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退場願いたい50代モンスター上司の生態

プレジデントオンライン / 2019年4月1日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/maroke)

上司のちょっとした一言が、部下のやる気を大きく左右する――。部下のポテンシャルを最大に引き出せる“言葉力”に富む上司の特徴とは?

■職場の叱る環境が、この10年で激変

現代は、“上司受難の時代”と言えるかもしれない。

「最近は、パワハラやセクハラで訴えられないかとビクビクしながら部下と接している上司が非常に多い」

こう話すのは、精神科医で『「上司」という病』などビジネスパーソンの心理に関する著書が多い片田珠美氏だ。

今回、全国のビジネスパーソン1000人に対し、「職場の声かけ」というテーマでアンケート調査を実施した(2018年12月)。その中の「職場で上司が部下を叱る行為を目にする頻度は」という設問では、「頻度が減っている」が58.8%だったが、同様の質問を10年(プレジデント2010年9月13日号)に行ったときは「頻度が減っている」は25.0%にすぎなかった。この8年ほどで「上司が部下を叱る」ということ自体が大きく減少していることが見て取れる。

「今の50代以上の男性会社員の多くは、上の人間から頭ごなしに叱られて育ってきました。でも、今自分たちが同じことをやればパワハラだと言われかねない。そのため、部下とどうコミュニケーションを取ったらいいかわからない。ある意味、不遇な世代かもしれませんが、昔の罵倒型の指導が正しいわけでもないので、こればかりは上司も勉強して時代に適合していくしかないと思います。今でも体育会系の部活などで先輩から後輩への暴力や理不尽なしごきなどが問題になることがありますが、嫌なことをされた人がさらに下の立場の人間に対して同じことを繰り返し、連鎖が続いていく。今の上司には、実は内心では部下を厳しく叱りつけたいと思いながら、その気持ちを抑えつけている人が少なくないはず。だからこそ、これだけハラスメントが問題になっても完全にはなくならないのです」(片田氏)

現代の上司にはこうした“不遇”があることには同情の余地があるかもしれないが、「そこは訓練で変わるしかない」と語るのは、経営コンサルタントの小宮一慶氏だ。

「厳しいことを言うようですが、自分たちも理不尽な環境で仕事をしてきたから、部下にも同様に接するというのはレベルが低い話。リーダーは部下に対して上手に叱り、そして褒める必要があります。しかし、今の管理職は叱ることも褒めることもできない傾向があります」

■仏なだけではNG「正して導く」

今回の調査でも、前述のように叱る行為は減っているが、だからといって褒める行為を目にする頻度が大幅に増えているわけでもなかった。厳しい指導のもとで育ってきた上司が、社会情勢の変化の中で叱ることに及び腰になっているが、だからといって褒め方もわからないと戸惑っている様子が目に浮かぶようだ。

「僕はリーダーとして成功する条件の1つが、“人を心から褒めることができるかどうか”だと常々言っています。上司の仕事は部下の長所を引き出してチームとして結果を出すこと。そのためには、まずその人の長所を見つけ出さなくてはいけません。そしていいところは素直に褒める。褒めると言っても、『おだてる』とは違います。おだてるというのは、美点でもなんでもないところを持ち上げること。褒めるというのは、本当にいいところを見つけて相手に伝えることです」(小宮氏)

今回の調査では「好きな上司のタイプは?」という設問で「鬼タイプ」と「仏タイプ」の2択で選んでもらった。結果は、90.0%の人が「仏タイプ」を選択。まさに「好きな上司は仏が9割」というべき状況だが、やはり今の時代は叱るよりも褒めるべき、ということだろうか。

「それは違います。叱るときの言葉やシチュエーションには注意が必要ですが、部下が本当に間違っているときにはきちんと指摘しないと、信頼されません。長年培った知識と経験に基づいて部下を正しく導くことが、部下からの信頼と尊敬を得る一番の方法なのです」(片田氏)

片田氏は上司として大事にするべき事柄として以下の3つを挙げる。

「1つは、部下を信頼して仕事を任せること。細かいことまでいちいち指図して、小さな失敗も許さないような上司では部下から煙たがられます。2つ目は、いざとなったら最終的な責任は自分がとるという姿勢を打ち出すこと。最後は『間違っているときは正す』こと。ただ仏であればいいのではなく、言うべきときには言わなければなりません」

■女性部下は、上司を厳しく査定

「『話を素直に聞く気になる上司』の特徴」という設問では、「人間として尊敬・信頼できる」が男女共にトップで、次に「いざとなったら責任をとってくれる」が続いた。まさに片田氏の指摘通りである。

特に女性は「ふだんから部下の状況を把握・理解してくれている」「きちんと褒めてくれる」なども60%以上と男性より際立って高かった。「きちんと叱ってくれる」も45%を超えている。

「調査結果を見て感じるのは、女性のほうが個人を見てほしい、きちんと評価してほしいという傾向が強いこと。そして、全般的に男性よりも上司に対する要求が高いことですね。背景には、女性活躍社会と言いながらも、まだまだ女性管理職が多くはないこともあって、だからこそある意味上司に理想を求めすぎる傾向があるのかなと思います。また、女性は言葉やちょっとした態度の変化にも敏感ですから、女性部下を多く持つ上司は誰に対しても平等に接するなどの注意が必要だと思いますね」(小宮氏)

