駄についても厳しい目を向けてきた。要するに今の自民党では珍しい「忖度しない」政治家という評価がある。
その一方で、閣内に入ると豹変するという批判もある。2015年、行政改革担当相に就任した時は、自身のブログの公開を「凍結」し、「過去の言動が政府方針と違うことを批判されるのを恐れたのではないか」と指摘を受けた。
いずれにしても閣僚になると、普段の「じゃじゃ馬」ぶりは影をひそめ、閣内不一致と批判されるような言動はほとんどない。
安倍政権の一員としての自覚があるということはいえるが、「大臣・河野太郎」は「1国会議員・河野太郎」とは別人のようになるのは間違いない。今回の言動は「大臣・河野太郎」らしいといえばらしいのだが、彼までも、安倍氏に忖度しているという印象を植え付けたのも事実。安倍政権に対する失望も広がるだろう。
■河野家のレガシーへの気負いもあったのか
河野氏の父・洋平氏は自民党総裁になりながら首相の座にはつけなかった悲劇の政治家として知られるが、外相を長く務め、対ロ外交に尽力した。祖父の一郎氏は鳩山一郎首相とともに日ソ共同宣言を実現させた立役者だ。河野家にとって日ロ外交は最重要テーマの1つであることは間違いない。それだけに、失敗できないという思いがあって「次の質問、どうぞ」につながったことは想像に難くない。
しかし、領土問題は、国民の関心が非常に高い。世論の理解を得ようとする努力を怠れば、支持を得られない。参院選で失速すればロシア側から足元をみられるのは確実。ロシアの出方ばかりうかがい、国民への説明責任を軽視すると、交渉が暗礁に乗り上げる可能性が高くなることは指摘しておきたい。
(プレジデントオンライン編集部 写真=時事通信フォト)
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