賢い女こそ、職場で男を立ててはいけない
プレジデントオンライン / 2019年3月6日 6時15分
■そもそも男はなぜ、自慢するのか
例えば「あの仕事は全部、俺がやったようなもんだよ」「仕事が忙しすぎて昨日は寝てないんだ」などと自慢してくる男性がいますね。ではそもそもなぜ、男性はそうした自慢をするのでしょうか。
私が専門とする男性学では、男性が男らしさを証明する方法に「達成」と「逸脱」があると考えます(図表1)。「達成」とは有名大学に合格したり大企業に就職したりし、競争を勝ち抜き、社会的に認められた価値を実現することです。それ自体も自慢のタネになります。対して「逸脱」とは、残業をたくさんしたり不健康であることを自慢したりするように、常識外れの行為によって自分のすごさを誇示しようとすることです。
多くの男性は子どもの頃から、いい学校に行っていい会社に入って出世しなさいと「達成」すべき目標を与えられますが、それができないときは「逸脱」に走るケースが多いのです。残業が多いことは本来、自分の生産性の低さが背景にあるわけで、何も自慢できることではないのに……と女性は違和感を抱くかもしれません。それでも彼らが自慢げなのは、そうした理由があるのです。
■自慢は、自信のなさの表れ
そしてそれをわざわざ言ってくる男性の心理を考えると、本当は自信がないんだと思いますね。例え、たいへんな仕事やあまり注目されないような仕事でも、自分がプライドを持ってやっていれば、周囲に自慢する必要なんてない。それを言ってくるというのは、他者から認められたいという気持ちがあって、とりわけ女性に感心してもらいたいのでしょう。
今の日本社会で男性は「就職して働くことが当たり前」なので、働いただけではほめられることがありません。それは、女性が家事育児をしても当たり前だと見られがちなことと同じです。つまり、そこには「ほめられたい」という心理が働いている。
■男性のアピールに付き合う必要はない
もちろん、「俺はすごいだろう」というアピールに女性が付き合う必要はありません。
理由の一つには、女性にとって職場で働く期間が長くなっていることがあります。ほとんどの女性が結婚・出産で退職していた時代と違い、2007年以降、出産後も辞めずに育休を取る女性が増えています(図表2)。
ここ30年ほどの変化を振り返ってみると、90年代にバブルが崩壊したときは一家の大黒柱である男性の所得が下がり、経済的な必要性に迫られてパートに出る主婦が増えました。そして現在、男性の給料はさらに下がっていますから、女性もパートではなくフルタイムで働こうとする人が増えているのです。
そうなるとおのずと会社を見る目も変わってくるはず。結婚退職するつもりなら、男性のえらそうな態度も我慢して飲み込むという考えもあったと思いますが、「この会社に20年、30年居続ける」と思えば、対等ではない状況をそのままにはしておけません。
■「さしすせそ」とお世辞を封印しよう
これまでは会社に数年だけ勤めるつもりで、「男性に対しては『すごいですね』と言っておけばいい。それで男性たちは喜ぶわけだから」というように割り切っていた人も多いと思います。
一般的な処世術に「女性が男性に言うと喜ばれる“さしすせそ”」というのがあって、その言葉は【さ】さすが、【し】知らなかった、【す】すごい、【せ】センス良いですね、【そ】そうなんですか、です。基本的に感心する意味のあいづちなんですね。男性の自慢に対してこうしたあいづちで反応すると自慢が成立してしまうので無視することが大事です。
お世辞も気をつけたほうがいいでしょう。例えば、年上の男性が「僕は45歳」と年齢を言ったとき、「えー、見えない」などとお世辞を言うと、男性はお世辞と思わず「そうか。俺って45歳には見えないんだ」と思ってしまう。そこからさらに「若いと言ってくれるということは、この子は自分を恋愛対象として見ているんだな」と誤解する。それはセクハラの温床にもなりえるので、とにかく余計なことは言わないほうがいいと思います。
■男性は言葉どおりに受け取ってしまう
このように、「すごいですね」と言ったりお世辞を言ったりすると、短期的には「あの子、いいよね」と男性からの評判は良くなるけれど、長期的に考えるとあまり良いことはありません。
私が大学の講義で「君たち女子が男子にすごいと言ってしまうのがいけない」と言ったとき、女子からのレポートに「私たちがすごいと言うとき、すごい(馬鹿だね)という意味を込めています」というものがありました。確かに、彼女たちは心からすごいと思っているわけではないのですが、男性は単純なので裏メッセージを受け取らない。言葉どおりほめられたと思ってしまうのです。
■男性の自慢をスルーする勇気が必要
私が東京大学の本田由紀教授と実施した合同調査では、「女性が男性を立てると物事がうまく進むことが多い?」という質問で、女性はそう思っているけれど、男性はそう思っていないという傾向が見えました。その差がどうして出るかと考えると、現実に女性は職場でも家庭でも男性を“立てて”いるが、男性には“立ててもらっている”という意識がないということなんですね。女性からすると、男性を立てても感謝されず何もいいことが起こらない。忙しそうにしているけれど成果はでていないような男性を図に乗らせてしまうだけなんです。
また、働き方改革の観点からしても、女性が男性を持ち上げてなんとかうまく回していくというような状況ではありません。残業していることをほめている場合ではないのです。
女性が反応しなければ「自慢男」も「勘違い男」も世の中から滅びていくはずなのですが、リアクションする人がいるからまだ残っているわけです。言われたときスルーしたら、そのときだけは気まずいかもしれませんが、今後、自分も長く居続けるだろう職場の文化を変える、もっと大きく言えば日本の男女関係を変えていくために、反応しない勇気が大事だと思います。
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大正大学心理社会学部人間科学科准教授
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。著書に、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など。
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(大正大学心理社会学部人間科学科准教授 田中 俊之 構成=小田慶子 撮影=市来朋久)
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