一方で、「『あなたからは言われたくないと感じる上司』の特徴」としては、女性は「部下の状況について、細かいところまで把握・理解してくれない」が男性より顕著に高い。小宮氏の指摘通り、女性部下については男性以上に仕事をよく見ること、認めることが重要と言えそうだ。

■男性部下にも女性同様の配慮を

では、具体的にどのように部下とコミュニケーションを取ったり、叱ったり褒めたりすればいいのだろうか。

「まずは、人間としての基本ですが、挨拶から始めましょう。コミュニケーションというのは、意味と意識の両方が大事です。『この仕事をお願いできる?』という一言にしたって、誰から言われるかによって部下の受け止め方は変わります。信頼も尊敬もできない人から言われてもやる気を出して取り組もうとはしてくれないでしょう。その人間関係は、普段から挨拶したり、一緒にランチに行ったり、ときには飲みに行ったりという日ごろの会話が大事なんです」(小宮氏)

まずは日常的なコミュニケーションを大事にすることから始めるとして、難しいのは「叱り方」だ。部下の誤りを正すとはいうものの、言葉や伝え方を間違えるとそれこそ「パワハラ」となりかねない。

「今の若い人たちは子どもの頃から叱られた経験が少なく、打たれ弱い傾向があります。そんな人たちを大きな声で怒鳴りつけたら、いくらこちらの指摘が正しくても、向こうは萎縮してしまうでしょう。女性部下への接し方と同様、若い男性部下への叱り方も配慮したほうがいいですね。例えば、いきなりダメなところを指摘するのではなく、『君が頑張っているのはわかっている』『ここはできている』と相手を認めるところから始めて、『でもこの部分は少し足りない』と指摘し、こうすればよくなるということを具体的に指示する。このように段階を踏みながら、一つ一つ指摘するといいと思います」(片田氏)

調査でも、「部下を奮い立たせる一言」の実体験として、片田氏の言う「頑張っているのはわかっている」という言葉が入っていた。ほかにも「普段はできてるのに」という言葉もあり、叱る前に相手のいつもの仕事を認めるようなワンクッションがあると、部下側も指摘を素直に受け入れやすいようだ。さらに「できると思っているから言う」「こんなものじゃないでしょ?」というような期待感を込めた言葉のほか、みんなの前で「君に任せる」と言うなど、部下を信頼し、能力を認めるような発言がやはりモチベーションアップになるようだ。

また、「申し訳ない。ここから頑張っていこう」などと、まずは自分の非を素直に認める発言をすると部下からの信頼につながる傾向がある。

■鬼上司になるなら能力と実績が必要

逆にNGでやりがちなのが、あいまいな指示や叱り方だ。「これぐらい、昔は誰でもできていたことだぞ」「そんなこともわからないのか」といった、どこがダメなのかも不明瞭でただ罵倒するような発言だ。

「具体的な指示ができない上司はどこにでもいます。プレゼンの資料のどこをどう作り直せばいいのか、そういった指示も出さずに『やり直せ』『頑張れ』しか言わない。こういう上司がいるとトラブルのもとになります。あとは、大勢の前で叱りつける人ですね。ポジティブな声かけは人前でやると効果が上がりますが、ネガティブな言葉を人前でぶつけるのは百害あって一利なし。特に男性はプライドにこだわる人が多いので、余計に傷ついたり反感を持たれたりします」(小宮氏)

また、「俺が社長に怒られるんだぞ」といった愚痴めいた発言も、部下から嫌われる。「辞めてもいいんだぞ」「評価が下がっても知らないぞ」というような人事権を楯にした脅しや侮辱的な発言はもってのほかだ。

最後に、今は1割しか求められていない「鬼タイプ」の上司について片田氏に聞いてみた。

「鬼タイプはまったく必要ないというわけではありません。どの業界にも、尊敬を集めているけれど厳しいと評判の人っていますよね。それは、その人に対する大きなリスペクトがあるから通用する。能力と実績があるカリスマ的な存在だから許されているんですね。今の時代に鬼上司になるのはそれだけハードルが高いということは肝に銘じておいたほうがいいと思います」(片田氏)

基本は仏タイプでいながらも、明らかな間違いや本人のためにならない思い込みなどについては、言葉をはじめ伝え方に配慮しながら叱る。これが、今の時代に適合した上司像ということになりそうだ。

 

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片田珠美
精神科医
大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。パリ第8大学留学。心の病や社会問題を研究。『高学歴モンスター』など著書多数。
 

小宮一慶
1957年生まれ。京都大学法学部卒業後、銀行勤務などを経て、96年に小宮コンサルタンツを設立。『社長の教科書』『ビジネスマンのための「リーダー力」養成講座』など著書多数。
 

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■▼もはや、「人を叱って動かす」時代は終わった

調査方法:編集部とランサーズで実施。1000人から回答を得た。調査日は2018年12月12~27日。

(ライター 衣谷 康 撮影=岡村隆広 写真=iStock.com)

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